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リーンスタートアップの流儀で進化を続ける「IBM クラウド・マーケットプレイス」がユーザーとIBMパートナーのイノベーションを支える

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 日本IBMは9月10日、同社が提供するSaaS、PaaS、IaaSサービスを購入できるWebサイト「IBM クラウド・マーケットプレイス」(以下、クラウド・マーケットプレイス)の公開を発表した。IBMでは全社を挙げてこのクラウドサービス市場の立ち上げに注力しており、同社が提供するサービスの情報入手から製品購入までを一気通貫で実現するポータルサイトの役目すら、構想にあるようだ。

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 IBMのクラウド戦略の一翼を担うクラウド・マーケットプレイスのねらいや今後の展開について、日本アイ・ビー・エム株式会社 GTS事業 クラウド事業統括 理事 クラウド・マイスターの紫関昭光氏に聞いた。

日本アイ・ビー・エム株式会社 GTS事業 クラウド事業統括 理事 クラウド・マイスター 紫関昭光氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 GTS事業 クラウド事業統括 理事 クラウド・マイスター 紫関昭光氏

 

IBMクラウドの利便性を飛躍的に高めるクラウド・マーケットプレイス

 米IBMは、昨年7月にIaaSベンダの米SoftLayer Technologiesを買収。同社が提供してきたIaaSサービス「SoftLayer」を、IBMのサービスポートフォリオに組み込んだ。また、今年2月にベータ版としてリリースされたIBMのPaaSサービス「Bluemix」も、6月30日付けで正式版がリリース。これらを含む100を超えるという同社およびビジネスパートナーのクラウド製品・サービスを順次、クラウド上でも展開する形で、IaaSからSaaSまでをカバーするクラウドサービスを構築してきた。提供中のサービスの数は127に及ぶ(10月2日現在)。

 一方で、IaaS、PaaS、SaaSはそれぞれ成り立ちが異なるため、ユーザーは必要なサービスの情報収集や探索、試用、購入を行うのに統一された窓口がなく、それぞれのWebサイトを回るなどの手間がかかっていた。クラウド・マーケットプレイスは、この問題を解決する施策として登場した。クラウド・マーケットプレイスでは、SoftLayerやBluemix、SaaSで提供されるさまざまなサービスが、その機能や用途に応じたカテゴリ別に並べられており、開発するアプリケーションやシステムに必要なサービスが探しやすくなっている。

IBM クラウド・マーケットプレイス
IBM クラウド・マーケットプレイス[リンク

 

 それでも、数多くのサービスをの中から構築したいアプリケーションに必要なものを的確に選ぶのは容易ではない。そこでIBMでは、クラウド・マーケットプレイスに「ゲーム業界」や「DevOps」といったユーザーシナリオ(構築したいアプリケーションのタイプや業種など)から適切なサービスを選べるコンテンツを用意している。クラウド・マーケットプレイスのトップページにある「今すぐ始めましょう」のリンク先の画面で、構築するアプリケーションにマッチしたユーザーシナリオを選択すると、そのシナリオに適したサービスを教えてくれる。

ユーザーシナリオに適したサービスを教えてくれる
ユーザーシナリオに適したサービスを教えてくれる

 

「DevOps」に適したサービスを紹介
「DevOps」に適したサービスを紹介

 

 また、IBMのビジネスパートナーにとって、クラウド・マーケットプレイスは自社で開発したIBMクラウド向けサービスをグローバルに販売するためのチャネルという役割も果たす。自社だけでグローバルにサービスなどを販売する場合、その存在を認識してもらうだけでも並大抵の苦労ではない。IBMが運営するクラウド・マーケットプレイス上であれば、認識だけでなく信用の面でも大きなアドバンテージが得られるだろう。

