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先端アプリの普及者であるSalesforce――ノンコーディングプログラミング文化は開発者に何をもたらしたか?

Salesforceでは誰もが主人公に――Dreamforce 2018レポート

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2018/11/26 14:00

 Salesforceのカンファレンス「Dreamforce」に行くと「ナショナルパーク」をテーマにしたキャラクターが会場全体を覆っている。製品キーノートの前には、クマやアインシュタインの着ぐるみたちが踊りを繰り広げ、会場の雰囲気を盛り上げる。ビジネスにゲームの要素を取り入れ生産性をあげる試みをゲーミフィケーションと呼ぶが、Salesforceほど大幅に取り入れている企業は少ない。ソフトウェア開発手法の学習や、アプリケーションの管理にゲーミフィケーションを取り入れ「仕事も貴重なあなたの人生」「誰でも学べて、楽しく使える」というコンセプトがユーザーや開発者の裾野を広げている。そうしたコンセプトは、いつから同社に育まれてきたのだろうか。その答えを垣間見せてくれるのは、Salesforce管理者向けのAdmin基調講演に登場した、共同設立者でありCTOのパーカー・ハリス氏だ。

目次

Salesforceサービス開発責任者の登壇

 Salesforceといえば、まずマーク・ベニオフ会長の顔を思い浮かべる人が多いはずだ。著名雑誌の表紙を飾り、トップ・インフルエンサーに名を連ねる同会長は、同社のビジョンをリードする一方、業界随一と言われるトップセールスの名手だ。

 一方、Salesforceの共同設立者であるパーカー・ハリス氏は、そうした派手な場面にはあまり顔を見せない。しかしハリス氏はCTOとして創業時から同社をリードし、現在でも利用するテクノロジーの選定も含めた製品戦略を統括し続けている。「マネージメントのマーク、テクノロジーのパーカー」というコンビは、米ウォールストリート界隈から高く評価されてきた。浮き沈みが激しいシリコンバレーで、大企業のトップが19年間変わらないのも珍しい。

 そんなハリス氏が同基調講演で「ほら、まだ僕の髪が黒いでしょう!」と、はにかむ口調で黎明期に撮った一枚の写真を紹介した。スライドのタイトルは「We Set out to Make CRM Easy For Everyone(我々は誰でも使えるCRMを届けます)」というもの。サブタイトルには、「クラウドデータを誰でも使える」「先端技術知識はいらない」「どんな企業でも成功できる」……の文章が並ぶ。常に先端技術を取り入れサービス開発を牽引してきた同氏が、それが無くても成功できるための製品を古くから真剣に考えていた点は興味深い。

 またそんな若き日の写真に続いて同氏は「A New Tech Hero Was Born:The Salesforce Admin(新しいテックヒーロー誕生、それがSalesforceのアドミニストレーターだ)」というタイトルと共に、Salesforce管理者が並ぶ写真を紹介した。『若き日に描いたビジョンが多くの人に受け入れられている』事を暗示する一枚だ。

 おそらくは、この頃から「先端アプリを誰でも学べて、楽しく使える」という基本コンセプトが、同社に育まれてきたのだろう。設立間もない頃は「End Software(ソフトウェアの終焉)」などと過激なキャッチフレーズを掲げていた同社だが、今はそれがSalesforceの学習を支援するゲーミフィケーションというエレガントなコンセプトに昇華されている。

専門知識のいらないAIアプリケーション開発

 続いて同基調講演のデモンストレーションではJLL社が登場した。1999年に設立されたJLL社はエージェンシー・リースから投資業務まで手広くやっている不動産業界の大手。年間売上は68億ドル(約7600億円、2016年末)、従業員7万7,000名で、米国を中心に、ロンドンや中東、アジアでも事業を展開している。

 同社で営業管理ソフトとしてSalesforceを利用しているメンバーは全事業部にまたがる約400名。副社長兼上席Salesforce Administratorの肩書を持つナナ・グレッグ氏は、メンバーの細かい希望に従ってカスタム・アプリケーションを構築することが使命だ。

 彼女は今回、新機能(パイロット/β版)のLightning Object CreatorとEinstein Prediction Builderを活用した、プロジェクト期間をAIで予測するアプリを構築して見せた。

 デモはまず既存のスプレッド・シートのレイアウトを元に、Salesforceにおけるデータベーステーブルであるカスタムオブジェクトを自動的に作成し、ビジネスプロセスを適用するワークフロープロセスを構築。その後、Einstein Prediction Builderを開き、画面から分析対象のオブジェクトを指定するだけで、同社のAIであるEinsteinによってプロジェクト終了期間を予測する機能を盛り込んだ。

 実際にEinsteinを動かすと、担当者が感覚で入力したのは105日というプロジェクト期間だったが、過去の実績などのデータからAIによって120日の正しい予測を導き出すことに成功した。

 このデモでは、専門的な技術的知識なしにプロジェクト管理アプリにAIによる予測機能を追加している。また、大手消費財メーカーであるユニリーバのデモでも同様にEinsteinによる予測機能を簡単に実装していた。

 高度な専門知識と開発期間が必要だと思われているAI機能がノンプログラミングで実現されていく。

 米国では一般に「大企業で数百本、多国籍企業なら1000本を超えるアプリケーションを利用している」と言われており、それは単純なスプレッド・シートやワープロソフトからSaaS、ビッグデータ、モバイル、IoTソリューションまで多種多様だ。

 そして近年エンタープライズITでも、AIの活用が急速に台頭しつつある。

 このような状況では、一つのITシステムごとに専門家をアサインたり多額の予算を投入するということは事実上難しい。しかし、ITシステムの優劣が企業競争力を左右し、株価から経営陣の進退まで左右する米国では、ITシステム需要は際限がない。

 このような厳しい状況において、Salesforceでは非技術職のシステム管理者を貴重なIT戦力に変身させるのだ。ノンコーディング・プログラミングとはいえ、日々の業務に必要な機能を彼ら自身が現場で作成していく姿を見ると、彼らももはや”開発者”なのかもしれない。


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著者プロフィール

  • 伊藤 一徳(イトウ カズノリ)

     早稲田大学卒業。日経BP社にてITpro編集、クロスメディア本部企画編成部、日経BP企画に従事。2007年12月、日経BP社長賞受賞。2011年2月に株式会社コミュニケーション・コンパスを設立。同社代表取締役に就任。現在、データ分析に基づいたメディアサイトや企業サイトのコンテンツ制作・運営を支援。...

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