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QA to AQ:アジャイル品質パターンによる、伝統的な品質保証からアジャイル品質への変革

品質の特定と品質の可視化ためのパターン:「着陸ゾーンの再調整」「着陸ゾーンの合意」「システム品質ダッシュボード」

QA to AQ 第7回

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 本連載では、アジャイル開発において効率的かつ効果的に品質保証を進めるために有用な実証済みのパターン集『Quality Assurance to Agile Quality』(以下、QA2AQ)の和訳を、関連するいくつかのまとまりに分けて提供することで、アジャイル開発における品質保証の実践をお手伝いします。7回目となる今回は、前回に引き続きアジャイルで重要な品質特性を特定するためのパターンをまとめた分類「品質の特定」、および「品質の可視化」の中から、3つのパターン「着陸ゾーンの再調整(Recalibrate the Landing Zone)」「着陸ゾーンの合意(Agree on Quality Targets)」「システム品質ダッシュボード(System Quality Dashboard)」の和訳を提供します。

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表1 QA2AQにおける分類とパターン
分類 概要 パターン名
中核 他のパターンを用いるうえでの基礎となるパターン
  • アジャイル品質プロセス [1](第1回)
  • 障壁の解体 [3](第1回)
品質のアジャイルなあり方 アジャイルプロセスにおける品質保証のあり方や役割のパターン
  • QAを含むOneチーム [1](第2回)
  • 品質スプリント [1](第2回)
  • プロダクト品質チャンピオン [5](第2回)
  • アジャイル品質スペシャリスト [6](第3回)
  • 品質チェックリスト [5](第3回)
  • 品質作業の分散 [6](第3回)
  • 品質エキスパートをシャドーイング [5](第4回)
  • QAリーダーとペアリング [3](第4回)
  • できるだけ自動化 [6](第4回)
品質の特定 重要な品質を特定するためのパターン
  • 重要な品質の発見 [2](第5回)
  • 品質シナリオ [1](第5回)
  • 品質ストーリー [1](第5回)
  • 測定可能なシステム品質 [2](第6回)
  • 品質の折り込み [1](第6回)
  • 着陸ゾーン [2](第6回)
  • 着陸ゾーンの再調整 [2](第7回)
  • 着陸ゾーンの合意 [2](第7回)
品質の可視化 重要な品質を可視化しチームメンバーに気付かせるパターン
  • システム品質ダッシュボード [2](第7回)
  • システム品質アンドン [4]
  • 品質ロードマップ [4]
  • 品質バックログ [4]

着陸ゾーンの再調整

  • パターン:着陸ゾーンの再調整(原題Recalibrate the Landing Zone 原著 Joseph W. Yoder and Rebecca Wirfs-Brock)[2]

 「素早くテストを行い、素早く失敗し、素早く調整する」――Tom Peters(アメリカの経営コンサルタント)

 最初に、数回の反復で達成すると予想される一連の着陸ゾーンの基準を定義しました。残りの着陸ゾーンは、意図的に大雑把な表現のままにしておきました。新しい機能を実装した後も、既存の基準の値を監視しながら、新しい着陸ゾーンの基準を追加し続けました。

 どのようにして着陸ゾーンを進化させ、最新の状態に保ち続けることができるでしょうか?

***

 開発を続けると、基準を着陸ゾーンの目標値内に収めることが難しくなる可能性があります。新しく特定された着陸ゾーンの基準を達成するソリューションは、他の着陸ゾーンの値を維持することに影響を与える可能性があります。

 当初達成可能な目標と思われたものが、新しい情報または現在の実装状況を考慮して変更される可能性があります。

 目標を絶えず前後に移動しないことは重要です。ただし、アジャイルの精神では、新しい情報を学習すると、必要に応じて目標値を再検討して優先順位を付けることができます。

 プロダクトオーナーまたはクライアントは、これらの目標を重要と見なすものの、実行する必要がある他の事柄よりも優先順位が低いと見なし、システム全体への影響を理解できない可能性があります。

 予算と時間の制約により、重要な品質制約の達成に費やすことができる労力が制限される可能性があります。

***

 したがって、単に敗北して投げ出すのではなく、着陸ゾーンの基準を再検討し、期待値をリセットしましょう。

 現在分かっていることを考慮すると、適切でない値があるかもしれません。

 システムを段階的に実装し、システムの機能と限界についてより多く学習してきているため、着陸ゾーンの基準とその値が時間とともに変化し、調整されるのは自然なことです。

 当初合理的な目標と思われたものは、新しい事実または市場の変化を考慮して変更されます。昨日のプロダクトを今日の市場に届けたいと思う人はいません。以前の実装の決定は、新たに特定された基準を達成する能力に影響を与えたり、能力を制限したりする可能性があります。たとえば、特定のパフォーマンス目標の達成に集中するよう決定すると、ユーザービリティや柔軟性の基準に影響を与える可能性があります。

