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【デブサミ2019】セッションレポート (AD)

「自分を信じて第一歩を踏み出そう」――量子コンピュータの研究者からAWSのエンジニアへキャリアチェンジしてみて【デブサミ2019】

【14-C-2】Hack your career! ― アカデミックからビジネスへ向かったワケ ―

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物理と情報を橋渡しして、世の中に役に立つものを作りたい

 物理とは、自然界に見られる現象の普遍的なルールを発見し、自然界の現象を理解すること。そして情報とは、抽象的なことを表現するものであり、人と社会をつなぐもの。その二者がつながる「量子情報」では、例えば「光格子時計」のような10-18もの高精度な時計を実現することで、世の中の計測技術を置き換えうるものを生み出すことができる。「量子情報」は原子や光、半導体、イオンなどさまざまな異なる量子的な物理現象がひとつの基準で記述され、量子コンピュータだけでなく、量子計測、量子標準、量子通信など量子的な性質を使ったさまざまな分野の研究がある。さまざまな学問が融合していくところに分野としての面白さがあるという。

 その面白さは当然のことだろう。1902年の「ゼーマン効果」の受賞以降、関連する研究がコンスタントにノーベル賞を受賞。それだけ世の中を変える可能性があるものが多いということだ。宇都宮氏はその中に身を置きつつ、「より実用に近い研究」を追い求めてきた。そして「レーザー発振の速さで計算を終える」という研究に、国立情報学研究所とNTT、スタンフォードの理論家、実験家を含む数十人の大勢のチームで挑み、2016年に実験を完成させることができた。

 宇都宮氏は出口探索を行う中で、物理と情報の壁を感じながらも「量子コンピュータはまだ基礎研究段階で、いますぐに出口として何らかのシステムの形にするのは難しい。それなら、ある程度基礎研究として温め、作っていくことが大事」と感じ、双方の橋渡しになることを意識するようになった。

 自分にしかできない研究を追求する、非常に充実した研究生活だった。そうした充実感を覚える一方で、アカデミックな世界では先が見えない不安を感じることも多かったという。アカデミックポストは非常に狭き門であり、自分の雇用もいつまで続くかわからない。さらにグループメンバーの雇用や運営資金の調達なども自らの責任のもと対応する必要があり、宇都宮氏は「スタートアップのような緊張感が常にあった」と表現する。

 そうした研究者を取り巻く状況を見てみると、アカデミックから企業の研究者になる人が多数を占め、国の研究機関に就職する人はほんの一握り。そして、国の研究機関から民間企業に出ることに対しては、リスクと感じる人も多いのだという。その理由のひとつには、民間企業に出て論文を出すことが難しい職種に就くと、「研究者として表に出せる業績がストップしてしまう」ことがある。その結果、論文という研究業績が求められる国の研究機関へ戻ることが難しくなるリスクになってしまう。

アカデミックにおける困難さ
アカデミックにおける困難さ

国の研究機関から民間企業へのキャリアチェンジ

 国の研究機関を出るかどうか何度も迷い、それでも、世の中に対して何かを問いかけていくことへの関心が高まる中、研究機関を出て、民間企業への就職を考え始めたのが2016年。転職エージェントを利用したところ、半導体冬の時代は過ぎ、博士号に対しても歓迎されるようになっていた。それでも先輩からは「自由度が低下すること」を覚悟するように言われ、自分のキャリアをつなげるためにも、どういうことを考えて転職を決意したか、本を書くことと世の中に発信することを勧められた。

 その後2017年にトヨタ自動車、2018年にはAWSへ身を置くことになる。そこで共通して得られた視点として、宇都宮氏は「お客さまを起点に製品を作る重要性」を挙げる。

 トヨタでは自動運転のプロジェクトに携わることとなったが、「命に関わる製品を出すことは想像以上に難しく、日本のモノづくりの進めかたとAIを取り入れるソフトウエア開発とでは、考え方やスピードが大きく異なることに戸惑いを感じた」と語る。一方で、お客さまのもとに確実に届く車という大きなシステムを、企画段階からしっかりと作り上げるプロセスをトヨタで学べたことは、非常に価値のある経験だったという。宇都宮氏がものづくりへのAI導入を考える上では、この経験が重要な軸となっている。世界のトップレベルの研究開発を、どうやってシームレスに製品開発につなげていくのか。その課題感を持ちながら、次の挑戦のステージとして選んだのがAWSだった。

 AWSでの働き方において、何より心惹かれたのが「楽しそうに仕事をしていること」だったという。さらに在籍していた友人が「ソリューションアーキテクト」の仕事について「顧客のやりたいことをくみ取り、成功させるためのあらゆる技術的サポートをする」とブログに書いているのを読み、トヨタで実感した「お客さまを起点に製品を作る重要性」との共通性を見いだした。

 「自分が研究してきた量子コンピュータの基礎技術を世の中につなげていくためには、世の中でどのような技術が求められているのかを知ることが不可欠。その上で基礎と実用技術をつなげられる人が必要と感じ、思い切ってエンジニアリングの世界に飛び出した」と宇都宮氏は入社の動機を語る。

 Amazonでは「Working Backwards」といって、お客さまが軸となり、次の製品開発プランが決まる。フィードバックを日々取り入れながら製品のプランニングを柔軟に変えていくので、ものすごいスピードで業界の求める多くのサービスがリリースされていく。 「そんな製品開発のスピード感に日々圧倒されながら、お客さまとのコミュニケーションを大事に、仕事を進めている」と宇都宮氏は語る。

 そして今、感じているのは「会社のカルチャーはとても大事」ということだ。これまでエンジニアリングとは異なるピュアなアカデミックにいたとはいえ、キャリアの節目節目で宇都宮氏がとってきた行動、大切にしてきた指針は、偶然にもアマゾンのリーダーシッププリンシプルと多くが一致する。その結果、「全く違う職種ながら楽しく仕事できている」と話す。

 アカデミックな業界で得た知見と、堅実な製造業での経験の両方があったからこそ、AWSの機械学習ソリューションアーキテクトという新たなチャレンジでも、お客さまの課題を解決する即戦力として活躍できる。日本の強みである製造業へ、クラウドやAI技術の導入を加速することで、日本の力になりたい、と宇都宮氏は語る。

 「何かを捨てなければ新しいものは入ってこない。長く積み上げてきたキャリアに疑問を感じたとき、新しいことを始めることは簡単ではないし、必ずしも成功につながるとは限らない。でも、そこに一貫した意思がある限り、キャリアは捨てても後からついてくる。『このままでいいのかな』と思ったときに、ぜひとも自分を信じて第一歩を踏み出してみてほしい」と会場に語りかけ、結びの言葉とした。

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