デブサミでもアジャイル関連のセッションは例年数多く企画され、実際に現場レベルでも理解や習得はすでにかなり進み、小規模な開発では実践や試行も進められているようだ。となると次の課題はアジャイル開発のスケールアップ。そこで現れるのが「管理職」という新たな壁である。この「実戦」において、どのような作戦が有効なのだろう。このセッションでは、日本アイ・ビー・エム株式会社の畑秀明 氏が、アジャイル開発のスケールアップにおいて、中間管理職が取るべき6つの作戦について解説した。
「中間管理職」が感じる5つの問題
「アジャイルの現在は、理解するステージを超え、実践経験をシェアするステージに入った」と畑氏は語る。小規模の成功事例ならたくさん出ているが、ある程度の大きな規模でアジャイルしたり、会社全体の標準プロセスとして採用させるためには、さらにムーブメントを起こしていかなければならない。
そのためには、組織のカルチャー・価値観を変えていかなければならない。組織には既存のルールがあり、マネジメントもレビュアーも品質管理もそれに沿って進んでいる。管理計画書、レビューチェックシートなど長年かけて培われたものがあり、変えようとするとかなりタフな作業になる。
それを乗り越えるためには、現場を束ねる管理職のサポートやリードが非常に重要になるという。管理職がドライバーとなって、カルチャーやルールを変えていけば、旧弊を打破できるのではないか。「組織全体を変革する力の源になっているのは中間管理職である」と畑氏は日々感じているという。
一方で、中間管理職は責任も大きいので、不安を強く感じてしまう傾向があるという。アジャイルが良いと聞いていても、実際に「やろう!」となるまでにはさまざまな不安があり、またビジネス上の責任も伴う。アジャイルが優れている点をいくら個別にアピールしても、そういった不安を取り除かなければ、組織を変革していくドライバーとして中間管理職が動いてくれない。
畑氏は、プロセス改善について中間管理職と日々話をしている経験からその心境を代弁し、5つのテーマを挙げた。
- テーマ1:感覚的にやりたくない
- テーマ2:テクニックの問題「どうやって管理するの?」
- テーマ3:管理上の仕組みの問題
- テーマ4:見えすぎて困る
- テーマ5:失敗したくない(管理者としての評価のため)
これらのテーマに対し、畑氏は6つの作戦を示した。
不安に同調し、アジャイルで対応できることを示す
- 作戦1:理解してもらうしかない
- 作戦2:管理の本質を理解してもらうために、アジャイルとトラディッショナルを対比してみる
- 作戦3:現在複数チームが失敗を回避するためにどのように工夫しているか議論
- 作戦4:(仕組みの問題は)避けられない。実践重視でしっかり取り組む
- 作戦5:見えてほしい人を味方にして、見える方向に持って行く
- 作戦6:上位マネジメントの協力、あるいは徹底的なリスク管理
感覚的な不安は、成功イメージの欠如からくる。そのため、管理職にとってもアジャイルが成功につながることをアピールする。品質やスケジュールを管理する上で、アジャイルの効能を説くことが大切だ。
プロジェクト上の管理の本質を掘り下げていくと、実のところアジャイルもトラディッショナルも同じであることを気づかせることが大事である。ウォーターフォールにおけるチェックポイントと反復の完了、ガントチャートでの差異の把握とバーンダウンにおけるパフォーマンスの把握など、対比してどこが同じでどこが異なるかを理解してもらうことで不安を取り除けるはず。
テクニックに疑問を抱いている管理職には、彼の頭のなかにある管理方法に合わせ、トラディショナルなウォーターフォール開発に置き換えながら話を進める。そして一歩進んで、実際にスタンドアップミーティングなどでアジャイルを体験してもらう。
品質保証など管理上の仕組みは、よくぶつかる重い問題であり、それだけにごまかすわけにはいかない。真正面から取り組み、できれば品質保証部門も巻き込んで、新しいプロセスを作っていくことが推奨される。
ここでは管理職もまた管理されているということを理解し、見える化によって上司の上司からサポートを得るためにも役立つはずだという側面を示し、上司の味方になる。
新しいチャレンジはリスクになる。ならばそのリスクを徹底的に管理し、コントロール下におく。さらにもっと上位のマネジメントとも協力することで、現場からドライブをかけていくことができる。
いずれにしても、中間管理職の不安を払拭していくことを心がける。畑氏は、管理の視点をいっしょにアジャイルのやり方に当てはめ、アジャイルで対応できることを示していくことが重要だと述べ、その中で決して特定の中間管理職の個人の責任に落ち込まないように管理の仕組みを体系化することを強調してセッションを締めた。