ノンプログラミングが普及すれば開発者は必要なくなるのか?
Salesforceのアプリケーション開発は本当に技術知識のない管理者がすべて行えるのだろうか?
もちろん実際はSalesforceのアプリケーション開発においても専門知識やプログラミングが必要な場面は大いにある。
例えば、SalesforceのUIは、ビジネスロジック処理については標準的・簡易的なものであればノンプログラミングでレイアウトするなど自由に作成が可能だが、標準には無いインタラクティブなUIを必要とする場合やJavaScriptなどの知識、高度なトランザクション処理が求められる場合などには、Salesforceアプリケーション開発向けの、Javaによく似た言語であるApexの知識が必要となる。
さらに言えば、さまざまなアプリケーションが開発できるSalesforce Platformも、全社ITエコシステムからみたらCRMを基軸とした一部に過ぎない。レガシーを含めたその他の基幹アプリと連動しなければ、その価値は半減するだろう。そうしたSalesforceを取り巻く多種多様なITエコシステムとスムーズな連動を図るには、APIの知識や高度なプログラミング技術を持つ開発者の力が欠かせない。
そこでSalesforceではAppExchangeと呼ばれるマーケットプレイスを用意しており、ソフトウェア開発者が作成したUIコンポーネントやビジネスロジックを、管理者が自社のSalesforceへコピーして利用できる機能も提供しており、魅力的で高度な部品を生み出す開発者とそれを組み合わせてアプリを作る管理者、といった構図が成り立つ。これからはお互いの強みを生かした効率的な開発が企業の競争力となっていくのだ。
同社のTrailhead(無料eラーニング)には管理者のみならず開発者が専門知識を学ぶためのコースも豊富に用意され、更にはCTA(Certified Technical Architect)を頂点としたアーキテクト・開発者向け資格認定制度も提供しており、プロフェッショナル開発者の育成もに力を入れている。
実際にDreamforceには、顧客企業の管理者と一緒にAccenture社やPwC社といったグローバル企業や日本のテラスカイ社などSIerの従業員も多く参加していた。こういった点は開発側からもノンコード開発を行う管理者との協業が注目されていることを物語っているだろう。
MuleSoft買収によるインテグレーション戦略の変化
また、今年の5月にSalesforceがMuleSoft社を約65億ドル(約6,800億円)で買収したことによるインテグレーション戦略の大きな変化も忘れてはならない。
Salesforceは古くからREST/SOAPベースのWeb APIを提供しており、データの出し入れを行うことは容易だが、実際の外部のシステムとの統合、とりわけレガシー・アプリケーションへの統合は難易度が高く、統合プロジェクトの成否は開発者のスキルに依存する状態であった。
そんな中、Salesforceは「API-led Connectivity(API主導の接続性)」を標榜するMuleSoftを買収。同社のAnypoint Platformは、レガシー・アプリケーションを含めたあらゆるエンタープライズ・アプリケーションをAPIサービス化し、GUIベースで設定できるフローを用いて簡単につなぎ合わせるための製品だ。MuleSoftでは数百にも及ぶ主要アプリケーション向けのAPIコネクタを既に用意しており、迅速で柔軟性に富むインテグレーションを目指している。
この買収は、Salesforceがレガシー・アプリケーションも含めたより大きなITエコシステム全体のインテグレーションへも「Salesforce流」を浸透させようと狙っているものといえる。これまで開発者たちは、複雑化したITエコシステムをつなぎ合わせる、いわば縫製作業ともいえるインテグレーション機能の開発に多くの時間を費やしてきた。それが、MuleSoftによって大幅に削減できるようになる。企業の競争が激化する中、人と時間を差別化要素に集中できる意義は非常に大きい。
ノンプログラミング管理者による開発の民主化を、インテグレーションの世界にも適用することができたなら、同社にとってそれは大きなエポックになるだろう。