はじめに
本稿では、マイクロソフトの新しい開発環境である「WebMatrix」について紹介します。WebMatrixの機能や使用方法について説明し、実際にWebMatrixを使用してデータベースと連携するサンプルWebサイトを作成してみます。
対象読者
- WebMatrixに関心がある方
- Razorに関心がある方
- WebMatrixを使用したWebサイトの開発に関心がある方
WebMatrixの紹介
WebMatrixとは、2010年7月にアナウンスされたマイクロソフトによる新しいWebサイト開発環境です。以前の「ASP.NET Web Matrix」と名前が似ているものの、全く異なる新しい開発ツールです。本稿執筆時点では、WebMatrix Beta 3が最新となっています。
WebMatrixは、Visual Studioと同様、ASP.NETによるWebアプリケーション開発をサポートします。そして、マイクロソフトの最新のWeb技術である、IIS Developer Express、SQL Server Compact Edition、Razorが組み込まれていることが大きな特長の一つです。簡単に、これらの技術について説明します。
- IIS Developer Express:IIS 7.5互換の開発用Webサーバー。PHPアプリケーションも動作可能。管理者権限を必要とせずASP.NET開発サーバーと同様の手軽さで、IIS 7.xのすべての機能をサポートします。
- SQL Server Compact Edition:インストール不要のファイルベースで動作する軽量SQL Server。必要に応じて、SQL Server ExpressやSQL Serverに変更なしでアップグレードが可能。
- Razor:ASP.NETの新しいビューエンジン。「@」で始まるシンプルで効率的な記法が特長。ヘルパーと呼ばれるライブラリにより、TwitterやBingなどのWebサービスの機能を簡単に利用できる(コラム参照)。
WebMatrixの別の大きな特長として、「WordPress」や「DotNetNuke」などの有名なオープンソースWebアプリケーションを使用して、Webサイトの構築やカスタマイズが出来ることが挙げられます。ASP.NETだけでなくPHPによるオープンソースWebアプリケーションにも対応しているのが魅力的です。
他にも、SSLやPHPのサポート、HTTPリクエストの履歴表示、Webサイトの不具合を知らせるレポート、Webサイトの発行機能など、Webサイトの構築、管理、配置などに様々な便利な機能が提供されています。
このように、開発環境、Webサーバー、データベースがオールインワンで揃い、既存のオープンソースWebアプリケーションの資産を有効活用できるため、WebMatrixはWebサイトを気軽に素早く開発するのに適した環境と言えるでしょう。また、Visual Studioおよび無償版のVisual Web Developer Expressよりも、さらに入門者向けの開発ツールとして使用する機会もあることでしょう。
また、WebMatrixからより本格的な開発環境であるVisual Studioや、IIS、SQL Serverへの移行も簡単に行えるため、熟練した開発者であっても、WebMatrixで用意されているテンプレートや既存のオープンソースWebアプリケーションを使用してまずWebサイトを素早く構築し、その後、Visual Studioによる開発やカスタマイズを行うという開発スタイルを取ることも可能となっています。
Razorとは、最新のASP.NET MVC 3にも含まれている、ASP.NET用の新しいビューエンジンです。特長として、シンプルな記法で容易に習得可能、Visual Studio 2010のIntelliSenseに対応、単体テストが可能などが挙げられます。言語としては既存のC#やVisual Basicを使用します。
Razor記法では、今までASP.NETやASP.NET MVCで使用していた「<% ... %>」の構文に代わりに、「@」で始まる構文を使用します。コードブロックを終了するため記号はなく、パーサーが自動的に判断してくれます。また、表示内容は自動的にHTMLエンコードされます。
Razorには、ヘルパーという仕組みも備わっています。ヘルパーを使用すると、わずかなRazor構文を記述するだけで、TwitterやVideo、FileUploadなどの様々な機能を提供するHTMLを簡単にWebサイトに組み込むことができます。ヘルパーを独自に実装することも可能です。提供されている主なヘルパーを表にまとめてみます。
ヘルパー | 説明 |
Analytics | Google AnalyticsやYahoo Analytics |
Bing | Bingの検索ボックスを表示 |
Chart | チャートを表示 |
Facebookの「いいね!」ボタンを表示 | |
FileUpload | ファイルアップロード用コントロールを表示 |
Twitterの特定のユーザーや検索ワードのツイートを表示 | |
Video | FlashやWindows Media Playerなどを使用して動画を表示 |
WebGrid | データのグリッド表示 |
WebImage | 画像ファイルの表示 |
WebMail | SMTPメール送信機能 |
Razorについては、Scott Guthrie氏のブログの翻訳記事「“Razor”の紹介 - ASP.NET向け新ビュー・エンジン」や「ASP.NET MVC 3: Razorでのレイアウト」で詳しく説明されていますので、参照してください。
WebMatrixをインストールしてみよう
それでは、WebMatrixをインストールしてみましょう。本稿執筆時点では、WebMatrix Beta 3が最新版となっています。なお、WebMatrixは、Visual StudioおよびVisual Web Developerと共にインストールすることができます。
WebMatrixの公式サイトにアクセスし、[今すぐダウンロード]ボタンをクリックします。すると、Web Platform Installer(Web PI)が起動します。Web PIがインストールされていない場合には、Web PIのインストールが先に実行されます。起動したWeb PI上では、WebMatrix Beta 3のインストールウィザードが表示されますので、後は指示に従ってインストールします(図1)。
これで、WebMatrixのインストールは完了です。