フォード社ではどうOKRを導入したか? 失敗から得た教訓
ここからは、フォード社と「FordLabs」がどのようにOKRを活用してきたか実例を紹介。失敗事例も含めて紹介し、なぜ失敗したのかの理由や、より良いOKR活用のためにどうすべきかについて、アンディ・グローブが提唱した「よいOKRのための7つのヒント」に沿って説明した。
(1)少ないほどいい
最初のポイントは「少ないほどいい」。つまりOKRをたくさん設定することではなく、実際に取り組めるものを厳選して選ぶことの方が重要ということだ。
これについてギルバート氏は自らが携わったプロジェクトでの例を挙げた。
「FordLabsにおいて私は、顧客がいつでもアクセサリーを注文し車に装着できるようにするEコマースのサイト構築に取り組んでいました。その中で注視すべきKPIが20個以上にのぼっていたのです。サイト上で新しい施策を試しても、主要KPIのうち10個が改善し、10個が悪化する結果になることもありました」
そこで、一歩引いて3つの主要なObjectivesに絞ったところ、Key Resultsとなる指標を見つけ出し、実際にどこで大きな変化が起こっているのか理解することができたという。そして、サイト上で新しいことを試すたびに、Key Resultsに与える影響を確認できた。その結果、何をすればObjectivesを達成できるかが見えたという。大量かつバラバラなKPIを測定する必要はなかったのだ。
(2)ボトムアップで目標を設定する
2つ目のポイントは「ボトムアップで目標を設定する」。これは各社員やチームが自分自身でOKRのおよそ半分を作成し、上司と相談するものを奨励するものだ。
実際、FordLabsでは毎年4つのObjectivesが設定されているが、それを達成するための個人レベルのKey Resultsは事前に策定されておらず、自身で設定するという。例えばObjectivesの一つに「フォード社に貢献すること」があるが、これを達成するには、FordLabsの持つ技術や実践を共有するための勉強会やブログの執筆、セミナーの開催などが考えられる。
「設定されたObjectivesに対して社員が柔軟性を持ってKey Resultsを考え決めることができれば、真にエンパワーメントと自律性を与えることができる」とレイズ氏。
(3)指示しないこと
3つ目に挙げたのは「指示しないこと」。OKRは協力関係を重視する社会契約だ。つまり、最上位に位置する会社全体のObjectivesであっても、それにかかるKey Resultsについては組織全体で議論がなされ、見直されるべきだ。
数年前、フォード社の北米事業部門では、一定のマージン目標を達成するという明確なObjectivesが設定されていた。これは北米事業部門全体に対する呼びかけで、数多くの会議が行われ、このObjectivesがなぜ重要なのか話し合い、その目標のために一致団結したという。OKRがうまく機能した例だ。
「ここでは、組織と社員が従うべきKey Resultsが特に定められていませんでした。そのおかげで、例えば、マーケティング部門では顧客に対するよいインセンティブは何か、それは顧客が求めているものなのか考え、車を購入した顧客に一定の金額を還元する方法を考えるなど、Objectivesに結び付くKey Resultsを自分たちで設定することができました」(ギルバート氏)
(4)柔軟性を保つ
4つ目は「柔軟性を保つ」。アンディ・グローブ氏によると、環境が変化してObjectivesが実用的でなくなった場合は、Key Resultは修正され、サイクルの途中であっても破棄されるべきだという。
ここでは、OKRを効果的に活用できなかった事例を紹介した。FordLabsが協働したあるグループは、四半期ごとにOKRを設定していたが、OKRを“不可侵な”ものにしてしまっていたという。Key Resultsを設定したら必ず実行し、四半期ごとにそれが達成できたかどうかを判断する運用だったのだ。
この問題点は「新しい学びが得られない」点だ。実験を通じた学びによって、既存のOKRの重要性が下がることはよくある。レイズ氏は「例えば、新しい市場に参入しようとしていて、障壁が多すぎて困難だと分かった場合、OKRを変更するのに四半期末まで待つ必要はない。元々のOKRは重要ではなかったと結論付け、期中でも違う施策を試していくのが自然」と指摘した。
(5)失敗覚悟で挑戦する
5つ目のポイントは「失敗覚悟で挑戦する」。ここでもFordLabsの例を紹介した。達成が容易でないOKRを設定し、プロダクト開発が失敗する可能性も踏まえて、どのように最初の一歩を踏み出したかというケースだ。こういったOKRは心理的なハードルも高い。
例に挙げたのは、Webサイトを再構築し、一般のユーザーからよく寄せられる質問に対する回答を用意した事例。チームはかなり意欲的なNPSのObjectivesと顧客体験に関するKey Resultを設定し、さらに追加で「コールセンター全体の通話量を減らす」目標を設定した。かなり難易度は高かったが、チームはこの目標を達成できたという。チームメンバーは達成できたことでモチベーションをさらに上げ、Objectiveを達成するための他の方法も試したという。
レイズ氏はこれについて「プロダクト開発の重要な側面にも結び付けいている。それは『失敗するなら早めに』『失敗を受け入れる』ということ」と指摘。OKRに限らず、失敗を受け入れることで創造的なソリューションを生み出すことができ、最終的には顧客に対しても成功をもたらせると説明した。
(6)武器ではなくツール
6つ目のポイント「武器ではなくツール」は、OKRがプロダクトチームとメンバーが自分の立ち位置を測り、実績へのエンゲージメントを高めるツールであることを示している。OKRは「このチーム・プロダクトは失敗だからやめろ」と言うための尺度として使われるべきではない。
失敗例として、ギルバート氏は次のケースを挙げた。FordLabsはマーケティングチームと協力して代理店等向けのWebサイトを再構築したが、マーケティングチームは「新しいサイトを構築すること」自体にフォーカスしてしまっていた。Objectivesを見直す議論もうまくいかず、新規ページの配信に集中し続けた結果、サイトは閉鎖してしまったという。
ここでは、OKRがあくまで当初の目的に沿っているか測るための指標として使われ、より高いレベルのObjectivesを達成し顧客に多くの価値を与えるためには使われていなかったことが問題だった。
(7)忍耐強く、毅然に臨むこと
最後の7つ目のポイントは「忍耐強く、毅然に臨むこと」。これまでの例を見れば分かるように、フォード社はOKRを導入する中で、真に成功した例だけでなく、失敗し学んだ例もある。まだ学びの途中にあり、OKRを使いこなす旅を続けているという。
ギルバート氏は参加者に向けて、「『私の会社ではOKRの導入は難しいだろう』と思わないでください。OKRの導入は誰にとっても我慢強く取り組み続ける必要があるプロセスなのです」と強調した。そして「手始めに、プロダクトの中の一つから小さく始めるのはどうでしょうか。あるいは、私生活から始めてみるのもいいかもしれません」と前向きに呼びかけた。
