はじめに
ソフトウェア業界には現役開発者の立場を保持しながら、ソフトウェアハウスを経営するオーナー社長がいます。彼らは最新の技術動向を観察しながら、組織を引っ張ります。数10年に及ぶ豊富な開発経験と圧倒的な技術力を誇り、組織内ではカリスマ化している人さえいます。開発者と経営者の2足の草鞋を履きこなすのは簡単なことではないでしょう。彼らは相当のプレッシャーを感じながら日々生きているはずです。
本連載で取り上げているBjarne Stroustrup氏は、C++を設計しただけではなく、国際標準化委員会活動の先頭に立っています。同氏もプレッシャーの中で生きている一人のはずです。
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今回の質問意図
Stroustrup氏はC++発展の歴史を振り返りながら、“C++の設計作業は所属組織の支援を受けることなく、自分独りで始めたものである”と述懐しています(関連情報:豊田孝の「IT談話館」)。辛い孤独な作業ですが、その一方では、一人身の気楽さという側面もあったはずです。
C++は今、国際標準プログラミング言語の地位に付き、巨大なコミュニティーを持つまでに成長しています。一人身の気楽さはほぼ完全に消え去っているはずです。自分の意見が通らないこともあるでしょう。コミュニティーから自説を批判されるようなこともなきにしもあらずでしょう。コマーシャルベースの仕様変更や改善といった提案もあるはずです。実際、同氏の公開文書に目を通してみると、標準化委員会の席で強い希望を表明したが受け入れられなかった、などといった記述がところどころに散見されます。「C++0x」と呼ばれる次期仕様はどのように策定されるのでしょうか。お尋ねしました。
Question 5: 次期C++仕様のポイントと策定経緯
As always, I had to spend a lot of time reading many pages before compiling this question. From <a href ="http://www.research.att.com/~bs/hopl-almost-final.pdf">your paper</a>, I came to know that about 90 out of 100 initial suggestions for C++0x were related to language features. I was disappointed with that! Those numbers seem to tell us that the C++ evolution is lead by language experts. Compiler writers and vendors show much interest in language details but C++ novices tend to learn libraries and start writing applications based on them. C++ students are not library builders.
いつものことですが、この質問を差し上げるために多くの資料に目を通してみました。あなたの論文『Evolving a language in and for the real world: C++ 1991-2006』(PDF)を読んでみると、C++0x向け提案のほとんどが言語機能に関係しています。私は、正直、がっかりしています。次期C++仕様は言語のエキスパート主導で策定されている印象を受けます。コンパイラーライターやベンダーは言語詳細に興味があるかもしれませんが、C++初心者は違います。彼らはライブラリを学びながらアプリケーションを書き始めます。最初からライブラリを開発しようとはしないはずです。