研究開発とプロダクトのチームが共に作る、機械学習の開発環境
データで課題を解決する文化がなく、導入したアルゴリズムを検証する方法も、大規模な機械学習を実行できる環境もない中で、組織はどのように問題を解決しようとしたのか。谷口氏はアドテクスタジオの行動指針を紹介する。
「性能へのシビアな要求に向き合う。スピードと品質を両立させる。経験よりデータを。直感より分析を。有益な情報を伝えることが広告である」
このような社内の雰囲気と共に、研究開発チームの活動を後押ししたのが「Tableau(タブロー)」の導入だった。Tableau DesktopとTableau Serverを連携させることで、ローカルで自分が作ったダッシュボードなどを、サーバーを通じて利用者と共有することができる。そして、ABテストや多変量テストなどを行う検証環境を整備しようとする機運も高まった。さらにはAWSやGoogle Cloud Platformに代表される、急速に進んだクラウド環境の充実や、サイバーエージェント独自のプライベートクラウドの整備なども相まって、チームの研究開発環境が整っていった。
そして、環境が徐々に整う中で、プロダクトのデータをしっかり確認する意識も高まっていった。それを受ける形でアドテクスタジオが取り組んだのが「データサイエンス」の強化だという。
まず、プロダクトのデータから課題を発見・改善・解決するためのスキルを重視するようにしたことで、研究開発チームで活動していたものに対し、プロダクトチームのメンバーがサポートの形で参加するようになった。その結果、プロダクトの開発リソースを利用できるようになり、機械学習の導入が加速したというわけだ。
その中で谷口氏が意識し、今もまた課題として感じているのは「プロダクトとの距離」だという。“目標設定を行う場所”がプロダクト側であればプロダクトのメンバーと一緒にいる時間が長くなり、逆であれば短くなる。その距離が近ければ近いほど導入スピードは速くなり、課題の理解は深く、本質を捉えやすいメリットがある。
しかし、プロダクト側の立場では目標設定が短〜中期的なものにとどまってしまう。例えば、売り上げ・利益・コストといった“足元の数字”に注力するため、その実現のための計画や競合を意識した機能開発、差別化戦略などが前面に押し出される。研究開発チームのメンバーに対しても、プロダクトに関連する範囲内で研究を行ってほしいと考えがちだ。新しいアルゴリズムに関しても、プロダクトに次々と導入して結果を出したいという思いが強い。
一方、研究開発チームの立場としては、プロダクトの次の武器になる技術的競争力の準備や、組織全体の長期的な研究開発の計画、当然ながら基礎研究も重要なミッションとなる。目標は自然と中長期的なものになり、参入したプロダクトに貢献することを基本としながらも、成功した技術を他に応用することや組織全体に活用することを考えている。