クラウド・マーケットプレイスの先にも充実した支援
いうまでもなく、クラウドは今後のIBMにとって中核をなす重要な事業である。その中でクラウド・マーケットプレイスは、クラウド事業の周知、拡大、運営といった大きな役割を果たすサービスとなる。紫関氏はクラウド・マーケットプレイスの意義について次のように話す。
「何より、クラウドを利用してアプリケーションを構築したいお客様が、IBMの営業担当者や技術者を呼ぶにはまだ計画が熟していないといった状況でも、当社のクラウドに関する調査・検討から、プロジェクトを速やかに進められるようにすることです。特に、Systems of Engagement(顧客との絆を深めるためのシステム。以下、SoE)の構築では、この点が大きなメリットになってきます。
SoEの典型例にモバイルアプリケーションがありますが、とにかくライフサイクルの回転が速いため、発案から実装、公開までを迅速に行わなければなりません。そのため、実装にはPaaSの利用が向いています。Bluemixであれば、モバイルアプリケーションのバックエンドサービス[1]として「Mobile Data」を提供しています。また、サーバー側のビジネスロジックで、レガシーシステム(Systems of Record)との連携が必要であれば、レガシーシステムのAPI呼び出しを支援するソリューション「API Management」を利用できます。
ただし、こうした具体的な情報は取得しやすいようにベンダーから提供されていなければ、計画当初からつまづくことになります。この問題を解決するのがクラウド・マーケットプレイスです。SoftLayerやBluemix、各種SaaSなどの情報を整理して提供するほか、どのサービスにも無料で使用可能な期間が設けられており、コストなしに機能を試すこともできるようになっています。
さらにIBMでは、電話やチャットによるお問い合わせを受け付けるサービスデスクも設けています。本格的な検討が必要となれば、当社の営業担当者や技術者がお客様のもとへうかがい、直接ご説明などを差し上げることも行っています。こうしたオフラインでのコンシェルジュサービスが、セルフサービスでの利用を前提とする他社のクラウドとの差別化点であり、お客様がIBMのクラウドを選択される理由になると考えています」(紫関氏)
[1] モバイル端末のデータをサーバーに保存するなどの機能を提供するサービス。一般にMBaaS(Mobile Backend as a Service)とも呼ばれる。
サービスの向上はリーンスタートアップの流儀で
そして最後に、紫関氏が「私の希望」として語ったのが、「イノベーションにクラウドがいかに役に立つのか、ここをLOB(ビジネスユーザー)や経営者に知ってもらいたい」ということであった。
「クラウドは、技術者の間では一定の理解が進んだと思いますが、LOBや経営者層には、まだその理解が浸透していない。クラウドは登場当初、サーバーやソフトウェアを購入しなくて済むもの、つまりコストカットができる可能性があるということだけに注目が集まりました。しかし。大切なのは、これからの先進国にはイノベーションが必要だということ。イノベーションなしに、コストや人員のボリュームだけを問題にして事業を進めていくのでは、いずれ日本はやっていけなくなると思う。先進国はたゆまぬイノベーションを続けていなくてはならないのです。
また、最近のイノベーションの特徴は“スピード”です。自動車は登場して普及するまでに125年かかった。しかし、インターネットは20年ほどで普及した。つまり、イノベーションのサイクルはとにかく速くなっているわけです。誰も使わないものはイノベーションとは言わないとIBMは思っている。皆が使い、世界を変えてこそイノベーションなのです。
こうした変革を推進するためにも、クラウド・マーケットプレイスはリーンスタートアップの流儀で、皆様に使っていただく中でサービスを高めていく努力を続けていきます」(紫関氏)