オフラインサービスも提供
さらに、エンタープライズを主な対象領域としているIBMらしい配慮として、クラウド・マーケットプレイスには、「コンシェルジュサービス」と呼ぶオフラインサービスも提供されている。クラウド・マーケットプレイスでは、サービスメニューの大半はセルフサービス(各自の操作)によって探索、試用、購入までを済ませられる作りになっているが、企業システムを構築するクラウドにおいては、ベンダからの人による説明やサポートが必要となるサービスや状況もある。紫関氏もこの点について、次のように具体的に解説した。
「Bluemix上で動作するとはいえ、エンタープライズアプリケーションであれば、バックエンドにあるメインフレームや各種サーバーの上で動作するレガシーアプリケーションと連携することになります。レガシー側にはREST APIのインターフェイスを作るなどの改修を行わなければならない。このときに、IBMではクラウドの専門家を派遣して顧客と一緒にシステムのデザインやロードマップを考えることになります」(紫関氏)
その他、クラウド・マーケットプレイス日本語版の提供開始には、日本語での利用を可能にするというだけでなく、JCBなど日本国内の信販会社のクレジットカードによる決済を可能にするといった、実務面でのサポート強化も含まれている。
クラウド・マーケットプレイスはSI企業にとっての福音にもなる
クラウドの登場は、ハードウェア込みでソリューションを納入してきたSI企業のビジネスを圧迫している、という話を聞くことがある。特にハードウェアについては、メーカーから仕入れた価格と納入時の価格との差で利益を確保できるため、プロジェクトによって利益の幅に大きな差が出るソフトウェア開発に比べ、手堅い収入源となっていた。これをクラウドが取り上げてしまったというのだ。
IBMにおいても、10月1日付けでx86サーバー部門の中国レノボ社への売却が完了するなど、サーバーマシンを始めとするハードウェア事業を絞り込んでいる感がある。一方で、IBMのx86サーバーを利用して事業を行っていた開発会社やSI企業は1000社ほどあるという。紫関氏は、こうした状況下において、SoftLayerが提供するベアメタルサーバーが、SI企業に従来の業態を維持しつつクラウドによるサービス提供を可能にすると説明する。
一般にパブリッククラウドで提供されるサーバーマシンは、仮想化によって作り出されたマシンであり、その上で動作するOSなどは仮想化ソフト(ハイパーバイザー)が課す制約に合わせて構成しなければならない。ベアメタルサーバーはこれとは異なり仮想化されたマシンではないので、物理的なハードウェアを相手に行ってきた従来のシステム構築がそのまま実施できる。
もちろん、これまでのようにハードウェアを顧客に販売する利益は得られない。しかし、IBMが行ったアンケートによると、この形態でもIBMとのビジネスの継続を望むビジネスパートナーは半数を超えた(500~600社)という。IBMでは、このようにSoftLayer上で引き続きSI業務を行ったり、自社ソフトウェアを稼動・検証したり(ISV)、あるいはSoftLayerの再販を行ったりするパートナーを「SoftLayerビジネスパートナー」とし、クラウド・マーケットプレイスから彼らのソリューションにアクセスするためのWebサイトを設けている。
SoftLayerビジネスパートナーサイトからは、パートナー各社のサイトへのリンクが張られている。SoftLayerを利用したシステム構築を検討する企業は、このリンクをたどり、パートナー各社のサイトで提供されている事業などを確認することができる。
とはいえ、クラウド化の波は強く大きく、このような施策は一時の延命策になりかねない。これについて紫関氏は「これはあくまで第1段階に過ぎない」と説明。SoftLayerビジネスパートナーがクラウド上でのビジネスへ参入するハードルを下げるものだと述べた。「将来的には、MongoDBといったすでにSoftLayer上で提供しているサービスと並んで、SoftLayerビジネスパートナーが提供するソリューションやサービスがクラウド・マーケットプレイスに入ってくることも考えられる。さらに、パートナー各社がソフトウェアをSoftLayer上のイメージやSaaSとして提供したり、あるいはIBMサービスと統合可能なサービスとして提供し、それらをクラウド・マーケットプレイスに登録することを期待したい」(紫関氏)
SaaSとしてクラウド・マーケットプレイスに登録すれば、日本のみならず世界各国でサービスを販売できるようになる。紫関氏によれば、これがIBMが既存パートナーとともに歩むクラウド戦略の1つであるようだ。