Hypeに踊らされず
Hype Cycleを確認する事は重要だと冒頭で書きましたが、これは同時にHypeに踊らされない事が大切であることを意味しています。テクノロジーを正しく理解し、正しく使う、つまりHype Cycleのピークにあるとき、または幻滅期に入っている時には、特に原点に返ってMashupを見つめ直すことが必要です。
Mashupがそもそも注目されたのは、Traditionalなシステム開発手法に対するアンチとして登場したためです。SOAを代表格に、従来のエンタープライズ向けService Integration型の開発手法は、XML、SOAP、WS-xxの各種スタンダードの乱立により複雑になってしまい、テクノロジーだけでなく開発手法、ツール群も発展すればするほど、手軽にアプリケーションを開発するプラットフォームとしての位置づけから離れていってしまいました。
一方、MashupはRESTful Web APIや、Atom/RSS、JavaScript/Ajaxと、手軽なテクノロジーですぐにリッチなアプリケーションを開発できる環境、手法として注目されました。Web 2.0 Expo San FranciscoにおいてWebAPI/Mashup webの紹介で有名なProgrammableWebのJohn Musserが、エンタープライズ領域におけるMashupのトレンドを説明するスライドの中で、SOA型のアプリケーション開発とMashup型との比較を紹介しています(プレゼンテーション資料※PDF)。Mashupは、これまでの開発手法の代替と捉えるのではなく、ダイナミックなWebアプリケーションを短期間で開発手法として理解することが大切です。つまり、外部のデータを使い、簡単にダイナミックなWebアプリケーションを開発する手法としてMashupは、今後もその利用が拡大するということです。
Mashupが、注目すべき新しい開発スタイルであることには変わりませんが、それだけですべてのシステム、アプリケーションができあがるわけでもありません。外部の複数の有用なデータをWebAPIでWebアプリケーション内で簡単に活用する事、これがMashupの本来の姿であり、それ以上でもそれ以下でもありません。あえて踏み込むとすれば、Mashupはその開発手法よりも、Web API経由で提供されるデータをどう活用するかという事の方が重要なのです。
InformationとTechnologyを活用する
データをどう活用するのかという意味では、Web 2.0のコンセプトにも通じるところがあります。Web 2.0はMashupより早い時期にHype CycleのPeakを過ぎ、2008年はどん底の幻滅期にありますが、Web 2.0の提唱者のTim O'Reillyが、Web 2.0 EXPOでこのように発言しています。
"Web 2.0 is about finding meaning in user-generated data. and turning that meaning into real-time user-facing services"
「Web 2.0はユーザーの生成するデータから何かしらの意味、それをリアルタイムのユーザー向けてサービスに変えていくこと」
さらに彼は、「その発展はこれからが本番だ」と付け加えていました。Mashupも同様です。Mashupという手法は、「ネットワーク上に散財するさまざまな簡単に利用可能なデータやデータ加工サービスを組み合わせて、新たな価値を生み出すサービスを生み出すこと」が重要です。データをどう活用するかという本質は、従来のITと何ら変わりませんし、既に「やりつくした」と考えるのは早計です。
私を含めて、IT関係者はどうしてもテクノロジーの側面からITを見がちです。例えば、コープ札幌はPOSデータを有償で公開しています(コープ札幌の宝箱サービス)。Mashup、Web 2.0のコンセプトから考えれば、さらにWeb API経由で、リアルタイムの情報を開発者に向けて限定でも無償公開して頂きたいところですが、こういった価値ある情報に着目し、テクノロジーで他のデータと結びつけ、新たな価値を生み出せるのかを考える事こそ、ネットワーク時代のITにおけるMashupの本来の姿です。
Mashupのためのツール、Ajaxのテクニック、サーバ・テクノロジー……、これらももちろん重要な要素ですが、ITがユーザーに新たな価値を提示できるかが、最も大切であることには誰も異論はないはずです。