企業内における基幹システムの全体像
基幹システムとは?
いよいよここからは会計システムについて解説していきますが、まずはその前提として「基幹システム」について説明していきます。
会計システムの設計や導入に関する仕事をしていると基幹システムという言葉をよく耳にします。実はこの基幹システムについては特に明確な定義はありません。あえていえば、「販売、購買、生産、経理などの企業活動を支えるシステム群」という定義になります。
また、販売、購買、生産、経理などに関するシステムを一般に「業務系システム」と呼ぶこともあるため、基幹システムは「企業活動で利用する業務系システム群」ともいえます。そして、その中でも「会計システム」は基幹システムの主役ともいえる存在です。
基幹システムを構成する業務システム
基幹システムは各企業の業種や事業規模により違いはあるものの、通常は次のような業務システムを含んでいます。ここでは会計システム以外の各業務システムの概要を解説します。
販売管理システム
顧客からの受注を登録して、その受注に基づき、商品や製品を出荷、納品し、売上計上を行うプロセスを管理するシステムです。主に、営業部門や地域の販売拠点が利用するシステムです。
購買管理システム
仕入先への発注を登録して、その発注に基づき、原材料や商品を検収して仕入計上を行うプロセスを管理するシステムです。主に、資材部や購買部という調達関連部門が利用するシステムです。
在庫管理システム
製品の生産に使用する原材料、工場で生産された製品、外部から仕入れて販売する商品などに関する増減および残高にかかるプロセスを管理するシステムです。
原材料は外部からの仕入により増加し、製品の生産により減少します。製品は生産により増加し、販売により減少します。商品は外部からの仕入により増加し、販売により減少します。また、棚卸しの実施により、実際に数えた在庫数量とシステム上の数量に差異が発生した場合、実際の数量に補正します。この補正を棚卸減耗といいます。
主に、営業部門、購買部門、生産部門などが利用するシステムです。
生産管理システム
製品の生産計画、生産に必要な原材料の構成や数量の計算、工場に対する作業の指示、生産した製品の生産量の報告、生産に使われた原材料の使用量および作業時間の報告など、生産活動に関するプロセスを管理するシステムです。主に、生産管理部、生産技術部、製造部といった生産活動に関連する部門が利用するシステムです。
人事管理システム
社員の個人情報や配属履歴などの人事情報の管理、人事評価、勤退情報の集計、給与・賞与の計算など、従業員に関する業務プロセスを管理するシステムです。主に、人事部や総務部などが利用するシステムです。
この表を見るとわかるように、業種・業態によって利用する基幹システムの種類は異なりますが、いずれの業種・業態にも会計システムは必ず含まれています。
すべての業種・業態に必要なシステムは、販売管理、人事管理、そして会計です。企業は必ず収益をもたらす経済活動を行いますし、社員がいる限り人事管理は必要です。会計はすべての企業の経済取引を把握、記録、集計、報告する仕組みであるので、業種・業態に関係なく必要になるのです。
業種や事業規模により業務システムの範囲はさまざま
基幹システムを構成する業務システムの範囲は、業種・業態や企業の規模により異なります。とはいえ、業種によってある程度一般的な業務システムの構成があるため、それを基本形としつつ、事業規模などに応じてシステムの一部では個別システムを利用せず、表計算ソフトで対応するなど、企業ごとに異なっています。
たとえば、製造業では生産活動を行うので生産管理システムが必要なのに対し、商社や小売業のような業種ではそのようなシステムは必要ありません。例外として、一部、仕入れた商品に対して加工を行った上で販売している商社や小売業などでは、その業務の規模に応じて簡単な生産管理システムを導入している場合もあります。
別の例として、システム開発業や建設業といった業種では、生産管理システムの代わりに、プロジェクト管理システムを利用します。プロジェクト管理システムとは、個別の案件(プロジェクト)に対する作業内容や作業スケジュールの管理、プロジェクト予算の執行管理、作業やスケジュールの進捗や遅延の管理などに関するプロセス全体を管理するシステムです。
