ADKの機能を覚えることと、エージェントを設計できることは別です。LLMラッパーとエージェントを分ける3要件、観測から評価までの実行ループ、6つの中核コンポーネント、マルチエージェント協調の5パターン、品質を測る6指標、開発の7フェーズ。実装に入る前に押さえておくべき設計知識を学べるおすすめの書籍は『現場で役立つ マルチエージェントAI設計入門』です。今回は、書籍の「1.1 エージェントの基本概念」を抜粋してお届けします。

現場で役立つ マルチエージェントAI設計入門 Google A2A×ADKで実現する堅牢な運用システム
著:為藤 アキラ
発売日:2026年08月20日(水)
定価:4,180円(本体3,800円+税10%)
本書について
本書は、AIエージェントをビジネスの現場で確実に稼働させるための実践的な解説書です。GoogleのADK・A2A・MCPを駆使し、複数エージェントが連携する高度なシステムの設計・実装手法を解説します。「実験環境では動いたけれど、本番運用に乗せられない」「複数のエージェントを連携させると途端に破綻する」「トークンコストが爆発してしまう」といった現場の課題を解決し、堅牢なマルチエージェントシステムを構築するためのノウハウをまとめました。
エージェントの定義
AIエージェントとは、目標達成のために自律的に動作し、環境を観測して計画・行動・評価を反復するソフトウェアシステムです。
この定義には3つの要素が含まれています。
- 目標指向:ユーザーの質問に答える・旅行プランを作成する・コードをレビューして修正するなど、達成すべきゴールを持ちます
- 環境との相互作用:外部環境(API、データベース、ファイルシステム、他のエージェント)と能動的にやり取りします
- 反復的な自律行動:1回の入出力で終わるのではなく、状況を観測し、計画を立て、行動し、結果を評価して計画を修正するサイクルを繰り返します
Stuart RussellとPeter Norvigの古典的教科書『Artificial Intelligence: A Modern Approach』では、エージェントを「センサーを通じて環境を知覚し、アクチュエータを通じて環境に作用するもの」と定義しています。LLMの登場により、この知覚→推論→行動のループを自然言語で実現できるようになったのが現在のAIエージェントです。
LLMラッパーとの違い
LLMラッパーとは、LLMのAPIを呼び出して結果を返すだけのアプリケーションです。チャットボットの多くはこの形態に該当します。エージェントとLLMラッパーを分ける要件は以下の3つです。
要件1:自律性(Autonomy)
LLMラッパーは「質問→回答」の1往復で処理が完結します。対してエージェントは、目標達成のために複数のステップを自律的に実行し、最終的な成果物を生成するまで自ら動き続けます。
「来週の大阪出張の宿を予約して」というリクエストに対して、LLMラッパーは「大阪のホテルを検索して予約することをお勧めします」と回答して終わります。エージェントは、カレンダーAPIで出張日程を確認し、ホテル予約APIで空室検索・予算照合・予約実行・カレンダー反映まで自ら完了します。
要件2:ツール使用(Tool Use)
エージェントは外部ツールを呼び出す能力を持ちます。ツールとは、API呼び出し、データベースクエリ、ファイル操作、Web検索、コード実行など、LLM単体では実行できない操作を指します。ADKはツール使用を中核機能として扱います(ツール体系は第2章、MCP(Model Context Protocol、モデルコンテキストプロトコル)統合は第6章で扱います)。
要件3:計画能力(Planning)
エージェントは目標を達成するための計画を立てる能力を持ちます。複雑なタスクを分解し、実行順序を決定し、各ステップの結果に基づいて計画を動的に修正します。
Chain of Thought(CoT)やReAct(Reasoning + Acting)といった推論パターンは、エージェントの計画能力を支える基盤技術です。ADKではAgentがLLMに計画やツール選択を委ね、Workflow Runtimeが実行順序を構造化された形で制御します。
下表にLLMラッパーとエージェントの比較を示します。
| 特性 | LLMラッパー | AIエージェント |
| 処理モデル | 1往復(入力→出力) | 反復ループ(観測→理解→計画→行動→評価) |
| 自律性 | なし(ユーザーが毎回指示) | あり(目標に向かって自律的に行動) |
| ツール使用 | なし(LLMの知識のみ) | あり(API、DB、ファイル、他エージェント) |
| 計画能力 | なし(即座に回答) | あり(タスク分解、実行順序決定) |
| 状態管理 | なし or 単純な履歴保持 | セッション、状態、長期記憶の階層管理 |
| エラー処理 | なし(ユーザーがリトライ) | あり(自動リトライ、代替戦略の選択) |
下図にLLMラッパーとエージェントの構造比較を示します。
エージェントの実行ループ
エージェントの動作は、観測→理解→計画→行動→評価の5ステップからなる実行ループで整理できます(下図参照)。
-
観測(Observe):ユーザーの入力、前回のツール実行結果、セッションの状態など、判断に必要な情報を環境から収集します。ADKでは
InvocationContextがこのフェーズで利用可能な情報の範囲を定義します - 理解(Understand):収集した情報をコンテキストとして統合し、現在の状況を理解します。ADKのコンテキスト型は、このフェーズで参照できる情報の範囲と権限を用途ごとに制御します(書籍の1.2.2項で詳述)
-
計画(Plan):複雑なタスクをサブタスクに分解し、実行順序を決め、各ステップで使うツールを選定します。ADKの
AgentはLLMの推論能力を使ってこの計画を立て、Workflow Runtimeは計画の実行構造を提供します -
行動(Act):計画に基づき、API呼び出し、データベースへの書き込み、サブエージェントへのタスク委譲などツールを実行して環境に作用します。ADKの
FunctionToolやMcpToolsetがこのフェーズの実行基盤を担います -
評価(Evaluate):行動の結果を検証し、目標に近づいたかどうかを判定します。期待どおりなら次のステップに進み、そうでなければ計画を修正してリトライします。ADKの
adk evalはこの評価フェーズを開発プロセスに組み込むためのツールです
マルチエージェントについて、体系的に解説した書籍が発売中です!

現場で役立つ マルチエージェントAI設計入門 Google A2A×ADKで実現する堅牢な運用システム
著:為藤 アキラ
発売日:2026年08月20日(水)
定価:4,180円(本体3,800円+税10%)
本書について
本書は、AIエージェントをビジネスの現場で確実に稼働させるための実践的な解説書です。GoogleのADK・A2A・MCPを駆使し、複数エージェントが連携する高度なシステムの設計・実装手法を解説します。「実験環境では動いたけれど、本番運用に乗せられない」「複数のエージェントを連携させると途端に破綻する」「トークンコストが爆発してしまう」といった現場の課題を解決し、堅牢なマルチエージェントシステムを構築するためのノウハウをまとめました。
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為藤 アキラ(タメトウ アキラ)
株式会社BLUEISH代表取締役CEO兼CTO。20年のソフトウェア開発と複数社でのCTO経験を経て、2013年より画像・映像の機械学習に従事。2023年からRAGを軸に生成AIの業務実装を重ね、2025年、法人向けAIエージェント基盤「BLUEISH Agents」を提供開始。Google ADK...
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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社
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