オフラインサービスも提供

 さらに、エンタープライズを主な対象領域としているIBMらしい配慮として、クラウド・マーケットプレイスには、「コンシェルジュサービス」と呼ぶオフラインサービスも提供されている。クラウド・マーケットプレイスでは、サービスメニューの大半はセルフサービス(各自の操作)によって探索、試用、購入までを済ませられる作りになっているが、企業システムを構築するクラウドにおいては、ベンダからの人による説明やサポートが必要となるサービスや状況もある。紫関氏もこの点について、次のように具体的に解説した。

 「Bluemix上で動作するとはいえ、エンタープライズアプリケーションであれば、バックエンドにあるメインフレームや各種サーバーの上で動作するレガシーアプリケーションと連携することになります。レガシー側にはREST APIのインターフェイスを作るなどの改修を行わなければならない。このときに、IBMではクラウドの専門家を派遣して顧客と一緒にシステムのデザインやロードマップを考えることになります」(紫関氏)

 その他、クラウド・マーケットプレイス日本語版の提供開始には、日本語での利用を可能にするというだけでなく、JCBなど日本国内の信販会社のクレジットカードによる決済を可能にするといった、実務面でのサポート強化も含まれている。

 

クラウド・マーケットプレイスはSI企業にとっての福音にもなる

 クラウドの登場は、ハードウェア込みでソリューションを納入してきたSI企業のビジネスを圧迫している、という話を聞くことがある。特にハードウェアについては、メーカーから仕入れた価格と納入時の価格との差で利益を確保できるため、プロジェクトによって利益の幅に大きな差が出るソフトウェア開発に比べ、手堅い収入源となっていた。これをクラウドが取り上げてしまったというのだ。

 IBMにおいても、10月1日付けでx86サーバー部門の中国レノボ社への売却が完了するなど、サーバーマシンを始めとするハードウェア事業を絞り込んでいる感がある。一方で、IBMのx86サーバーを利用して事業を行っていた開発会社やSI企業は1000社ほどあるという。紫関氏は、こうした状況下において、SoftLayerが提供するベアメタルサーバーが、SI企業に従来の業態を維持しつつクラウドによるサービス提供を可能にすると説明する。

 一般にパブリッククラウドで提供されるサーバーマシンは、仮想化によって作り出されたマシンであり、その上で動作するOSなどは仮想化ソフト(ハイパーバイザー)が課す制約に合わせて構成しなければならない。ベアメタルサーバーはこれとは異なり仮想化されたマシンではないので、物理的なハードウェアを相手に行ってきた従来のシステム構築がそのまま実施できる。

 もちろん、これまでのようにハードウェアを顧客に販売する利益は得られない。しかし、IBMが行ったアンケートによると、この形態でもIBMとのビジネスの継続を望むビジネスパートナーは半数を超えた(500~600社)という。IBMでは、このようにSoftLayer上で引き続きSI業務を行ったり、自社ソフトウェアを稼動・検証したり(ISV)、あるいはSoftLayerの再販を行ったりするパートナーを「SoftLayerビジネスパートナー」とし、クラウド・マーケットプレイスから彼らのソリューションにアクセスするためのWebサイトを設けている。

SoftLayerビジネスパートナー向けのWebサイト
SoftLayerビジネスパートナー向けのWebサイト

 

 SoftLayerビジネスパートナーサイトからは、パートナー各社のサイトへのリンクが張られている。SoftLayerを利用したシステム構築を検討する企業は、このリンクをたどり、パートナー各社のサイトで提供されている事業などを確認することができる。

 とはいえ、クラウド化の波は強く大きく、このような施策は一時の延命策になりかねない。これについて紫関氏は「これはあくまで第1段階に過ぎない」と説明。SoftLayerビジネスパートナーがクラウド上でのビジネスへ参入するハードルを下げるものだと述べた。「将来的には、MongoDBといったすでにSoftLayer上で提供しているサービスと並んで、SoftLayerビジネスパートナーが提供するソリューションやサービスがクラウド・マーケットプレイスに入ってくることも考えられる。さらに、パートナー各社がソフトウェアをSoftLayer上のイメージやSaaSとして提供したり、あるいはIBMサービスと統合可能なサービスとして提供し、それらをクラウド・マーケットプレイスに登録することを期待したい」(紫関氏)