しかしながら、在庫管理システムや購買管理システムについては、システム開発業と建設業ではその利用状況に違いが出てきます。
システム開発業ではコストの中心は社内外の人件費であり、原材料に該当するものはほぼないので、基本的に在庫管理システムは不要なのに対し、建設業では、建築資材を取り扱うため必要になってきます。
購買管理システムに関しては、システム開発業では調達の内容はほぼ業務委託なので、契約→請求書受領→支払といったシンプルなプロセスとなり、業務量次第では購買管理システムを置かない場合もありますが、建設業では、建築資材の発注や受入れを行うため必要になってきます。
広義と狭義の会計システム
基幹システムにおける会計システムの位置づけ
会計システムは、前節で解説した基幹システムと位置づけられる他の業務システムで発生した各種の取引結果を記録するシステムになります。
販売管理システムからは売上に関する実績データ、購買管理システムからは原材料、商品、外注費などの仕入に関する実績データ、在庫管理システムからは原材料、商品、製品の入出庫に関する実績データ、人事管理システムからは給与、賞与などに関する実績データを受け取ります。
生産管理システムから直接データを受け取ることはありませんが、購買管理システムや在庫管理システムから連携する実績データの集計や計算を行っています。
このような関係から、会計システムから見た他の業務システムを「上流システム」と呼ぶこともあります。なお、上流システムから会計システムへは「仕訳」を作成することができるデータが連携されることになりますが、その内容については第5章で詳しく解説することにします。
会計システムとは?
「会計システム」は「財務システム」や「経理システム」ということもありますが、会計システムの範囲には、広義の会計システムと狭義の会計システムの2 つのタイプがあります。
広義の会計システムは、「経理部門が主として利用する業務システム群」であり、具体的には「債権管理システム」、「債務管理システム」、「固定資産管理システム」、「経費管理システム」、「資金管理システム」、「原価管理システム」、「総勘定元帳システム」などがあります。一方、狭義の会計システムは、上記の中の「総勘定元帳システム」のみを指します。
広義の会計システムを構成する業務システム
広義の会計システムは各企業の業種や事業規模により違いはあるものの、一般的には次のような個別システムが含まれています。
債権管理システム
得意先に対する売上代金(売掛金)の請求書の発行、入金による消滅、残高や滞留の状況などを管理するシステムです。売掛金だけでなく、立替金や未収入金など、その他の債権も含めて管理することもあります。債権管理システムは販売管理システムと会計システムの間に位置し、両者の橋渡しを行います。なお、債権管理システムとして独立して存在せず、販売管理システムの機能に含まれている場合もあります。
債務管理システム
仕入先からの請求書の受領、支払、残高状況などを管理するシステムです。買掛金だけでなく、前渡金や未払金など、その他の債務も含めて管理することもあります。購買管理システムと会計システムの間に位置し、両者の橋渡しを行います。なお、債務管理システムとして独立して存在せず、購買管理システムの機能に含まれている場合もあります。
固定資産管理システム
建物、機械装置などの有形固定資産やソフトウェアなどの無形固定資産といった固定資産に関する、台帳管理、減価償却費の計算などを行うシステムです。なお、購入ではなくリース契約で取得した有形無形固定資産などを管理する機能も含んでいます。
経費管理システム
社員が立て替えた出張旅費などの経費の申請および精算や、購買管理システムを使用せず、業者から受領した請求書に基づいて経費の計上および支払などを行うシステムです。
資金管理システム
現金を管理するシステムです。売掛金の入金予定や、買掛金、人件費、借入金の返済予定などを記録し、資金が不足しないように資金の出入りを管理するシステムです。
原価管理システム
製品の製造原価を計算するシステムです。個別の生産指示や、製品ごとに原材料の使用実績や作業者の作業時間を集計して製品の製造原価を計算します。
総勘定元帳システム
企業の各種取引活動を記録し、決算書や各種会計帳簿を作成するためのシステムです。詳しくは次項で解説します。
