研修内容が現場のニーズから乖離してきていた
「新卒研修というと、すでにエンジニアとして業務に就いている私たちからすると遠い印象があるが、本当はすごく身近で大事なもの。参考にしていただきたい」
セッションの冒頭、こう切り出した関口氏は、一般的な新卒研修の問題点について語り始めた。一般的な新卒研修では、新卒者が期間限定で集められ、詰め込み方式で教育を受ける形式が多い。知識が身につかないまま、新卒者が配属されることも少なくない。その結果、配属先からは「負担が増える」、新人からは「現場に行けば何とかなると言われた」と責められ、ついには研修のせいにされる。「世にある新卒研修には、こんなイメージを持っている」(関口氏)。
しかし、DeNAでもこれと似たようなことが起きたり、起きる要素が出てきていた、と関口氏は明かす。
DeNAでは毎年、新卒採用を行っている。入社してくる人のレベルはさまざまだが、「未経験者が多く、プログラムを書いたことがない人も大勢いる」(関口氏)。2013年度は、このような新卒者が70人弱も入ってくることになった。しかし、研修を担当するのは現場エンジニアが3名、外部講師が数名だけ。十分とは言えなかった。
加えて、現場が教えておいてほしい、教えておくべきという項目は、言語やDB、設計、サーバーサイド、クライアントサイド、アプリなど無限にある。「教えることを絞ったとしても、未経験者には難しすぎるので無理。そこで、やれる範囲でやりましょうということになっていたが、毎年、全然やれていなかった」と関口氏は振り返る。講師の中には「トレンドの技術や知識とかよくわからない」という人がいる上、現場のニーズがどんどん変化することから、研修内容が年々、現場のニーズから乖離していく傾向にもあったという。
そこで、2013年度新卒エンジニア研修チームは、研修自体の問題を整理することに着手。見えてきたのは、「新卒者の技術レベルが配属先が求める水準に達していない」「研修で身に付けた知識が現場で生きてこない」「現場では教える時間も暇もないため、新卒者といえどもしっかりやってほしい」という3つの問題である。これらを踏まえ、研修チームは研修の目標を、「業務や領域の変化にも対応できる」「主体的に継続的に技術習得できる」「技術以外も成長できる」人材の育成と定めた。
その後、DeNAではこのような人材を「自走できるエンジニア」と呼ぶようになる。関口氏も、この呼び名をとても気に入っているとのことだ。
育成の肝は「レビュー」にあり!
「自走できるエンジ二ア」を育成するにはどのような研修にすればよいのか。研修チームが導き出した答えは、新卒者の研修成果に対し「レビュー」を行うことだった。
DeNAでは以前から、「座学 → 企画 → 設計 → 実装」という4つのフェーズを設けて研修を行ってきた。新卒者には、2週間の「座学」で簡単な知識を身につけてもらった後、「企画」(お題は設定)、「設計」(DB開発や画面作成など)、「実装」を順に体験してもらう。研修からの卒業は早抜け方式である。「早ければ2カ月で卒業となる。一番遅い人だと最長9月末まで研修していた」(関口氏)
2013年度の新卒研修では、この各フェーズの中で5~7回の「レビュー」を実施することにした。レビューは1回1時間。新卒者と講師が1対1で行う。関口氏によれば、「このレビューが、研修を成功に導く重要なカギとなった」という。
とはいえ、70人弱の新卒者を個別指導するレビューである。相応に広さのある場所が必要となる。この研修では、広めの会議室を半年間ほど貸し切り、パーティションで区切ってレビューブースを作った。ブースの中には、ホワイトボードと外部ディスプレイが置かれ、新人と講師が対面で向かい合って座る。
「レビューはアウトプットの場でもあり、インプットの場でもある。レビューなくして、この研修は成り立たない」と関口氏は力強く語る。
自走できるエンジニア育成のカギを握るレビュー。レビューに対する講師の姿勢も大切である。
「新卒者が間違ったことを示してきたら、講師は正しくそれを論破すること。特に重要なのは納得させることだ」と関口氏は指摘する。「彼らも一生懸命に課題に向き合い、考えてきている。特に入社間もない頃は『何でもできるぞ』という自信もみなぎっており、イケイケ状態の人も多い。そんなモチベーションが高いときに、単に『これは間違っている』と言って切り捨ててしまっては、彼らも納得しない。相手が正しく納得する状態に持っていけるよう論破する。そうすることで、お互いの信頼関係も築ける」(関口氏)
そのほか、関口氏は「指摘の仕方や促し方を一人一人変える」「レビューでの出来事や内容を記録する」ことなどを、レビュー時の重要ポイントとして挙げた。