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プロダクトマネジメントの基本を学ぼう

プロダクトの成長・衰退とともに変化する、プロダクトマネージャーの役割とは?

プロダクトマネジメントの基本を学ぼう 第5回


ライフサイクルにおけるPMの役割概要

 前回解説してきた「プロダクトライフサイクル」と「プロダクトアダプションライフサイクル」だが、PMの役割と重ね合わせると以下のようになる。下図のように、PMの役割はライフサイクルのステージに応じて、大きく3種類に分けることができる。それぞれ詳しく見ていこう。

0→1:イノベーターPM

 スタートアップ界隈に首を突っ込むと、会話やメディアで見かける情報の中に、「ゼロイチ」という言葉がでてくる。ゼロとはまだ実態としてのプロダクトが世の中に存在しないことであり、イチとは何であれプロダクトが世の中に存在することである。この一見簡単そうな「ゼロイチ」だが実に奥が深い。

 そもそも一体何を作りたいのか? その作ったプロダクトは誰の何を解決するのか? そのプロダクトはどのように最初のユーザーを獲得するのか? など全くなにもないところから生み出すため、思考と行動の絶え間ない継続が必要なステージだ。

 スタートアップ企業で言えば、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからシードラウンド(投資総額が5000万~2億円レベル)として投資をしてもらう段階の企業や、場合によってはシリーズA(投資総額2~10億円レベル)くらいまでのアーリーステージスタートアップと呼ばれる企業が、ゼロイチにいる存在としてイメージしやすいだろう。プロダクトマネジメントの観点でいうと、このゼロイチステージではまだ社員も十分におらずFounderとCo Founderくらいしかいなかったりする。その場合実質CEOがプロダクトマネージャーとして動かねばならない。

 一方、大企業やレイトステージのスタートアップの中で新規事業を作る場合にも、ゼロイチは存在する。ただ、アーリーステージのスタートアップとは状況は異なるであろう。

 まずは既存事業との間で共食い(カニバリゼーション)にならない部分でプロダクトを考える必要があるかもしれない。逆に既存事業と連携しさらに伸ばすようなプロダクトを考える場合もある。またスタートアップと比べてリスクをとりづらい中で、どのようにステークホルダーから協力をとりつけ、上層部の期待が高まっている中で、最初のMVPをどこに設定するかは悩ましいところであったりする。

 このステージではとにかくプロダクトを目に見える形にすることが最優先だ。プロダクトマネージャー自ら仮説構築と検証のサイクルを回していかなければならない。例えばビジョンやミッションが先に決まっていなければプロダクトのアウトラインは定まらない。ここがブレるとプロダクトを作る過程で何に重点を置くかがバラバラになってしまう。その上で目指すはプロトタイプもしくはver1.0のリリースであり、Product Market Fit(PMF)を資金が枯渇する前に見つける必要があるということだ。これは企業のステージや規模に関わらず意識すべきポイントだ。

 特に大事なのはどのターゲットユーザーを選択し、どのようなプロダクトで問題を解決していくかといった部分だ。これは一度や二度プロトタイプを作ったところでうまくいくものではない。常にユーザーの目線で問題を追い、どのようなプロダクトなら解決策として筋があるかを見極めねばならない。最初から「完成品」を目指すのではなく、継続的イノベーションの繰り返しでPMFを達成できるかどうか、早く動いて検証するのがイノベーターPMだ。

 業界の有名人を採用したからといって、それもPMFを達成することに必ずしも因果関係があるわけでもない。シリコンバレーでの知恵は「PMFが達成されるまでは採用を急ぐな。それよりも長く生き延びてPMF達成を目指せ」である。

1→10:グロースPM

 PMFを達成したかしないか、一番簡単な判断はその価値仮説をもとに作ったプロダクトをもとに、収益をあげられるかどうかだ。プロダクトを開発すればするほどユーザーがついてくる。その結果として収益もついてくる、という状態に達して無事にPMFを達成したと言える。

 Product Market Fitがあるとわかってくれば、次に考えることはプロダクトを成長させることだ。いわゆるグロースステージである。この段階ではプロダクトにユーザーが付き始めるので、プロダクトの期待値が上がってくる。こうした期待値に答えていく一方でビジョンに従って長期的な施策も考えていかねばならない。

 ただ、現実的には目の前の成長のための施策が多くなりがちなのはある程度避けられない。グロースが立ち行かず資金が枯渇してしまっては元も子もないからだ。だが、グロースステージでのプロダクトマネージャーに求められることは、ビジョンに従って新しい施策を素早く打ち続けることだが、目の前のグロース系だけに拘泥してはならない。常に一歩引いて1~2年後(業界によっては3~5年後)のプロダクトの姿からも考えを巡らせておく必要がある。

 また大企業等の新規事業がPMFを越え、グロースステージにたどり着いたとなると、上層部の期待は自然と大きくなっていく。この場合プロダクト事業は本体の会社に所属しているため、この事業に対して投資を増やす必要がある場合には今後の成長性のみならず、既存事業とのシナジーという視点や、プロダクトのラインナップの追加が求められることもあるかもしれない。また採算ラインの捉え方は企業ごと、または本業の業績によって異なることもあるのでプロダクトマネージャーは事前にこうした社内状況を把握しておく必要がある。プロダクト自身の成長もさることながら、どの方向に成長させていくか、そのための継続的なリソース確保か可能かといった部分で社内をよく把握していく必要があるのだ。

