日々の計測とフォローアップで新卒者が急成長
研修のフェーズが進むと、ある問題が顕在化してきた。成長の個人差だ。このとき、「何が得られて何が得られていないのか。そのことに講師がいかに早く気づくか。そこが非常に大事」と関口氏は言う。早く気づいてあげることで、成長を促すために「より合う形に教え方を調整する」「強みを伸ばして弱点を克服させてあげるスタイルに変える」など、手を打つことができるからだ。
しかし、70人弱の新卒者である。個々人を観察し、問題に「早く気づく」のは容易ではない。これを解決するための行ったのが「計測」である。先述の「レビューでの出来事や内容の記録」は、計測結果の役割を果たした。レビューの場以外でも、良い面や悪い面で気づいたことはどんどん書き留めた。技術力を測る方法として、Perlの筆記テストも実施した。こうして集まった情報を、毎日行われるミーティング(1時間)で講師全員が共有し、具体的なアクションを決定していく。もちろん、アクションの結果も記録し、アクションの効果を確認した。
つまり、2013年度新卒エンジニア研修チームが行ったことは、Webサービスを成功させるのと同様、「徹底したデータ化」と「PDCAを回すこと」といえる。こうして無駄なく的確なアクションを実行でき、新卒者の成長も大幅に加速したという。
ただし、指摘し改善を促しても、改善は新卒者本人に任せたため、なかなか取り組まなかったり、そもそも取り組み方がわからないという人もいた。そのような人に対しては、毎日あるいは隔日に30分間、改善するまで、講師が1対1で「フォローアップ」を丁寧に行った。
フォローアップの内容は、人によってそれぞれである。プログラミングでハマったところの解消や、問題解決のトレーニング、議論のトレーニングなどが行われた。しかし、最も効果があったのは「成長促進のための徹底した振り返り」と関口氏は語る。その振り返りの方法として採用したのが、「KPT」(Keep/Problem/Try)というフレームワークである(参考資料)。「毎日、帰る前に実施してもらった」(関口氏)
このようなフォローアップをすることで、人は「何がわかったか、何がわからないかが、わからない」「何のためにやっているかわからない」といわなくなり、本質を見抜く力がつくほか、自分がたどってきた道のりやゴールまでの距離を把握し、間違った道に入ったことを検知し、困難な課題にも立ち向かえるようになるという。つまり、間違ったアプローチをしたことに気づいたときには、ちゃんと元に戻って新しいアプローチに向かっていけるのである。
関口氏は「フォローアップを受けた人は急激に成長する人が多かった」とその効果に驚きを隠さない。ただ、フォローアップは自分の弱い面と向き合うつらい場面でもある。だから無理強いをするのではなく、一人ひとりにきちんと合ったやり方で進めることに留意してほしい、とアドバイスする。
「組織のニーズに応えて研修計画を策定することは大事だが、変化が激しい業界では限界がある。組織の型にはめて人材を育成するのではなく、人にフォーカスした研修を行う。こうすることで、組織にフィットする人材が育成できる」(関口氏)
最後に関口氏は、2013年度新卒エンジニア研修チームのメンバーである玉田大輔氏が作成した「大規模Perl初心者研修を支える技術」というスライドを紹介。「これを見るとより知識が深まると思う」と語り、セッションを終えた。