狭義の会計システムとしての総勘定元帳システム
次に、狭義の会計システムですが、これは前述の通り、総勘定元帳システムを指しています。総勘定元帳システムとは、商品の仕入や販売など、企業の各種取引活動を「仕訳」という形式で登録した上で、それを集計することにより、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表や総勘定元帳、試算表といった各種会計帳簿を作成するシステムです。
広義の会計システムと狭義の会計システムの関係
このように、「会計システム」にもさまざまな定義があり、広義の会計システムにはさまざまな個別システムが含まれますが、本書では狭義の会計システムである総勘定元帳システムに絞って詳しく解説していきます。以降、「会計システム」という表現は「総勘定元帳システム」を指していると解してください。
マスタの種類とその管理
仕訳に必要な項目
会計システムは「仕訳」を登録して集計する仕組みですが、ここでは、具体的にどのような情報を登録するのかについて解説します。
簿記のテキストやネット上の仕訳の解説などで次のような仕訳をよく見かけるかと思います。
ここでいう売掛金、売上高は「勘定科目」と呼ばれるものです。110,000は金額です。この仕訳は「110,000円で販売し、代金は掛(現金引換えではなく後日支払を受けること)にした」ことを表しています。 このように仕訳には、勘定科目と金額があり、借方と貸方が同額となっていれば仕訳情報として最低限成立しますが、実務上は会計システムに登録する仕訳情報には次のことが必要になります。
日付
取引の発生日を登録します。取引がどの会計年度に属するものかを判定します。
摘要
取引内容の詳細を記録しておくためのメモ欄です。どのような内容を記載するかについての細かな決まりはありませんが、一部、税法により指定されている場合があります。
これらの項目を加えた仕訳は次のようになります。
これだけの情報があれば、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表や総勘定元帳、残高試算表などの帳票を作成することができます。
会計システムに求められる役割は広がっている
近年の会計システムは、経営管理や情報開示のためのより多くの情報を蓄積することが求められており、さらに次のような項目の情報を管理することが求められます。
- 部門:部門単位の管理
- 事業セグメント:複数の事業を営む場合の事業単位の業績管理
- プロジェクト:案件単位の管理
- 取引先:顧客別の取引額や債権債務残高の管理
- 増減理由:キャッシュ・フロー計算書を作成するためのもの
仕訳に必要な項目はマスタ管理を行う
仕訳に必要な項目は、日付や金額のような情報を除き、通常はマスタ化されています。以下、仕訳に最低限必要な「勘定科目」、「摘要」と上記項目について、その内容とマスタの特徴を解説します。
勘定科目
勘定科目は仕訳取引の内容を表す項目であり、仕訳にとって必ず必要な項目です。
勘定科目マスタは、「勘定科目コード」と「名称」以外にもいろいろな項目を設定します。重要な設定として、次のようなものがあります。
- 貸借対照表/損益計算書科目区分
- 消費税区分
- 入力可能項目
「貸借対照表/損益計算書科目区分」とは、その勘定科目が貸借対照表に関連する科目か損益計算書に関連する科目かの区分です。この区分は、単にどちらの財務諸表に表示される勘定科目なのかの違いだけでなく、システム的に重要な意味を持っています。これについては第3章で詳しく解説するので、ここではこのような設定が必要であることだけを知っておけば十分です。
「消費税区分」は、消費税の税額の計算のために、仕訳の明細に消費税の内容を把握しておく必要があります。たとえば、売上高に関する明細には「課税売上げ8%」、「課税売上げ10%」、「非課税売上げ」、「免税売上げ」の消費税区分を登録することになります。
仕訳登録を誤らないために
この勘定科目と消費税の関係を指定して仕訳に誤った消費税コードが登録されないように制御します。いろいろな設定方法がありますが、たとえば、次のような制御方法があります。
- 勘定科目マスタに消費税コードは不要である旨の設定をする。これにより仕訳計上時に消費税コードが入力できなくなる
