自由に技術は選べるものなのか
上記を読むと、好きに技術を選択できるように解釈できそうです。実際、今まではITベンダーの裁量に委ねられていたと言えます。調達仕様書にも採用すべき技術については触れられてきませんでした。調達仕様書に触れられていなかったのは、調達仕様書に何を記述しなければならないかの指針となっている「業務・システム最適化実施指針(ガイドライン)」(PDF)に採用すべき技術が定められていなかったためです。
これでは、電子政府が目指す最適化もおぼつきません。ガイドラインで示された技術体系だけでは選択すべき技術が明らかではなかったという指摘が以前からありましたが、それを補うものとして冒頭で紹介したTRMが公表されました。技術ドメインごとに定義が示され、機能要件、非機能要件、標準的な技術が「必須」「選択」で明確に示されており、何を採用すべきかが理解できる文書となっています。最適化に近付くための大きな前進と言えるでしょう。
ガイドラインとの関係
詳しくは、p7の「2.1.1.最適化指針との関係」を読めばわかりますが、ガイドライン中の以下のキーワードを推進するための技術情報をTRMが提供していますことがわかります。
- 共同利用
- 相互互換性を確保
- 基本システムの統一化
- 職員のコンピュータ端末は、各府省内で整備されるLANの利用端末を用いる
- ネットワーク回線は、府省内で整備されるLANその他の基盤となるネットワークを活用する
- 霞が関WAN及び総合行政ネットワーク(LGWAN)を活用する
- 国際標準又は事実上の標準を採用し、オープンシステムとする
- 関係する複数の情報システムに係る情報セキュリティ対策を包括的に行う
- バックアップ・システムを整備する
オープンな標準とは
オープンソースという言葉を何気なく使ってきましたが、「オープン化」と「オープンな標準」には定義が存在します。「6.推奨される技術標準」に「オープン化」と「オープンな標準」の定義がありますので、電子政府におけるオープンの意味を理解しておくべきでしょう。
「標準」の優先順位
p169に標準の優先順位の記述があり、採用すべき標準がどれであるかの判定に使用できます。以下がその引用となります。
「政府調達に関する協定」第六条第二項に従い、調達仕様で参照する標準は、国際規格及び日本工業規格を優先する。対応する国際規格又は日本工業規格が存在しない場合は、次いでそれ以外のオープンな標準を参照する」
採用すべき技術は何か
「5.技術ドメイン」に技術ドメインの機能要件、非機能要件、標準的な技術が明示されており、採用すべき技術がわかります。p40のOLAPを例に挙げると、機能要件として13項目、非機能要件はなく、標準的な技術2つが示されています。たとえば機能要件の2番目は「リレーショナル・データベースかCubeと呼ばれるあらかじめ最適化処理されたデータマネジメントシステム等を用いていること」とあり、標準的な技術にはSQLやMDX(Multi Dimensional Expressions)が必須として示されています。他の技術ドメインについてはTRMを参照ください。
調達ごとのカスタマイズが必要
参照モデルである以上、調達ごとにTRMはカスタマイズされる必要があり、それが調達仕様書に明示されることになります。まだまだ調達仕様書にはそこまでの記載があるものはありませんが、今後明記される方向に進むでしょう。ITベンダーとしてはそれに準拠した製品の選択を行う必要があります。
XMLを例にとると
p169から引用すると
「データ形式に関するオープンな標準が複数ある場合は、プラットフォームや特定技術への依存度の低いXMLを用いたものを優先的に採用し、XMLを用いたオープンな標準が複数存在する場合には、その形式をサポートする製品・ベンダーが複数存在するもののうち、市場性を考慮してより多くの製品・ベンダーに支持されると予想されるものを優先的に採用する」
とあり、オープンな標準のデータ形式として採用することが望ましい旨の記載があります。またXMLスキーマについては、W3C XML Schemaが標準となっています。DTDやRelaxNGの採用の可能性は低いとみられます(筆者個人としてはRelaxNGの普及を望んでいましたが、大勢が決したようです)。
2009年内に作成される文書をもってTRMは補完される
TRMに関する文書は執筆時点で当文書しか存在しません。ただし、2009年内に以下の2つの文書が揃って完成となります。今後システム開発を行う場合、この2つの文書が公開されているか注意が必要となります。
- 「情報システム調達のための技術参照モデル(TRM)活用の手引」
- 「情報システム調達のための技術参照モデル(TRM)維持管理の解説」
SOAやSaaSが重奏低音として響く
執筆時点ではIT業界はクラウド一色に塗りつぶされた感があります。そういう私も現在、クラウドで使用するツールの開発を行っており、見事に波に巻き込まれた形です。そのせいか、それまで賑やかだったSOAの話もトーンダウンしています。筆者の考えるところでは、クラウドが一旦落ち着いてきたら、クラウドでのSOA化という開発スタイルが出てくると考えています。TRMのp27ではSOAやSaaSは次のように認識されています。
「現状ではSOAやSaaS 等の技術の普及・浸透は十分でなく、その適用への過渡期であるため、最終的な解決までには相当の時間が必要と考えられる。特にCについては、後述の段階的なアプローチの一環と位置づけ、共通業務として共通基盤開発業者が整備するよりも、個別業務内に閉じて個別業務開発業者が開発する形態を第1 段階としては推奨する」
SOAやSaaS自体が時期尚早と言っているのではなく、ビックバン的な適用は控えましょうと捉えることができます。SOAについては随所に言及されており、改訂版では位置づけが変わる可能性が大きい技術ドメインになると筆者は予測しています。
補足:クラウドのその後の動き
当記事の公開に前後し、クラウドに関し、総務省と経済産業省に動きがありました。省庁のクラウドに対するスタンスを知る上で必要と考えリンクを追加します。
次回は本編の続きに戻り、省庁システムを構築する上で必要な、ネット上で公開されている「査読すべき資料」を紹介します。
