過去の「旧Crystal Reports」資産を生かすもう一つの方法
先述したように、SAP Crystal ReportsはかつてVisual Studioに標準バンドルされ、これらを組み合わせて多くの帳票アプリケーションが開発された。企業によっては、そうした時代に作り溜められた多くの「帳票」が、塩漬けにされているケースもあるのではないだろうか。
もし、眠っているアプリケーション資産の中に、SAP Crystal Reportsのエンジンを使った帳票データが含まれているのであれば、それを再利用するための仕組みも用意されている。それが「SAP Crystal Server」と呼ばれるエンジンである。
SAP Crystal Serverを利用すると、「SAP Crystal Reports」や「SAP Crystal Dashboard Design」といったツールでデザインされた帳票に対して、ユーザーはWebブラウザ経由でアクセスできるようになる。条件指定によるデータの絞り込み、集計軸の変更、日時の指定による定期的なレポーティングといった機能も、Webアプリを通じて利用可能になる。
「SAP Crystal Serverに既存のSAP Crystal Reportsコンテンツをエクスポートすることで、レポーティング環境、帳票環境をWebアプリケーションとして展開することが可能になります。特に、過去に作成したSAP Crystal Reportsによる帳票資産が多くある場合などには、Visual Studioでの開発作業を行わずとも、それらの資産を再び活かせる有効な選択肢となる場合があります。SAP Crystal Serverについては、無料のハンズオンセミナーも行っていますし、具体的な機能について解説した動画も公開されていますので、ぜひ参考にしてください」(篠原氏)
環境の選択肢が広い「SAP Crystal Reports」
――DBには何を選ぶ?
普及した経緯から、Visual StudioおよびWindowsプラットフォーム向けの帳票ツールとしての印象が強かった「Crystal Reports」だが、SAPの傘下で開発とサポートが続けられることによって、新しいカラーが増えている。例えば、Eclipse上で利用できる「SAP Crystal Reports, version for Eclipse」と呼ばれるアドオンは、JavaアプリにSAP Crystal Reportsの帳票機能を組み込めるものとして提供されている。
さらに、SAP Crystal Reportsが長く支持されてきた理由の一つとして、極めて広範な業務アプリケーションや、RDBMS、Webサービス、ODBC、OLE DB、JDBCなどのデータソースに対応した接続性の高さがある。近年では、最新の環境に対応した機能拡充も行われており、SAP HANAへの対応なども行われている。つまり、マイクロソフトのプラットフォームに限ることなく、帳票機能が求められるさまざまな状況で、SAP Crystal Reportsは活用できるというわけだ。
「Visual Studioを使っている開発者のみなさんは、マイクロソフトやOracleデータソースを使うケースが多いと思います。しかし別段の理由がなく選択されているケースも少なくないはずで、視野を広げて、SAPが提供するVisual Studioに最適なデータベースを選んでいただいても良いと思います」(篠原氏)
例えば「SQL Server、Oracleライセンス購入で苦労をする場合」や「オープンソースのデータベースを使うのはサポート面で不安」といった案件において、篠原氏は「ぜひ『SAP SQL Anywhere』を検討してほしい」と話す。
「SAP SQL Anywhere」は、1990年代前半に最初のバージョンがリリースされて以降、さまざまな用途で利用されてきた商用RDBMSの老舗ブランドの一つだ。データベースベンダーだったサイベース(アイエニウェア)の製品として販売されていたが、SAPによる同社買収に伴って、現在では「SAP SQL Anywhere」として開発とサポートが継続されている(日本語情報はこちら)。
SAP SQL Anywhereは、その軽快な動作や処理能力だけでなく、フットプリントの軽さ、InstallShieldを使ったインストーラからの組み込みにも定評がある。また親子ノードの間でデータを同期するMobile LinkもSAP SQL Anywhereの特徴であり、スマホが普及し、マルチデバイスとなった時代の業務にユニークな変革を投じてくれる。篠原氏は「Accessよりも本格的な業務に使え、SQL Serverよりもリーズナブルで軽量。かつ、きちんとした商用サポートが受けられる製品として、システム開発の際には是非、選択肢に加えてほしい」と話す。