エンジニアは経営視点をどう学ぶ? 普段の業務で意識すべきポイント
──エンジニアは普段の業務から、どのように経営視点を学べばよいですか?
西川さん:例えば、給与明細をもらった時に、税金や社会保険、控除などがどのように計算されているのか、明細の裏側で動いている会社のお金の流れを調べてみてください。また、先ほど家計を会社に置き換えてお話しましたが、次は会社を家計に置き換えてみてほしいです。普段家計から支払っている家賃のように、会社のオフィスにも経費がかかっているはずです。経営者はこうした資金の流れを常に把握していますが、会社員の立場からはあまり意識しない部分だと思います。
物事の裏側や、実は理解していないものに意識的になり、深堀りすることで経営視点も学びやすくなるのではないでしょうか。このような学び方の姿勢は、エンジニアがプログラミングをする時に自然に身に付けているものだと考えます。例えば、他人が書いたコードの動作が理解できない場合、調べてみるといった姿勢です。1行1行のコードが積み重なって1つのサービスが成り立っているように、ビジネスもお金の流れが積み重なって成り立っています。この流れを1つずつ紐解いていくのは、エンジニアのみなさんにとって馴染み深い考え方なのではないでしょうか。物事を突き詰めて学んでいく学習の仕方を、エンジニアリングだけでなく、ビジネス面でも発揮してみてください。
またみなさん、自身の給料に対する興味は強いですよね。この興味の幅を、会社にも広げていくことが、経営視点を身に付ける一歩となるでしょう。経営者と会社員では立場が違うので難しい部分もありますが、想像力を働かせることはできます。
──この4月からChief Technology Officer(CTO)に就任されたということですが、CTOの仕事と経営視点はどのように関わりますか?
西川さん:CTOは、最高技術責任者と称されるように、技術面での責任を担う経営陣の一員です。企業によってその役割や業務はさまざまですが、私の見解では、経営者としての視点が欠かせない職位だと考えています。「経営視点を持つ人(経営陣)の中で、最も技術に詳しい役職」ぐらいの感覚です。
長年エンジニアとして活躍してきた人でも、経営陣に加わる際には、エンジニアから経営者への大きな思考の転換が求められます。CTOを目指すエンジニアの方々には、技術だけでなく経営視点も磨いていくことを初めから意識してほしいです。
自分の人生の経営者は自分──経営視点で見つめ直すエンジニア人生とは?
──海外のテックカンパニーの創業者は、どんなスキルを持って組織を率いていますか?
西川さん:例えば、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏は、大学で電気工学を学んだ後にMBAを取得しています。彼のように、コンピューターや技術に関する知識を身に付けてからビジネスの世界に進み、さらに経営についても学んで会社を率いるリーダーが増えています。技術と経営の両方の素養を兼ね備えることが、現代のリーダーシップのスタンダードとなっています。
自分の所属する会社が、こうしたリーダーたちの率いる会社とグローバルな世界で競争していることを認識すると、ビジネスに関する知識を後回しにはできないと感じますよね。自分の所属する組織で「やりたいことを実現できない」と感じた時はただ嘆くのではなく、どの部分を修正すれば実現できるのかを考え、そのために必要な勉強を積んでほしいです。経営的な素養を持つことで、自らの可能性も広がっていくと思います。
──最後に、これから経営視点を学ぶエンジニアへのメッセージをお願いします。
西川さん:経営という言葉は、一般の会社員にとってはなじみが薄いかもしれませんが、自分自身の人生を経営するのは自分です。「自分の人生を経営者である私は、どう経営するのか」このような視点から自分の人生を見つめ直すと、これから学ぶべきことや取り組むべきことに対して、より意識的になれるのではないでしょうか。人生の経営者として真剣に、そして深刻に自身の生き方を捉えてみてください。人生に対する見方や考え方が変わるかもしれません。