「多くの人」ではなく「正しい人」を招く──コミュニティ誕生の瞬間
講演は感動的なあいさつから始まった。AWS Japanの前社長である長崎忠雄氏がサプライズ登壇し、2011年に入社してからのJAWS-UGの成長を振り返ったのだ。「JAWSコミュニティは、関わってくれた皆さんの努力で大きく成長しました。これまで支えてくれた皆さんに感謝します。AWSのミッションはまだ完了していませんが、皆さんの力が合わされば、更なる高みに進むことができるでしょう。私が退任した後も、日本がAWSにとって重要な国であることは変わりありません。引き続きイノベーションを進めていくことを期待しています」(長崎氏)
そして、ジェフ・バー氏が登壇し、スピーカーを引き継いだ。バー氏は1970年代からソフトウェアやテック領域に携わり、2002年にAmazonに入社後はエバンジェリストとして活動している。バー氏はエバンジェリストとして、AWSサービスの最新情報を提供するだけでなく、多くの時間を人々との交流やソーシャルメディアでのリアルタイムなやり取りに費やしているそうだ。
「エバンジェリストとしての仕事は発言が多いと思われがちですが、それは仕事の一部に過ぎません。実際には、コミュニティや顧客の意見を聞き、アイデアや提案、フィードバックを得ることが大切です。得た情報は新しいAWSサービスのアイデアにつながることがあり、それらを直接関連するチームに伝えています」(バー氏)
バー氏のJAWS-UGとの出会いは、2010年ごろにJAWS-UGの発足を聞き、イベントのスピーカーとして打診を受けたことだ。以来、多くのJAWS-UGイベントで講演を行ってきた。コロナ禍においてはオンラインでの講演も行なった。バー氏は「JAWS-UGのメンバーはいつも非常に温かく、友好的で、私が東京で最高の時間を過ごせるようにしてくれた。大変感謝しています」とコメントした。
コミュニティの温かさを強調したバー氏は、その素晴らしさを伝えるため、1975年に「Popular Electronics」誌で紹介されたコンピュータ「Altair 8800」の登場時のエピソードを紹介した。Altair 8800が扱えるデータはわずか256バイトだったが、マシン語のプログラムを自由に書いて実行することができた。Microsoftの創業者であるビル・ゲイツ氏と共同創業者のポール・アレン氏も、Altair 8800の登場によってソフトウェアビジネスの可能性を感じたそうだ。
「Altair 8800の登場は、SF作家たちが描いていた『すべての家庭にコンピュータがある時代』というテーマを実現させました。この出来事は、2006年にAWSがEC2とS3を発売したときと同じくらいのインパクトがありました。人々は非常に興奮し、誰かとつながりたい、一緒に学びたいと思い、コミュニティを形成し始めたのです」(バー氏)
ワープロや電子メール、インターネットが普及するはるか前、シアトルに生まれたコミュニティ「Northwest Computer Club」は、PCに強い関心を持つ人々によって運営され、会合やニュースレターの発行などの情報共有が積極的になされていた。バー氏は「年齢や背景、スキルに関わらず、誰もが歓迎される場所でした。人々は聴くこと、学ぶこと、つながることを望んでユーザーグループに参加します。重要なのは、どれだけ多くの人が来るかではなく、正しい人が来るかです」と語った。