価値提供の深度
Jesse James Garrett 氏の著書『Elements of User Experience』で紹介されているUXの5階層を引用すると、体験をデザインするには、戦略から表面まで幅広くデザインする必要があることがわかります。
ユーザーに価値を提供するには、ユーザーニーズを把握して製品やサービスを作る目的を定めるところから、実際にユーザーの目に触れ操作される表層部分までのすべてをデザインすることになります。そして、上の層は下の層に支配されているので、いちばん深い戦略からデザインをすることが不可欠です。ではこの深い部分は、どのように考えていけばいいのでしょうか。
価値実感のプロセス
事業を作り上げていくためには、まずどの業界にどのような価値があるのかを発見する必要があります。4つのフェーズごとに、順番に見ていきましょう。
1.価値発見フェーズ
ユーザーニーズや課題は何か。そしてそれは解決可能なのか、などを試行錯誤しながら、どこにどんな価値があるのかを見つけていきます。1対1の面談形式でユーザーの深いニーズや要望を聞き出す「デプスインタビュー」やユーザーの行動を詳細に観察し問題やニーズを発見する「エスノグラフィー調査」、アイデアをカタチにして素早くユーザーからフィードバックを得るための「プロトタイピング」などいろいろな手法を試してみると良いでしょう。
2.価値表現フェーズ
無事に提供すべき価値を見つけたら、機能やUIを使って表現し、その価値が感じられるような形でプロダクトに落とし込んでいきます。プロダクトマネージャーを中心に、デザイナーとエンジニアがUIや機能、インタラクションやアニメーションなどのディテールを制作していきます。
3.価値伝達フェーズ
もちろん作っただけではユーザーに使ってもらえません。プロダクトやサービスの存在をユーザーに伝え、興味や関心を持ってもらうことで初めてユーザーは使い始めます。製品やサービスにまつわるコミュニティを形成したりSNSを運用したり、リアルイベントを開催するなど、ユーザーにそのプロダクトが持つ価値を伝えていきます。
4.価値継続フェーズ
長く使い続けてもらえるようユーザーとコミュニケーションをとったり、カイゼンしてより良いモノに変化していくことも重要です。カスタマーサポートのメンバーがユーザーに寄り添ったり、問い合わせやアナリティクスの数値を見ながらカイゼンすることで売上がアップし、ひいてはそれが事業の継続につながっていくはずです。
これら4つのフェーズがひとつにつながった時に「プロダクトやサービスの“価値提供”が成立している」というのが私の考えです。掲げたビジョンに近づいている状態とも言えるでしょう。
事業をデザインするために不可欠な事業ドメイン知識とは
ユーザーを深く理解し、実現可能な仕組みやそれを支える技術があるだけではなく、その“事業領域特有な知識”も不可欠です。これを私は「事業ドメイン」と呼んでいます。
組織開発や人材の領域でいえば組織論や採用学、金融業界ならお金の仕組みや法律など、その分野ごとに必要な知識は異なりますが、この事業ドメインの知識があることで、本記事で挙げてきた「価値」をよりディファインさせ、さらに深い価値を作りだすことが可能です。
デザイン経験をブログなどにアウトプットする人が増えたこともあり、デザインに関する情報やノウハウから学びを得られることは増えましたが、まだまだ事業ドメイン知識を見かける機会は少ないように思います。書籍や論文などでそういった知識を理解していくことが、UIやUXのデザインにも活きてきますし、事業をデザインすることにもつながっていくはずです。
もし事業をデザインする機会があれば、今回の内容を参考に、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。