弁護士ドットコムが「Legal Brain エージェント」の開発から得られた4つの実践知
後半では、西野氏が法務向け「Legal Brain エージェント」の開発で得られた知見を紹介した。法務担当者は、法律・判例・解説書・公的文書など大量の文献を調査しなければならない。従来の文献検索では、検索結果を確認するだけでも、大変な負担になってしまう。そこでRAGによる横断検索機能と、AIが検索結果の要点を論拠付きで整理・提示することで、この課題の解決を図るプロダクトが、Legal Brain エージェントだ。
西野氏は、この開発を通して得られた知見を、次の4点に整理する。
(1)新技術のPoC(概念実証)はエンジニアが主導しよう
LLM関連の新技術は、登場初期にはREADMEや仕様書しか存在せず、プロダクトへの具体的なユースケースをイメージしづらい。そこで、技術の専門家であるエンジニアが、PoCなどの形でチームに示すことが重要だと、西野氏は言う。Legal Brain エージェントの開発でも、検索の精度などRAGの実用性が分からない状態からスタートしたが、エンジニアがプロトタイプを実装して触れる状態にしたことで、チーム全体の理解が深まり、プロダクトの方向性が定まったという。
(2)ドメインエキスパートと協働し、自らもドメインに詳しくなろう
ドメイン理解のないままRAGのワークフローやプロンプトを作り込んでも、役に立たないエージェントが出来上がってしまいがちだ。ユーザーの課題解決には、ドメインエキスパートと協働しながら、エンジニア自身もドメインに詳しくなり、ユーザーの困りごとを体験することが重要だと、西野氏は言う。Legal Brain エージェントの開発では、エンジニアが、法律資格の学習に取り組んだり、弁護士資格を持つ社内メンバーとともに法律文献の調査を実体験したりした。さらに、ドメインエキスパートとエンジニアがペアになり、検証やプロンプト実装のイテレーションを高速で回すことで、ドメイン知識の効果的な移転と質の高いAI実装を実現したという。
(3)積極的にアプリケーションを作り直そう
AI技術の進化は速く、以前は複雑なプロンプトや多段のワークフローが必要な機能を、最新モデルではシンプルに実装できるようになることは珍しくない。技術の陳腐化が急速に進む一方で、AIコーディングエージェントの登場により、コードを書き直すコストも下がった。そこで西野氏は、積極的に作り直して、最新の技術スタックに乗り換えていく開発スタイルを推奨する。Legal Brain エージェントでも、当初はフレームワークを使わずにAIエージェントを構築していたが、リリース後にLangChain・LangGraphで書き直し、複雑なワークフローを整理したという。
(4)データスキーマだけは作り直しが難しいことに注意
逆に、データスキーマは一度作ってしまうと変更が困難だ。コードは何度でも書き直せるが、データスキーマを変更しようとすると、ユーザーデータの移行や後方互換性などさまざまな困難が生じる。優れたデータスキーマのもとでは、コーディングエージェントも良質なコードを生成する。データモデルだけは直感に頼らず、将来を見据えて慎重に設計すべきだと、西野氏は注意を促す。
最後にまとめとして、田中氏は今後のソフトウェア開発について「How(どう実装するか)よりもWhat(何を作るか)が重要になる」と語る。既にAIの問題解決能力は高く、今後もさらに向上していくはずだ。今後の人間の勝負どころは、いかに良い問題をAIに与えられるかという点にかかっていると、田中氏は指摘する。
「2026年は、人間による問題設定の精度を高めること。そしてAI-DLCをベースとしたチーム開発プロセスのさらなる進化を目指します」と田中氏は講演を締め括った。
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