 SaaSとしてクラウド・マーケットプレイスに登録すれば、日本のみならず世界各国でサービスを販売できるようになる。紫関氏によれば、これがIBMが既存パートナーとともに歩むクラウド戦略の1つであるようだ。

グローバル展開ゆえの課題も

 クラウド・マーケットプレイスは公開されてまだ日が浅い。サービスとして未完成な部分も残されているようだ。紫関氏からは、これから改善すべきところとして「UX(ユーザーエクスペリエンス)の統一と強化」「グローバルにサービスを展開するための仕組みの整備」の2つが挙げられた。

 

UXの統一と強化

 紫関氏は、クラウド・マーケットプレイスは大きなショッピングモールであるといい、サービスを提供するサイトは「アンカーストア」(総合スーパーマーケット)と「スペシャリティ」(個別専門店)の2種類に大別できると説明する。アンカーストアに該当するのはSoftLayerやBluemix。スペシャリティはビジネスアプリケーション(SaaS)や「IBM PureApplication Systemのパターン」といった多種多様なサービスを提供するサイトである。

 この区別は、1つ目に挙げた課題であるUXの統一と関係する。SoftLayerやBluemixは、それぞれサービスの探索から購入、運用までの仕組みが完全に構築されている。これらに対し、クラウド・マーケットプレイスで同様の機能を提供するのは屋上屋を架す無駄である。クラウド・マーケットプレイスはサービスを紹介する役割に止まり、試用、購入などはSoftLayerやBluemixに移動して行う形を残す。

 一方、スペシャリティの多くには購入、運用に至る仕組みは備わっておらず、サイト画面もサイトごとにまちまちであることから、ユーザーの利便性を阻害する部分がある。そこで、スペシャリティで提供している製品・サービスについては、クラウド・マーケットプレイス内での取り扱いを目指す方向だ。

PureApplicationsのパターンを提供するサイト。IBMはこうした多種多様な製品・サービスの提供を統一したUXで行えることを目指す
PureApplicationsのパターンを提供するサイト。IBMはこうした多種多様な製品・サービスの提供を統一したUXで行えることを目指す

 

 また、UXの強化という面では、現在サービスの探索方法がカテゴリ―サーチのみであるのを、キーワードサーチも追加することが挙げられた。使いたい機能を提供するサービスの名前や分類が明確に分かっていない場合、キーワードによる探索が不可欠だ。実装が待たれる機能の1つである。

 

グローバルにサービスを展開するための仕組みの整備

 もう1つの改善点に挙げられた、各国IBMのクラウド・マーケットプレイスでグローバルにサービスを展開するための仕組みの整備に関しては、多国間のビジネスプロセスと、サービス提供者(ビジネスパートナー)のサポート体制、この2つが課題であるという。

 クラウド・マーケットプレイスではビジネスパートナーと利用者の双方が国をまたがるため、m対nの国際取引が発生する。そのためビジネスパートナーは、まず米国IBMとサービス販売に関する契約を結び、次に各国IBMが自国のクラウド・マーケットプレイスでそのサービスを購入できるようにする。10月2日現在、日本IBMのクラウド・マーケットプレイスから購入できるビジネスパートナーサービスは限定的であるが、日本のビジネスパートナーのサービス登録申請はすでに始まっている。今後大幅なサービスメニュー拡大が期待される。

 また、クラウド・マーケットプレイスでサービス提供を開始すると、ビジネスパートナーは世界各国のユーザーからの問い合わせに対応しなければならなくなる。日本国内のビジネスパートナーの場合、英語での問い合わせに対応できる企業は少なくないだろうが、その他の外国語での問い合わせにまで対応できるところは限られるのではないだろうか。

 IBMでは、ビジネスパートナーがどの国のクラウド・マーケットプレイスでサービスを提供するかを決められるなどの仕組み作りを進めている。ビジネスパートナー側でも、グローバル展開を前提としたサービスの開発・提供の仕組みを検討する必要に迫られるだろう。