- 勘定科目マスタに特定の消費税コードを指定する。これにより仕訳計上時にその勘定科目は勘定科目マスタで指定した消費税コードしか使えなくなる
- 勘定科目マスタに特定の消費税コードの初期値を指定する。これにより仕訳計上時にその勘定科目は勘定科目マスタで指定した消費税コードが初期値として表示され、必要に応じ消費税コードの変更を行うことができる
入力可能項目によって勘定科目に必要な項目を制御する
「入力可能項目」とは、仕訳を計上する際の勘定科目ごとの他の項目の入力の要否を設定します。この設定により仕訳計上時にそれぞれの勘定科目に必要な項目が制御されます。たとえば、下表では「売上高」は増減理由以外のすべての項目の入力が必須であり、「借入金」は取引先、増減理由が必須で、部門、事業セグメント、プロジェクトは入力不可となります。「給与」は部門、増減理由の入力が必須となり、事業セグメント、プロジェクト、取引先は入力不可となります。
部門
部門とは仕訳を組織別に管理するための項目です。部門別の損益管理などに使用します。売上や経費に関する仕訳を計上する際に部門を指定することにより、部門別の損益管理を行うことができます。
また、部門は部門別の経費の予算実績管理にも使用します。事前に会計システムに勘定科目別、部門別、月別に予算情報を登録します。この予算情報と仕訳で登録された実績情報を対比させることにより、部門別の経費予算の管理を行います。
部門マスタも、「部門コード」と「名称」以外にも、いろいろな項目を設定しますが、重要な機能として「有効期間」や「計上不可フラグ」を設定することがあります。これにより、使用しなくなった部門に対する実績計上のブロックや、将来の組織変更後の部門を事前に登録しておくことが可能になります。
事業セグメント
事業セグメントとは、複数の事業を行っている場合、どの事業に関連した取引なのかを記録するための情報です。いわゆる上場企業の場合、事業セグメントに関する情報開示が義務付けられています。
事業セグメントマスタは通常、各企業の経営管理上必要な単位で設定します。一方で、情報開示で求められている事業セグメントの単位は、管理上のそれより粗いため、情報開示の際にはそれをグルーピングして開示することになります。
プロジェクト
プロジェクトとは、企業活動を目的別に記録するための情報です。たとえば、企業があるイベントを行った際に、そのイベントに要した費用や収益を集計する場合に使用します。また、コンサルティング会社やシステムベンダーなどが「案件」ごとに損益を集計する際にも使用します。
プロジェクトマスタの設定項目としては、「プロジェクトコード」や「名称」の他に、部門コード同様に「有効期間」や「計上不可フラグ」が設定され、将来開始するプロジェクトを事前に設定したり、終了したプロジェクトに対する実績計上のブロックをできるようにしたりします。
取引先/(得意先・仕入先)
取引先とは、誰との取引であるかを記録するための情報です。得意先別売上高の集計や仕入先別の取引実績の集計など、経営管理のために使用します。また、連結財務諸表を作成する際の、グループ間取引の把握のための項目としても利用します。
増減理由
増減理由とは、財務諸表のひとつである「キャッシュ・フロー計算書」を作成するために必要な情報を収集するために使用します。キャッシュ・フロー計算書については第3章で詳しく解説しますが、増減理由コードを使ってキャッシュ・フロー計算書を作成するために現金や預金の増減理由を仕訳に登録します。
勘定科目によって必要な項目は異なる
ここまでの解説では、便宜上、各仕訳の借方、貸方に同じ項目が入る前提でしたが、実務においては、借方、貸方に同じ項目が入るわけではなく、勘定科目ごとに管理すべき項目が異なってくるものです。
どの勘定科目に何の項目を登録するのかについては、各企業が会計システムにどこまでの情報を求めるかによって変わってくるので、その都度要件を確認する必要があります。
その他の項目
これまで、一般的な項目を解説してきましたが、会計システムに設定する項目には特に制限はありませんので、各企業のニーズに応じて上記以外にもいろいろな項目を設定することがあります。たとえば、製品別の損益を集計するために「製品番号」を設定したり、売掛金の入金予定を把握するために「入金予定日」を設定したり、買掛金の支払予定を把握するために「支払予定日」を設定することもあります。