ビジネスへの越境を経て掴んだ、AI時代を戦うための新たな武器
未知の領域に飛び込んで成果を出すことは難易度が高い。しかし、「越境に意味を見出す」ことがやり切る力となる。DevHRとして成果が出なかった時期、坂上氏はエンジニアに戻ろうとは一切思わなかった。なぜなら、DevHRを続ける意味を見出せていたからだ。
自分に不足している「組織を作る・動かす経験」を得られる環境であり、困難な課題を任せてもらえるだけの信頼貯金が偶然あった。そして、エンジニアである前にビジネスパーソンとして、今やるべきことに向き合いたかったのだ。
中途採用の業務を委譲した後、採用広報も任される。経験はなかったが「強い認知を獲得するには大きなカンファレンスでの登壇が効く」と考えた。しかし、開発現場から離れている自分では、エンジニアに響く話をしづらい。そこで「価値ある話ができる社員を巻き込んで全力で支援する」というやり方を選んだ。個人技ではなく、周囲を巻き込んでいったのだ。
その結果、社員の登壇が増えた。2024年6月から2025年12月までに行われた20分以上の登壇は7件で、そのうち6件を坂上氏以外のメンバーが担当した。坂上氏は自ら登壇しない代わりに、良いネタを持っているのに一歩踏み出せない社員のために勉強会を一から企画した。他社の担当者を巻き込みながら、発信機会を創出していった。
さらに2025年5月、TOKIUMは「SaaS企業から経理AIエージェント企業への大転換」を発表した。「経理AIエージェントのカテゴリーで国内ナンバーワンの認知を取りにいく」という目標が生まれ、社内から外部への情報発信に対する強い機運が全社レベルで生じた。
「今やるべきは、社員の発信活動のサポートと発信活動の計測基盤の整備」。坂上氏は、テックブログ執筆・社員インタビュー・登壇などの発信アクションを記録するシートを作成。中途採用では怠った定量的な成果検証を、ここでは徹底した。その甲斐あって開発組織全体の発信数が年換算で約4倍に急増。自社採用サイト経由の応募数も増加し、発信活動が組織にリターンをもたらす可能性を定量的に提示できた。
越境によって挫折も経験したが、確かなリターンも得た。そして2025年12月、3年ぶりにエンジニアへ復帰。組織から「AIによる環境変化の中で、プロダクト開発の出力を更に高めたい」というオーダーが来た。
坂上氏は「3年のブランクとAIによる環境変化に、果たして順応できるのか」と不安を窺わせた。しかしエンジニアとしての探究心には自信がある。「人事からエンジニアにまた大きな越境していくわけですが、それをさらに大きな事業成果だとか、自分の成長につなげていきたい」と語った。

