都民1400万人が利用するアプリへのAI組み込み、開発のカギは「程よい失敗」
──続いて「東京都公式アプリ」についても教えてください。東京都公式アプリを開発した背景にはどのような課題感があったのでしょうか。
浅越:東京都公式アプリの開発の背景には、都民の方と行政の接点を増やしたい、あるいは距離をもっと縮めたいという思いがありました。都民の視点に立つと、例えば何か手続きをしなければならないとき、それが東京都の管轄なのか、自分が住んでいる区市町村の管轄なのか、どこで何を調べればいいのか分からなくなることがあります。
行政の立場から見ても、都民に情報を届ける際に書類の郵送しか手段がなければ、その度にコストがかかってしまいますし、相手の属性にあった情報を届けられているのかも分かりません。都民一人ひとりと行政を素早く適切につなげるための改善が求められていました。
今の時代は多くの方がスマートフォンを持っています。アプリを通じて都民一人ひとりとつながることで行政から必要な情報を届けやすくなりますし、都民の側からも「まずここを見れば分かる」という窓口がひとつできます。 そうした行政との接点、タッチポイントの役割をアプリが果たせるのではないか、というのが「東京都公式アプリ」の出発点になります。
東京都公式アプリで目指すこと。アプリを通じて行政手続や情報取得がワンストップで可能に(イメージ)
引用:GovTech東京
──都民1400万人全員を対象にするアプリ開発というのは、これまでのプロダクト開発とどのような違いがありますか。
浅越:自分が経験してきた民間のプロダクト開発では、具体的なユーザーを想像して、ある種対象ユーザーを絞る場合もありました。しかし東京都公式アプリの開発では、最終的に「都民全体に届ける」ことがゴールになります。
多くの人に届けるためには、ただアプリを提供するだけでは不十分です。全員に届けるための施策を考えて、その実現のためにアプリはどうあるべきか、フロントの部分のほか、基盤までセットで考える必要があります。
関わる人も多い分、やりがいと同時に難しさを感じるポイントです。今も試行錯誤しながら進めています。
──東京都公式アプリへのAI活用についても教えてください。アプリの中にAIが組み込まれることで、どのような効果が生まれると考えていますか。
浅越:AIを組み込むことで、利用者が「何を聞けばいいか分からない」状態からでも、対話を通じて必要な情報にたどり着けるようになります。例えば「引っ越しの手続きは?」「子どもが生まれたんだけど」「親の介護が必要になった」など、ライフイベントに応じた漠然とした質問から必要な届出や支援制度を細かく案内できます。
これまで窓口や電話で職員が対応していたような問い合わせをAIが担えるようになれば、職員の負担軽減にもなりますし、利用者も24時間いつでも相談できるようになります。
──数百万人が利用する規模のアプリということで、AIの組み込みにしてもチャレンジングな面があると思います。
浅越:たくさんの利用者がいるアプリだからこそ、UXや必要なインフラを慎重に整えなければなりません。AIにはハルシネーションの問題がありますし、適切な回答を生成するための情報整備や、回答内容の正確性をどう担保するかといったガイドライン作りも必要になります。
一方で、最初から完璧を目指しすぎると前に進めません。何もないところから一歩一歩手探りで進めているので、致命的ではない失敗をしてそれを改善するサイクルも必要だと考えています。アプリがクラッシュしたり、誤った情報で都民に不利益を与えてしまうような失敗は絶対にあってはいけませんが、リカバーできる範囲での「程よい失敗」をしながら改善していく、そのバランスの見極めが難しいところです。AIを組み込んだ開発のやり方については、世の中の先行事例も参考にしながら進めています。