 ちなみに、グロースという観点において、シリコンバレーでは「グロースハッカー」という言葉はあまり聞かれなくなった。もともとグロースハッカーとはWeb系プロダクトの短期的成長のみに特化した仕事で、マーケティング職の一つとして位置づけられることが多かった。だが、この弊害としてあまりに短期のWebデザインや導線の改善に終始してしまったため、長期的な視点でのプロダクト開発からは離れてしまうことになった。プロダクトマネージャーとしては一旦離れてしまったプロダクトをまた長期的視点で修正していくのは手間がかかり、結果的に成長スピードを遅らせてしまう。

 その結果現在では、グロースPMというプロダクトマネージャーの中でもグロースステージに特化した職が多くのスタートアップで生まれ、グロースハッカーは発展的解消するようになった。このプロダクトマネージャーたちは会社としてのビジョンやミッションにしっかりつながったところでプロダクトとしてのグロース施策を考えていく。場合によってはマーケティング部門と連動して、プロダクトのマーケティング効果を上げるための機能などを盛り込んだりする。

 スタートアップにありがちだが、VCからファンディングしてもらったあと大量のマーケティング施策で認知度を上げる手を打つ会社がある。大企業等の新規事業においても同じことが起こることもあるだろう。それは、短期的には効果があるかもしれない。しかしどのような状況であれプロダクトとして本当に大事なのは、ユーザーが使い始めたら長く定着してくれることだ。二、三度使って離れていっては意味がない。目指すべきはマーケティングの力をそれほど借りなくても自立的に成長できるプロダクトだ。

10→100(それ以上):タウンビルダーPM

 グロースステージを無事乗り越えると、いよいよプロダクトが世の中のメインストリームとして多くの(もしかすると世界中の)ユーザーから使われるようになる。

 例えばB2Cのアプリで幅広いユーザーに使われるものの場合、月間アクティブユーザー数が1000万人以上になってくると、それこそどこかの国の人口と同じくらいの規模になる。ユーザーが増えれば期待値はさらに上がり、要望やユースケースも多様化する。またプロダクトを悪用するユーザーもでてくるだろう。まさに街づくりと同じように多様なニーズに応えていくのだ(シリコンバレーではタウンビルダーPMと呼んだりする)。未来を見据えるだけでなく、こうした声に答えていく姿勢を保たなければ、最終的にユーザーはプロダクトを離れていくか競合他社に流れていくことにつながる。

 また大企業等の新規事業がこのステージにまで来ると、スタートアップとは異なる考え方が必要となる場合がある。独立した事業部となることもあれば、上層部から既存事業との統合や、逆に子会社化といった要請をうけることもあろう。逆に他社を買収してより大きなプロダクトへと進化しようという考えもあるかもしれない。最終的な決定は経営層が行うとはいえ、プロダクトマネージャーとしてはこのステージにあるプロダクトをどう進めるのが会社にとって一番良いのか、その勝ち筋を描き、経営陣に対して適切なコミュニケーションを行う必要がある。

 またメインストリームの時期は永遠に続くわけではなく、いつかプロダクトのピークが来て、収益力が落ちるタイミングが訪れる。次世代プロダクトへと移行を始めなければいけないケースだ。この場合は「エンドオブライフ(End of Life)」もしくは「プロダクトサンセッティング(Product Sunsetting)」という考え方を通してライフサイクルを完結させ、顧客への不便を最小化しつつ次のプロダクトへの移行を促さなければならない。

次回は

 前回と今回でプロダクトライフサイクルとその中で求められるPMの役割について解説してきた。一口にPMといっても、一つの決まった型で完結するわけではないことがおわかりいただけたのではないかと思う。ご自身に当てはめてみて、今はどのPMのタイプに近いか、どのようなPMに興味があるかを考えるきっかけとなれば幸いである。

 プロダクトライフサイクルが移り変わったとしても、一気通貫した強い軸を持ち続けなければいけない。次回は、プロダクトチームが一丸となってプロダクトを成功に推し進めていくために必要な強い軸の作り方について記載する。

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 本連載は、プロダクトマネージャーを目指す方への道しるべとなる書籍(執筆中)の一部抜粋です。

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この記事の著者

及川 卓也(オイカワ タクヤ)

 早稲田大学理工学部を卒業後、外資系コンピューターメーカーに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、その後、別の外資系企業にてOSの開発に携わる。その後、3社目となる外資系企業にてプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーとして勤務後、スタートアップを経て、独立。2019年...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

曽根原 春樹(ソネハラ ハルキ)

 Fortune500系外資企業に入社後、SE、カスタマーサポート、マーケティングなど様々な役職を日米で従事。その後シリコンバレーでプロダクトマネージャーに転身。B2B、B2C領域で米系大企業・スタートアップの双方でプロダクトの世界展開に携わる。現在はSmartNews社米国法人にて日本のスタートア...

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小城 久美子(コシロ クミコ)

 toC向けサービスを提供するWeb系企業に入社し、その後いくつかの企業で新規事業の立ち上げなどにエンジニア、スクラムマスターとして携わる。どう作るかより何を作るかに興味関心が移り、プロダクトオーナー/プロダクトマネージャーに転身。プロダクトマネジメントについてより深めるために、2019年よりTab...

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