 リリース基準のような着陸ゾーンは、変更することができ、変更されることもあります。実際、着陸基準の許容値を変更することは必ずしも悪いことではありません。特に現在の状況に対応し、思慮深い設計上のトレードオフを行う場合はそうです。これは、進行中の開発サイクルの一部です。品質目標の作業に優先順位を付け、品質特性と機能の提供のバランスを維持することが重要です。

 例えば、ある着陸ゾーンのパフォーマンス目標を達成するために返済する必要がある技術的負債を作り出した可能性があります。時間と予算の制約があるため、現在のリリースの設計のやり直しには投資しないこととします。機能を早く作ることよりも、機能を時間通りに提供することが重要です。したがって、着陸ゾーンを再調整することを選択します(受け入れ可能なパフォーマンス基準を低く設定する)。受け入れ可能なものを再定義するという意識的な決定をしたのです。

 また、新しい情報/システムの能力/技術に基づき、着陸ゾーンの基準を上方に再調整/再設定することもできます。たとえば、検証により、キャッシュとバッファのサイズを調整することで、重要なデータ変換(ETL)プロセスの処理能力を向上させることができます。時間制約が厳しいETLプロセスでは、キャッシュとバッファの調整を考慮し、単に「優良」な範囲に移動するのではなく、許容可能な最低値を上方に調整する必要があることに注意してください。チームが着陸ゾーンを再調整する場合には、チームは、着陸ゾーンの合意(品質目標の合意)が必要になることがよくあります。

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この記事の著者

鷲崎 弘宜(ワシザキ ヒロノリ)

 早稲田大学 研究推進部 副部長・グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所所長・教授。国立情報学研究所 客員教授。株式会社システム情報 取締役(監査等委員)。株式会社エクスモーション 社外取締役。ガイオ・テクノロジー株式会社 技術アドバイザ。ビジネスと社会のためのソフトウェアエンジニアリングの研究、実践、社会実装に従事。2014年からQA2AQの編纂に参画。2019年からは、DX時代のオープンイノベーションに役立つデザイン思考やビジネス・価値デザインからアジャイ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

長谷川 裕一(ハセガワ ユウイチ)

 合同会社Starlight&Storm 代表社員。日本Springユーザ会会長。株式会社フルネス社外取締役。 1986年、イリノイ州警察指紋システムのアセンブリ言語プログラマからスタートして、PL,PMと経験し、アーキテクト、コンサルタントへ。現在はオブジェクト指向やアジャイルを中心に、コンサルテ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

濱井 和夫(ハマイ カズオ)

 NTTコムウェア株式会社 技術企画部プロジェクトマネジメント部門、エンタープライズビジネス事業本部事業企画部PJ支援部門 兼務 担当部長、アセッサー。PMOとしてプロジェクトの適正運営支援、及びPM育成に従事。 IIBA日本支部 教育担当理事。BABOKガイド アジャイル拡張版v2翻訳メンバー。ビジネスアナリシス/BABOKの日本での普及活動に従事。Scrum Alliance認定Product Owner。SE4BS構築やQA2AQ翻訳チームのメンバー。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小林 浩(コバヤシ ヒロシ)

 株式会社システム情報 フェロー CMMコンサルティング室 室長。CMMI高成熟度リードアプレイザー(開発,サービス,供給者管理)。AgileCxO認定APH(Agile Performance Holarchy)コーチ・アセッサー・インストラクター。Scrum Alliance認定ScrumMaster。PMI認定PMP。SE4BS構築やQA2AQ翻訳チームのメンバー。CMMIやAPHを活用して組織能力向上を支援するコンサルテ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

長田 武徳(オサダ タケノリ)

 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ シニアITアーキテクト。ITサービス・ペイメント事業本部所属。2006年入社以来、決済領域における各種プロジェクトを担当後、2018年よりプロダクトオーナ・製品マネージャとしてアジャイル開発を用いたプロジェクトを推進。現在は、アジャイル開発におけるQAプロセスの確...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

田村 英雅(タムラ ヒデノリ)

 合同会社 GuildHub 代表社員。日本 Spring ユーザー会スタッフ。大学で機械工学科を専攻。2001 年から多くのシステム開発プロジェクトに従事。現在では主に Java(特に Spring Framework を得意とする)を使用したシステムのアーキテクトとして活動している。英語を用いた...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

陳 凌峰(チン リョウホウ)

 フリーランサー。2003年に上海交通大学(ソフトウエア専門)を卒業後、2006年から日本でシステム開発作業に従事。技術好奇心旺盛、目標は世界で戦えるフルスタックエンジニア。現在はマイクロサービスを中心にアジャイル 、DevOpsを展開中。

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