はじめに
ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)の進化により、AI技術は私たちの生活やビジネスに急速に浸透してきました。なかでも近年注目を集めているのが「AIエージェント」です。AIエージェントは単なるAIツールとしてではなく、人間のように自律的にタスクを遂行し、ビジネスにおける課題解決の突破口となる可能性を秘めています。
本記事では、そんなAIエージェントの基本的な概念から開発における実践的な知見、将来性について、全4回の連載企画としてお届けします。第一部では「AIエージェントの現在地」をテーマに、その定義、具体的な事例、そして活用が期待される分野について詳しく解説します。
対象読者
この記事では、以下のような方を対象としています。
- AIエージェントに興味があり、その詳細について知りたい方
- AIエージェントに関する事業を推進するDX/AI推進部の方
- AIエージェントの開発などに実際に関わっているエンジニアの方
AIエージェントとは何か? その定義と2つの側面
「AIエージェント」という言葉は、その解釈が多様化しており、一般的に大きく2つの意味合いで捉えられています。
- 目的に向かって自らが環境と相互作用する知能システム
- 特定の業務を代行するAIシステム(≒エージェンティックAI)
前者はエンジニア、後者は非エンジニアによる解釈です。すなわち、技術背景や構成要素など「AIエージェントそのもの」に興味が向いているか、課題解決の能力など「AIエージェントの性質」に興味が向いているかの違いがあります。
目的に向かって自らが環境と相互作用する知能システム
「目的」とは、ユーザーから直接指示されるタスク要求を指します。「環境」とは、PowerPointやGoogle Slidesのようなデジタル空間、もしくは行動可能な部屋といった物理空間を指します。つまりAIエージェントとは、抽象的な目的が与えられたときに、「何かしらのステップ」を踏んで成果物を作成するといったシステムです。
ここでいう「何かしらのステップ」は、業務を遂行するのに必要な手続きです。具体的には「思考」「行動」「観測」などが該当します。「行動」は環境に作用する機能、「観測」は環境を知覚する機能を含みます。
たとえば、人間がスライド作成するのと同じように、AIエージェントも次のようなステップを踏んでスライド作成という目的を達成します。
- (思考)まずは全体の構成を考える
- (行動)各ページにタイトルを記述する
- (思考)各ページごとに伝えるべきポイントとレイアウトを考える
- (行動)各ページに内容をレンダリングする
- (観測)全体を通して一貫した内容になっているか確認する
- (分岐)問題があれば1や3に戻って修正し、問題がなければユーザーに提出する
チャットボット(雑談対話・タスク指向対話)と同義であると誤解されがちですが、AIエージェントがチャットボットを内包するというのが正しい関係です。
AIエージェントの本質的な特徴は「環境との相互作用」というループ性にあります。たとえば、ユーザーからのタスク要求を達成するために、PowerPointという環境に作用し、その中間生成物を観測しながら、次のステップを遂行していくような流れをもつのが「AIエージェント」です。