なぜエンジニアは経営視点を持ちづらいのか?──開発や技術選定への影響とは
──組織にいるエンジニアはなぜ、経営者の視点(経営視点)を持ちづらいのでしょうか?
西川さん:経営視点について考えるとき、企業や自身が社会にどのように貢献するか、つまり価値提供に注目する必要があります。しかし、この問い自体が難解であるとも感じます。
企業は社会に何らかの価値を提供し、その対価として利益を得ています。起業家たちは、なぜその会社を立ち上げどのような価値を社会に提供するのか、会社の社会的意義を深く自覚し、創業します。しかし、組織のメンバーは、エンジニアに限らず専門性を持って働いています。従業員として働く人々には、専門性を超えて会社の意義を考える機会が限られているように感じます。
経営者との対話を通じて、会社の意味について深く考える機会が必要かもしれません。前述したアカウンティングの知識は、その際の共通言語になるはずです。
──経営視点を持たないと、エンジニアの仕事にはどのような影響がありますか?
西川さん:開発の面では、自分の作成しているプロダクトが社会にどのように貢献するのかを理解できないため、モチベーションや開発生産性の面で劣ると思います。経営層が事業計画や戦略を従業員に伝えるのはもちろんですが、エンジニアも会社が提供するプロダクトがなぜ社会に必要なのか知ろうとする姿勢を持つことで、リリースされたプロダクトが無駄になる可能性が低くなると思います。
技術選定においても、経営視点は極めて重要です。アカウンティングの知識がないと、自社のプロダクトが最終的に利益を生むかどうかが分かりません。経費やプロジェクトにかけられる期間は経営的な戦略に基づいて決定されるので、これらを理解しないと指示通りに作業するだけの存在になってしまいます。逆に、導入したい技術や、やってみたい新規事業に必要な経費・時間を見積もり、その社会的価値を説明できれば、経営陣を説得できる可能性が高まります。
現在、組織の中で働いているエンジニアの中には、「なぜ自分の理想を会社で実現できないのか」と疑問を抱いている人もいるかもしれません。この「なぜ」を解消するために、経営視点を学んでほしいです。数字で示される収支には曖昧さがないので、経営者の視点からみれば、意見を通せない原因が明らかなことも多いです。