生成AIを「作る」か「活用する」か、拡がるエンジニアのキャリア
続いては、生成AI時代のエンジニアの在り方についてだ。漆原氏が「生成AIのような技術は、現場のエンジニアをどう変えるか」と問いかけると、三者三様の答えが返ってきた。
髙橋氏は、「分析というタスクはこれまで、データサイエンティストや機械学習エンジニアの仕事だった。しかし、生成AIがもっと進化すれば、企画やマーケティングの担当者が自然な文章で問いかけるだけで、求める分析結果が出力されるようになるだろう」と展望を語る。「そうなれば、作業者という意味でのエンジニアは不要になるかもしれない。しかしこれは、決して悲観的な話ではない。むしろ、研究者とエンジニアのギャップが縮まることで、両者の知見が融合されやすくなり、中長期的な課題に貢献しやすくなるのではないか」
この意見に、米田氏も同意する。「髙橋氏の見立て通り、すでに現場のエンジニアや営業企画の担当者が専門性の高いタスクに取り組める環境は整いつつある。だからこそ幅広い人を巻き込んで、各データからどのようなタスクが生まれうるか、そしてそれらがどのように事業に活かせるかを一緒に考えていきたい。それと併せて、専門家である我々がどのようなバリューを発揮すべきかも日々模索していく」
両者の話を受けて、「違う切り口を提示したい」と話し始めた曽根岡氏は、OpenAI社がアプリケーション開発企業を続々と買収したニュースを例に挙げる。「生成AIを作る人と、それを使ってアプリケーションを作る人はこれまでバラバラだった。しかし最近では、それらを垂直統合しようという流れが起きている」。生成AIとアプリケーションが統合することで、LLMやプロダクトそのものの品質だけでなく、「エクスペリエンスをどのように作るか」に重点が置かれるようになったというのだ。
その上で曽根岡氏は、「このような潮流のなかで、これまでアプリケーションを作ってきたエンジニアが、生成AIを『作る』側にまわれば、市場価値は非常に高い。もしそのようなキャリアを歩みたいのであれば、ベーシックなディープラーニングの本を1〜2冊読んだあと、論文を精読することをおすすめしたい。そして論文から得た知識をプログラミングコードに翻訳するのだ。このステージに達すれば、どこのAIカンパニーも喉から手が出るほど欲しい人材になれる」と激励する。
これを受けて漆原氏は、「日本は各業界のドメイン知識が深く、質も高いという強みがある。このナレッジと生成AIのパワーが合わされば、爆発的な進歩が起きる可能性は高い。ビッグテックによるソリューションは当然素晴らしいが、それをただ受け取るのではなく、日頃の現場からイノベーションの種を探すのも大切だ」とまとめた。
インフラとして信頼できる生成AIを作っていこう
最後のトピックは、「日本の勝ち筋」についてだ。生成AIの最先端プレイヤーたちは、技術でどのような未来を作りたいと考えているのだろうか。
曽根岡氏は、現在の生成AIのブームは今後落ち着き、生成AIはインフラの一部になるだろうと予測する。だからこそ、信頼性の高いインフラを国内で築いていくことが目先のゴールになるという。
「予測によれば、2040年には労働人口が20%も減るとされている。由々しき事態だが、生成AIによって30%〜40%もの業務効率化が進むと見込まれているのは救いだ」。生成AIが社会課題に対してのソリューションとして機能していけるかどうかが、今後の日本の将来を決める分岐点になるといえるだろう。
米田氏は、「よく『AIに人間が侵略される』などと言うが、AIやLLMはそれほど賢い存在ではない。しかし、使い方を理解して適切に使えば、優秀なパートナーになるのは確かだ」と語る。そして、現在生成AIを活用していない人に向けて、「AIは壁打ち相手やタスクを解決するためのパートナーとして最適だ。AIをうまく使いこなし、よりクリエイティブな仕事に集中してほしい」と背中を押した。
二人の展望を受けて、「人口が減っていく中で、AI活用はマストだ」と断言するのは髙橋氏だ。「AIによって一部の人だけが利益を享受するのではなく、安心・安全を担保し、あらゆる人がAIと共存できる環境を整えることが大事だ。『ドラえもん』のように、万人のパートナーとして頼れる存在を生み出し、未来に残していきたい」
三者の意気込みを聞いた漆原氏は、「生成AI分野では、日々イノベーションが起きている。そんななか、日本に眠るチャンスやチャレンジを見据え、大きな壁を乗り越えようとしている技術屋の皆さんがいる。彼らをぜひ、オールジャパンで支援してほしい」と総括し、セッションを締めくくった。