スタートアップの生命線は、スピードとPMF
メディカルフォースという会社は、名前に「メディカル」と入っているものの、実際には医療系のSaaSだけでなく、さまざまなサービスを展開している企業である。当初は、社名と同じ「medicalforce」というSaaSを2021年にローンチした。これは、保険診療のみならず、自由診療(保険が適用されない医療)を提供しているクリニックを中心に患者の予約から会計までを一括で管理できるサービスだ。そして2024年5月には警備業界向けの同様のSaaSを提供開始しており、バーティカルSaaSを多岐にわたって開発していくことを目指している会社である。そのため、ビジョンを「これからの産業の成長プロセスを合理化する」とし、より広範な事業展開を目指している。
CTOの畠中氏は、学生時代からインフラの構築やWebアプリの立ち上げに多数取り組んできた。2020年11月に株式会社メディカルフォースを設立し、現在のサービスをフルスクラッチで開発した。開発と並行して、深層生成学習を用いた研究が国際学会に採択されるなど、機械学習(AI)や最先端技術にも精通している人物だ。
畠中氏は「今回の話は、アーキテクチャ選定の難しさを感じている方や、組織が大きくなるにつれてスピード感が落ちてきたと感じる方に向けて、何かヒントを提供できればと思います。また、ドメイン駆動設計(DDD)についても触れる予定で、その本当の価値を伝えられればと考えています」と今回の講演のメインテーマに触れた。
スタートアップにとって、スピードが何よりも重要である。畠中氏は「このスピード感は創業期だけでなく、現在でも非常に重要。最初のプロダクトを開発し、それが世の中で使われるようになるまでには、PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成する必要があります。PMFとは、既存のシステムから新しいシステムへとスムーズに乗り換えが行われる状態のことを指すと考えています」と語る。既存のシステムはExcelや競合の製品であるかもしれないが、新しいシステムが業務をより簡単にすることで、顧客が自然に乗り換えるような状況がPMFの達成となる。
新しいシステムを作る際には、元のシステムと比べて何ができるようになるか、どれだけ業務が簡単になるかを示すことが重要だ。しかし、元のシステムでできていたことができなくなる可能性もあるため、できなくなる部分を最小限に抑え、できることを増やさなければ、顧客は乗り換えてくれない。畠中氏は「自由診療の業界では、20年もの間使われていたシステムがあったため、PMFの達成に苦労した経験があります」と話した。
メディカルフォースでは、創業からの初期段階は、とにかく早く開発を進めることでさまざまな課題を乗り越えてきた。しかし、時間が経つと競合が増え、機能がコモディティ化してしまった。競合と真に差別化するためには、顧客と向き合い、独自のロードマップを実装するスピード感と能力が重要となる。畠中氏は、これを長期間維持することが、CTOとしてメディカルフォースの価値を支える役割であるとした。