自分が自分自身に戻り、新しい刺激をもらえる場所
――最初に、高須さんの自己紹介をお願いできますか?
高須:メイカー向けの電子部品を開発・販売するスイッチサイエンス株式会社の海外ビジネス開発担当として、2017年の12月から中国の深圳に住んでいます。世界的なDIYのイベント「メイカーフェア」では、深圳やシンガポールなどでの開催時には運営に携わっていて、1年の半分以上はいろいろな国を飛び回っています。
仕事とは別に、日本のメイカーたちと深圳を回る「ニコ技深圳観察会」や、海外のメイカーフェアでの日本人ブース運営、AkiPartyというギーク向けダンスパーティーなどのイベントを行っています。
また、この本に関連するところでは、深圳の電気街の中心にあるニコ技深圳観察会・SEG出張所というメイカースペースの管理をしています。
――『世界ハッカースペースガイド』はハッカーの秘密基地を探検したような本ですが、高須さんがハッカースペースに惹かれる理由を教えてください。
高須:本書は僕がずっと追いかけている「自分の好きなものを作ることに夢中になっている人」を描き出した本です。人間の興味は、なかなか一人ではキープできなくて、共有することで強くなります。興味のあることを夢中になって追求し、それを共有する人たちは、時にどんな会社や団体、あるいは国家よりも大きな進化を人類にもたらすことがあります。
そこまで大げさなことにならなくても、好きなものを好きと言え、同好の士と共有できる場所は、自分が自分自身に戻り、かつ新しい刺激を受ける、ありがたい場所です。ハッカースペースはそういう場所だと思っています。
――そんな中で最も印象に残っているハッカースペースはどこでしょうか。
高須:コペンハーゲンのILLUTRONです。港に停泊している船をそのままハッカースペースにしていて、中に何人も住んでいるんです。退廃的な感じとクリエイティブが両立した、美大の寮のような雰囲気が印象に残っています。
僕が住む深圳にある柴火創客空間も、オーガナイザーであるバイオレット・スーのエネルギーが、いると「なにか新しいことをやろう」という刺激をいつも与えてくれます。
自分の好きなものを作ることに夢中になっている人
――本書ではハッカーの定義はしづらいとありますが、「ハッカー」や「ハッカースペース」にあまり馴染みがない人もいると思います。メイカーとの関連や、どんなイメージを持っておくといいのか教えていただけますか?
高須:先にメイカーとハッカーの話をすると、僕の中では両者は同じものです。ハードウェアの色が強いとメイカーと呼ばれる、それくらいの違いですね。
どうなるとハッカーか、何がハッカーでないかは、本書の解説を引き受けてくれた山形浩生さんが翻訳したエリック・レイモンドの古典「ハッカーになろう(How To Become A Hacker)」を始め、さまざまな定義があります。ですが、僕は「自分の好きなものを作ることに夢中になっている人」くらいの意味で捉えています。
なので、多くのハッカーは技術者で、自分の作りたいものがあり、その知識や情熱を互いに共有し、強くしていく、学び合うことを好みます。かつ、個人主義でもあります。
そんなハッカーのたまり場になっているのがハッカースペースです。ハッカーの定義が違う人が見れば、ハッカースペースの定義も変わるでしょう。
――ハッカースペースはどういうふうにでき上がっていくのでしょうか。
高須:フリーランスの(派遣社員ではない)エンジニアが多い国だと、コワーキングオフィスがそのままハッカースペース的になっていくことが多いようです。欧米のスペースはそういう成り立ちが多いように感じます。
中国ほかアジアのハッカースペースは、起業支援のために作られているところが多いと感じます。
――一方で、本書でも書かれているように日本でハッカースペース自体やその存在を知っている人が少ない理由について、どうお考えでしょうか。
高須:日本中にたくさんあるギークのシェアハウス、ギークハウスはとてもハッカースペースっぽいというか、ハッカースペースそのものだと思います。僕も日本にいるときはギークハウスに泊めてもらっています。
別々のバックグラウンドの人たちが共通の背景の元に集まることはイノベーションのタネなので、日本でもそういうことが注目されていく流れの中に、ハッカースペースも組み込まれていくんじゃないかと思います。
ヒマがあるならとりあえず集まろう
――では改めて、本書について教えていただけますか?
