RAGだけじゃない! エキスパートたちが注目する生成AI活用
トークテーマは、生成AIの最前線プレイヤーである3名がいま注目する技術へと移る。
曽根岡氏が注目する技術は「タスク思考対話(TOD=Task-Oriented Dialogue)」だ。これはその名の通り、タスクを実行するための対話であり、例えば旅行の予約を行う際に、ユーザーとAIがやり取りを通じて情報を集めるケースがこれに該当する。なお、この技術は近年「エージェント」に包含される傾向があるという。
この技術に注目する理由を、曽根岡氏はこう説明する。「コンタクトセンター周りは、LLMにとってセンターピンのような場所だ。タスク思考対話は、お客様から寄せられる要望に応えるうえで大きな役割を果たしてくれる。しかもここ4年で回答の精度が飛躍的に向上し、まさにパラダイムシフトとも呼べる進化が起きている。
世間ではなぜか、コンタクトセンターにおいてRAG(Retrieval-Augmented Generation)が重要だとする考え方が根強いが、RAGは質問など、答えを引き出すタイプの要求に対して有効な技術だ。しかし、実際にコンタクトセンターに寄せられる内容を見てみると、質問よりも要望のほうが圧倒的に多い。この実態を踏まえても、タスク思考対話のほうがより重要というのが個人的な意見だ」。
曽根岡氏の意見に、髙橋氏も同意する。「今や、LLMの発展はかなり広い範囲にまで波及している。例えば自動運転では、読み込んだ画像をend-to-endで言語化し、アクション化するところまで見据えていると聞く。10年、20年も経てば、22世紀を待たずして『ドラえもん』が生まれるかもしれない」。加速度的な技術の進歩に、期待は高まるばかりだ。
日本企業に生成AIが浸透するには?
続いてのトピックは、生成AIの利活用と事業への貢献だ。
まさに生成AIをビジネス領域へと展開している米田氏は、その真価について「LLMの有用性はデータ処理にこそある」と指摘する。
米田氏によれば、LLMを利活用する一番のメリットは自然言語によるデータ(議事録やユーザーレビューなど)を簡単に処理できることだという。すでに、情報の抽出やタグ付け、カテゴリーの分類問題や感情分析といった主要タスクはかなりの精度で解けるといい、「事業への貢献は計り知れない」と話す。
対する髙橋氏は、「日本人はテクノロジーへの関心が高く、AI活用にも大きなポテンシャルがある」としたうえで、「ただし、入力したデータをOpenAIなどの事業者に知られてしまうリスクを過大に捉え、ビジネスへの活用をためらう企業が少なくない」と現状を語る。「特に重要産業では、『深い知識やデータを渡さなければ、正しい推論や結果が返ってこない』というLLMの特性が普及の足かせとなっている。データを暗号化したままend-to-endで処理できるようになれば、活用の機運が高まるのではないか」というのが、髙橋氏の見解だ。
これに対し曽根岡氏は、「生成AIの活用で一番重要なのは、泥臭く改善を重ねるマインドだ」と現場感のある意見を述べる。プロンプトエンジニアリングや前処理・後処理を100回も200回も積み重ね、分析し、考察し、改善していく。このPDCAを回していくことで、業務は自然とスリム化、効率化が進むというのだ。
「コンタクトセンターの現場にいたときも、最初は『こんなの使えない!』と言われていた。ところが改善を重ねるうちに、次第に『ELYZAちゃん』と愛称で呼ばれ始めた。生成AIを浸透させたいなら、はじめから期待しすぎるのではなく、実運用に乗せたうえで繰り返し改善を加えていくことだ」