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Developers CAREER Boost 2023 セッションレポート

30年後何をしていますか? 変化する時代を生き残るエンジニアのための「キャリア理論」

【A-9】キャリア理論をもとに考えるエンジニアのキャリア

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 AIの台頭や副業の解禁など、エンジニアの就労環境や所属先で要求されるスキルは大きく変化している。先の読めない現代社会において、技術的スキルを伸ばすべきか、マネジメントスキルを伸ばすべきかと悩むエンジニアは少なくない。来たるVUCA時代をサバイブするために、いま注目されているのが「キャリア理論」だ。イベントでは、自らも会社員からフリーランスに転身した佐藤大典氏が登壇。エンジニア自身のキャリアを切り開くために必要な概念や、具体的な実行プロセスについて語った。

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キャリアパスは「はしご型」から「格子型」へ

 佐藤氏の講演は、キャリアパスの在り方からスタートした。一定以上のキャリアを積んだエンジニアにとって、スペシャリストになるか、マネジメント方向へ舵を切るかという問いは避けて通れない。こうしたキャリアパスをグレード制で定義する企業では、グレード等級を1つ1つ上がっていく様子をはしごに例えて「キャリア・ラダー」と表現することもある。

「キャリア・ラダー」とは
「キャリア・ラダー」とは

 「キャリア・ラダー」は、上段に到達することでキャリアが成功するという考え方だが、はしごを登っている最中に横のキャリアに移りたいケースもある。キャリアチェンジの際は隣のはしごに飛び移る必要があるが、そこには「足を踏み外すのではないかといった恐怖心が必ず出てくる」。この物理的・心理的な障壁を乗り越える難しさが、キャリア・ラダーにつきまとう困難だ。

 佐藤氏自身もマネジメントからソフト開発のラダーに移ろうとしたことがあったが、さまざまな障壁や課題によってなかなか飛び移れなかった。こうした経験をもとに、佐藤氏は「キャリア・ラダーの課題の1つが、可能性の制限だ。定められたはしごを登っているうちに、個々の興味や強み、目標に対する可能性が制限されてしまう」と語る。

 佐藤氏はさらに、上に上に登っていくってことが成功とみなされることで他キャリアに触れる機会が阻害されてしまう「一方向性」と、固定的なキャリアパスにより新たな技術や業界動向への対応が難しくなるという「適応性」を課題として挙げた。

 こうした課題に対して、「キャリア・ラティス」という考え方が提唱されている。はしご(ラダー)では横のキャリアに踏み切って飛び移る必要があるが、ラティス(格子)の場合は上下左右の移動が容易に可能だ。

縦・横のキャリア移動が可能なキャリアラティス
縦・横のキャリア移動が可能なキャリアラティス

 キャリアラティスは、縦軸に「業務における責任」を、横軸にロールのオプションを置いたマトリックスから成る。

 「これが自分の中で整理されると、キャリアをどう作っていくかを考えられる」としたうえで、「こういったロールオプション(実行責任など)を整理すると、1個の職務として組織の中で定義できる」と述べた。

「コーポレート・ラティス」とは
「コーポレート・ラティス」とは

 ラティスの考え方は組織構造にも適用できる。組織の職務をラティスとして組むことで、1つの職務・職種で完結させるのではなく、縦横無尽に針路をとり自分の好きなキャリアを築けるのだ。この考えを「コーポレート・ラティス」という。佐藤氏は「スペシャリストやマネジメントといった役割が全て溶け込んで、組織の中で非直線的なキャリアを形成できる。データベースエンジニアがエンジニアになって、そこからフロントエンド業務を行うということも可能だ」と有用性を示した。

組織としての「境界のないキャリア」

 ここで、佐藤氏は「そもそもキャリアとは何か」という根源的な問いに立ち返る。アーサーらによると、キャリアは「時間の経過とともに、個人が多様な仕事の中で積み重ねた仕事経験」と定義されている。そのため、キャリアはあくまでも「経験を蓄積する個人が形成したもの」であり、これからたどり着く終着点やゴールではないのだ。

 佐藤氏はキャリアの考え方について、職位や業績といった外部から評価可能な要素からなる「外的キャリア」と、自分自身の経験に対する満足度や達成感といった認識からなる「内的キャリア」の2種類が存在すると示す。そのうえで、「外的キャリアに目が行きがちだが、重要なのは内的キャリアだ」と佐藤氏は説いた。

2つのキャリアは連関し、依存する
外的キャリアと内的キャリアの相互作用

 「キャリアは単一の企業における人事制度ではない」と断言する佐藤氏。「我々は誰かの真似をして、誰かと全く同じになることはできない。だからこそ、自分にしか描けない自分自身のキャリアに責任を負わなければならない」と改めて強調した。

 キャリアが個人のものだとすれば、組織はどうなっていくのだろうか。佐藤氏はこの問いに対して、1つの考えとして「キャリアの境界がなくなっていく」という展望を述べた。これは伝統的な組織にとらわれずにキャリアを構築する「バウンダリレス・キャリア」時代が到来するというものだ。佐藤氏は、具体例として以下の6ケースを引用した。

組織ではなく個人が主体となって築くバウンダリレス・キャリア
組織ではなく個人が主体となって築くバウンダリレス・キャリア

 佐藤氏はここで、(6)における「境界のない未来」について補足した。いわく、職業や企業を移動する「物理的移動性」と、自分には移動できる能力があると認識する「心理的移動性」の概念を挙げた。この2概念は相互に作用するもので、個々人の認識や状況変化に応じて4種類の象限(タイプ)に変化する。

縦軸に「心理的移動性」、横軸に「物理的移動性」を取るマトリクス
縦軸に「心理的移動性」、横軸に「物理的移動性」を取るマトリクス

 第一象限:既に身につけた技術や知識を活用して、同じ環境で仕事を続けるタイプ。企業と個人に安定性をもたらすが、変化は少なく静的で、環境の変化に弱い。

 第二象限:経験した技術や知識をもとに、物理的移動を繰り返すタイプ。給与を上げるために転職するエンジニアはここに該当する。物理的移動を重ねることで、キャリアが閉じていく可能性がある。

 第三象限:新しい技術や知識を学んだり、職場外での交流や成長のための活動をしたりするタイプ。特定の企業や職種の固定的なキャリアになり、異なる環境や仕事分野での成長機会が少ない。

 第四象限:物理的・心理的移動性が高く、キャリアが常に変化していくタイプ。変化に対して、雇用する企業や家族がついていけず、職場での調整や家庭生活のバランスを取る上での苦労を生む場合がある。

 このうち、時代の変化に強そうなのは一見すると第四象限のタイプだ。しかし佐藤氏によれば、どんな働き方にも一長一短があると語る。

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この記事の著者

中島 佑馬(ナカシマ ユウマ)

 立命館大学卒業後、日刊工業新聞社にて経済記者として勤務。その後テクニカルライターを経て、2021年にフリーランスライターとして独立。Webメディアを中心に活動しており、広くビジネス領域での取材記事やニュース記事、SEO記事の作成などを行う。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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