高須:前著の『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D、2016年)もそうですが、本書も「ほとんど類書がない」「本屋で置くカテゴリがない」ですよね(笑)。
とはいえ、僕が伝えたいことを詰め込んだ1冊です。何よりも、海外のハッカースペースに興味のある人が、実際に訪ねるきっかけになると嬉しいです。ハッカースペースを訪ねることは、自分の興味をより強くしてくれて、世界中に友達ができるよい方法です。アポイントを取るための例文や住所を記載したので、それらが役に立つのではないでしょうか。
もちろん、ハッカースペースに行ってみたいという人だけでなく、ハッカースペースの運営やオープンイノベーションなどに関心がある人にも読んでもらいたいと考えています。
そして日々の仕事や日常生活を送る中で、いまいちピンとくることがなくて悶々としている人たち。僕が興味を持っていることのほとんどはコミュニティから与えてもらったものです。ヒマがあるならとりあえず集まりましょう!
――本書を読んでハッカースペースに行ってみたい、作ってみたいと思った方は、まずどんなことをすればいいでしょうか。
高須:毎年8月に東京ビッグサイトで行われているDIYの祭典「メイカーフェア東京」や、年2回行われている「コミックマーケット」に行ってみるのがいいと思います。ほかにも、技術書典でもデザインフェスタでも文学フリマでもニコニコ超会議でも、「好き」を全開にしている人たちの空間は共通する空気があります。
できれば自分もどれかに出展してみて、その経験を持って海外のハッカースペースに行くのがお勧めです。自分から話し出せる話題があるだけで、何倍も友達が作りやすくなるはずです。
――最後にうかがいますが、ハッカーはなぜハッカースペースを必要とするのでしょうか。
高須:有名なハッカーの一人であるミッチ・アルトマンが、本書を書くときに最高にクールなメッセージをくれました。
この地球には七十億人の人がいる。君が一緒にいたいと思う人たちをどこで見つけるのかはわからないが、「ハッカースペースやハッカーカンファレンスにいる」というのは、僕らみたいな人種にとってとても強力なフィルターだ。
ぼくらはひきこもりで内向的なオタクだから、誰とでも話したいわけじゃない。でも、ハッカースペースやハッカーカンファレンスに参加している連中はほとんどすべてが内向的なオタクだ。しかも彼らは、おそらくクールなプロジェクトを持っている(または考えている)内向的なオタクなんだ。だから、「どういうことをやっているの? 試させてもらえる?」と話しかけることで、簡単に会話を始めることができる。
そうやって話しかけたからと言って君の人格が変わるわけじゃない。君が独自の趣味を持ったコミュ障のオタクであることはすごく大事な、いちばん良いことだ! それでも、生涯の友人になるかもしれない人々に会うことができる。その人に会う前にあなたが興味を持っていなかったことに興味を持つこともある。オタクとの出会いは人生を変えるかもしれない。私たちの生活のすべてがよりクールになる。自分の好きなことにさらなる情報が見つかるかも知れない。
見つかったことの中で、好きなことだけをやろう。嫌いなことをする時間を減らしていこう。出会いはそこから始まる。君は自分の人生をさらにクールにするものを選んでいくことができる。たくさんの選択肢を持って、そこから自由に選べることは大事だ。何を選んでも、必ず一緒に楽しむコミュニティが見つかるだろう。それがハッカースペースの魔法なんだ。
『世界ハッカースペースガイド』著者 高須正和さん登壇イベントが2月下旬に開催!
深圳を中心に活躍する高須さんが2月下旬に帰国し、メイカースペースや深圳のものづくりについてのトークイベントが開催されます。『世界ハッカースペースガイド』のほか、『「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ』(インプレスR&D)などの書籍を販売予定です。ぜひご来場ください!
- 2/22(木):藤岡淳一×高口康太×高須正和×山形浩生「中国のものづくりはホンモノなのか?」『「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ』(インプレスR&D)
- 2/23(金):品モノラボにてイベント予定
- 2/25(日):深圳IoT界のフロントランナーに学ぶ 「メイカースペースの可能性と、世界最高の分業体制の秘訣」
- 2/26(月):TechShopで考える『メイカースペースと深圳小ロット製造』