 なお、ユーザーからの問い合わせ窓口業務は、各国のIBMが行ってくれる。IBMはクラウド・マーケットプレイス自体に関する問い合わせのみ自社で対応し、それ以外のサービスに関係する問い合わせはビジネスパートナーに転送する。

クラウド・マーケットプレイスの先にも充実した支援

 いうまでもなく、クラウドは今後のIBMにとって中核をなす重要な事業である。その中でクラウド・マーケットプレイスは、クラウド事業の周知、拡大、運営といった大きな役割を果たすサービスとなる。紫関氏はクラウド・マーケットプレイスの意義について次のように話す。

 「何より、クラウドを利用してアプリケーションを構築したいお客様が、IBMの営業担当者や技術者を呼ぶにはまだ計画が熟していないといった状況でも、当社のクラウドに関する調査・検討から、プロジェクトを速やかに進められるようにすることです。特に、Systems of Engagement(顧客との絆を深めるためのシステム。以下、SoE)の構築では、この点が大きなメリットになってきます。

 SoEの典型例にモバイルアプリケーションがありますが、とにかくライフサイクルの回転が速いため、発案から実装、公開までを迅速に行わなければなりません。そのため、実装にはPaaSの利用が向いています。Bluemixであれば、モバイルアプリケーションのバックエンドサービス[1]として「Mobile Data」を提供しています。また、サーバー側のビジネスロジックで、レガシーシステム(Systems of Record)との連携が必要であれば、レガシーシステムのAPI呼び出しを支援するソリューション「API Management」を利用できます。

 ただし、こうした具体的な情報は取得しやすいようにベンダーから提供されていなければ、計画当初からつまづくことになります。この問題を解決するのがクラウド・マーケットプレイスです。SoftLayerやBluemix、各種SaaSなどの情報を整理して提供するほか、どのサービスにも無料で使用可能な期間が設けられており、コストなしに機能を試すこともできるようになっています。

 さらにIBMでは、電話やチャットによるお問い合わせを受け付けるサービスデスクも設けています。本格的な検討が必要となれば、当社の営業担当者や技術者がお客様のもとへうかがい、直接ご説明などを差し上げることも行っています。こうしたオフラインでのコンシェルジュサービスが、セルフサービスでの利用を前提とする他社のクラウドとの差別化点であり、お客様がIBMのクラウドを選択される理由になると考えています」(紫関氏)

[1] モバイル端末のデータをサーバーに保存するなどの機能を提供するサービス。一般にMBaaS(Mobile Backend as a Service)とも呼ばれる。

 

サービスの向上はリーンスタートアップの流儀で

 そして最後に、紫関氏が「私の希望」として語ったのが、「イノベーションにクラウドがいかに役に立つのか、ここをLOB(ビジネスユーザー)や経営者に知ってもらいたい」ということであった。

 「クラウドは、技術者の間では一定の理解が進んだと思いますが、LOBや経営者層には、まだその理解が浸透していない。クラウドは登場当初、サーバーやソフトウェアを購入しなくて済むもの、つまりコストカットができる可能性があるということだけに注目が集まりました。しかし。大切なのは、これからの先進国にはイノベーションが必要だということ。イノベーションなしに、コストや人員のボリュームだけを問題にして事業を進めていくのでは、いずれ日本はやっていけなくなると思う。先進国はたゆまぬイノベーションを続けていなくてはならないのです。

 また、最近のイノベーションの特徴は“スピード”です。自動車は登場して普及するまでに125年かかった。しかし、インターネットは20年ほどで普及した。つまり、イノベーションのサイクルはとにかく速くなっているわけです。誰も使わないものはイノベーションとは言わないとIBMは思っている。皆が使い、世界を変えてこそイノベーションなのです。

 こうした変革を推進するためにも、クラウド・マーケットプレイスはリーンスタートアップの流儀で、皆様に使っていただく中でサービスを高めていく努力を続けていきます」(紫関氏)

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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