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Developers Summit 2025 セッションレポート

「可変性を取り戻す」基幹システム再構築──複雑性と向き合うMonotaROのドメインモデリング実践

【13-A-7】業務理解の深化と実践~ドメインモデリングで基幹システムを捉える

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 基幹システムの複雑さに悩む企業は多い。株式会社MonotaRO(以下、モノタロウ)の尾髙敏之氏もその一人だ。モノタロウが抱える膨大な業務とシステムを前に、尾髙氏が選んだアプローチは「ドメインモデリング」。PoCの設計と実装を通じて、在庫数管理ドメインの見直しから全体構造の可視化、組織・個人レベルでのモダナイズにまで踏み込んだ。本セッションでは、イベントストーミングを起点とする実践的なモデリング手法や、移行フェーズの工夫、ボトムアップとトップダウンをつなぐ戦略まで、モノタロウの挑戦の全体像が語られた。

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スケールの裏にひそむ構造のひずみ

 尾髙敏之氏は、モノタロウに入社してまだ1年半に満たないながらも、基幹システムの概念モデリングといった大規模かつ本質的なテーマに取り組む存在だ。CTO-Officeのシニアアーキテクトとして、日々チームとともに「良い構造とは何か」を探り続けている。

株式会社MonotaRO CTO-Office シニアアーキテクト 尾髙 敏之氏
株式会社MonotaRO CTO-Office シニアアーキテクト 尾髙 敏之氏

 そんな尾髙氏が本セッションで共有したのは、複雑化した基幹システムをドメインモデリングによって構造的に整理し、可変性を取り戻すための取り組みの全体像だ。その前提として、まずはモノタロウという企業のビジネス構造とその背景が共有された。

 モノタロウは、自社で間接資材の在庫を持ち、オンラインで販売までを手がけるBtoB向けのフルスタックEC企業だ。基幹業務を含む多くの業務領域を内製化しており、商品点数は約2475万点、ユーザー数は1112万件、売上は2881億円にのぼる(※2025年2月発表時点)。毎年2桁成長を続ける同社は、独自のビジネスモデルによってスケーラブルな成長を実現してきた。

 商品点数を拡大することで顧客数と販売機会を増加させ、さらに自社在庫化、納期短縮、プライベートブランド化によって利益率を高め、再び商品点数の拡大へ──まさに、理想的なビジネスサイクルである。

 しかしその裏では、業務の複雑性が飛躍的に高まり、それを支えるシステム構造も比例して複雑化する課題を抱えていた。

商品数・顧客数の増加に伴い、各ネットワークが複雑化。ドメインごとのスケーラビリティ確保が課題に
商品数・顧客数の増加に伴い、各ネットワークが複雑化。ドメインごとのスケーラビリティ確保が課題に

 尾髙氏は、こうした複雑性を「本質的な複雑性」と「偶有的な複雑性」に分けて説明する。「本質的な複雑性」とは、サービスが高度化する中で差別化要因となる、ビジネス拡大に不可欠な複雑性のこと。一方で「偶有的な複雑性」は、組織の拡大や長年の運用によって意図せず蓄積された複雑性であり、集中すべき課題へのアプローチを妨げる“ノイズ”とも言えるものだ。

 現在モノタロウが注力しているのは、まさにこの偶有的複雑性を取り除き、業務とソフトウェアの“可変性”を取り戻すことにある。これは単なる機能整理やコードのリファクタリングではない。「競争優位の源泉となる複雑性を構造的に捉え直し、事業要求に根ざした形で基幹システムに落とし込まなければ、システムに落とし込んだとは言えません」と尾髙氏は語気を強める。

 こうした課題意識から、モノタロウでは現在、ドメインモデリングを軸に据えた基幹システム再構築の取り組みが進行している。では、その中身はいったいどのようなものなのだろうか。

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この記事の著者

夏野 かおる(ナツノ カオル)

 博士。本業は研究者。副業で編集プロダクションを経営する。BtoB領域を中心に、多数の企業案件を手がける。専門はテクノロジー全般で、デザイン、サイバーセキュリティ、組織論、ドローンなどに強みを持つ。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

篠部 雅貴(シノベ マサタカ)

 フリーカメラマン 1975年生まれ。 学生時代、大学を休学しオーストラリアをバイクで放浪。旅の途中で撮影の面白さに惹かれ写真の道へ。 卒業後、都内の商業スタジオにカメラマンとして14年間勤務。2014年に独立し、シノベ写真事務所を設立。雑誌・広告・WEBなど、ポートレートをメインに、料理や商品まで幅広く撮影。旅を愛する出張カメラマンとして奮闘中。 Corporate website Portfolio website

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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