「履歴書の郵送または持参」から始まったデジタル改革、その現在地は?
最初に着手したのは、デジタル人材を受け入れるための「入り口」の改革であった。当初、都庁の採用の慣習では「履歴書の郵送または持参」が義務付けられており、オンライン審査すら認められていなかった。デジタル人材を採用しようとする組織が、極めてアナログな手法を強いているという矛盾。宮坂氏はメールでの応募を可能にすることから始めた。
さらに、自ら求人原稿を執筆。「待遇は民間より劣る」「ハードワークである」というネガティブな要素を包み隠さず伝えつつ、「誰かのために働きたい」という公共心に訴えかけるメッセージを発信した。
その後、GovTech東京を設立し、デジタル人材の受け皿となる組織や文化、評価制度などを整えた。結果として今では300名規模の組織となり、そのうちエンジニア、デザイナー、PMなど、「公共」をテーマに働くことに価値を求める多種多様な民間出身の人材が、半数近く在籍している。
宮坂氏が作成した東京都職員の求人原稿
成果は人材以外にも現れている。技術的な成果として特筆すべきは、東京都内の全62区市町村が何らかの形で参加する「共同デジタル化」の枠組みを構築した点だ。従来、各自治体が個別に仕様を策定しITベンダーに発注することで、似て非なるシステムをバラバラに開発・運用していた。
GovTech東京は、東京都や都内区市町村と協働してこの構造にメスを入れ、共通課題に対する「プロジェクト型伴走サポート」や、ハードウェア・ソフトウェアの「共同調達」を推進した。例えば、ウェブサイトの改善やセキュリティポリシーの改定といった多くの自治体の共通課題は、プロジェクト化してサポートを実施。共同調達では、ライセンスや端末の複数の自治体の需要をまとめることで、初年度だけで約23億円ものコスト削減効果を試算している。
さらに宮坂氏は、行政が「調達する(発注する)」だけの存在から、自ら「つくる(開発する)」こともできる「二刀流」の組織へと進化しつつあることを強調した。その象徴が「東京アプリ」と「生成AIプラットフォーム」である。
イベント開催日時点で100万ダウンロードを突破した「東京アプリ」は、行政サービスの提供モデルを根本から変えようとしている。給付金など、これまで行政による支援の多くは、住民が制度を調べ、申請書を書き、郵送する必要があった。しかし、東京アプリはサービスを通じて一人一人の住民に直接情報を提供することを目指している。例えば、災害時に、アプリを通じて一人ひとりに合った支援情報をプッシュで通知し、給付やサービスを受けられるようなイメージだ。
もうひとつの「生成AIプラットフォーム」は、オープンソースベースのLLMを活用したローコード開発基盤だ。特筆すべきは、これを一部の専門家だけのツールにするのではなく、現場の職員がローコードで独自のAIアプリケーションを開発できる環境として提供している点である。 業務を熟知した職員自身が、自身の課題解決に必要なツールを作り、それを他の自治体職員もコピーして利用できるエコシステムが行政内部に生まれつつある。
