故事成語ことわざは危ない
本来の意味とは違って使われている言葉というと、故事成語やことわざなどは危険地帯です。それこそ誰でも知っている「犬も歩けば棒に当たる」にも、ほぼ反対な2つの意味があるんです(次の画像)。
犬(いぬ)も歩(ある)けば棒(ぼう)に当(あ)たる
1 何かをしようとすれば、何かと災難に遭うことも多いというたとえ。
2 出歩けば思わぬ幸運に出会うことのたとえ。
有名な故事成句は、みんな逆の意味になってるんじゃないかと思うくらいです。例えば、「君子は豹変す」(次の画像)。
徳の高いりっぱな人物は自分のあやまちに気づけば即座に改めて、よいおこないへと転じることが、きわめてすばやくはっきりしているということ。なお、今ではただ単に、態度などが突然がらっと変わることにも言う。
◎「豹変」は、豹の斑紋(はんもん)のように、際立ってあざやかに変わること。元来はよいほうに変わる場合を言ったが、今では悪いほうに変わる場合にも使われる。
クライアントの悪口のつもりで「ころころ仕様変更してくれて『君子は豹変す』だよ!」とボヤいたのを、聞いていた方はほめ言葉と受け取っていたなんてことになったら、笑い話にしかなりませんよね。
故事成語ことわざのたぐいを使いたくなったら、よくよく調べて、意味が1通りのものを選ぶか、あるいは、どちらの意味なのかを文脈から明確にくみ取れるようにしましょう。
意味が完全に変わった言葉
昔と今とで、意味が完全に変わってしまった言葉もあります。そういう言葉は、安心して今の意味で使えます。
例えば、「すばらしい」を辞書で引くと、昔はよくない意味で使われていたと分かります(次の画像)。でも、現代に「すばらしい」を悪い意味でとらえる人はまずいないでしょう。
㋐ 現代語では、多く好ましい状態について用いられる。驚くほどだ。 「 - ・く広い庭園」 「 - ・く青い空」
㋑ 近世江戸語では、多く望ましくないさまをいうのに用いられる。ひどい。 「此女故にやあ-・い苦労して/歌舞伎・与話情」
アンテナを張り、あれっと思ったらググる
ここまでいくつか見てきたように、言葉は変わっていくものです。普段から用例に触れて、変化を感じ取っておきましょう。
といっても、テクニカルライターとしては、恥をかかない程度にアンテナを張っておけばよいと思います。ニュースや文献、あるいはSNSの書き込みなどを読んでいるときに、「あっ、今はこんな使い方をするんだ!」と気付いたら、とりあえずそのことを頭の片隅に置いておくくらいで十分でしょう。
そして、書いているときに「あれっ? これはいつか違う意味で見かけたような……!?」と思ったら、ググって確かめればよいのです。
まあ、それでも失敗はするものです。私(筆者)もときどきやらかしてまして、例えば「1,000バイト」を「1KB弱(じゃく)」に言い換えたところ、読者の方から「分からない」とお叱りを受けたことがあります。「1KB(=1,024バイト)よりちょっと少ない」という意味のつもりだったのですけど、今では「ちょっと多い」という意味で使う人が増えているようです。この「弱」の意味の変化については、NHK放送文化研究所のコラム「『1時間弱』は、1時間よりも長い?短い?」(2017年)で紹介されています。
まとめ
言葉は生き物で、だんだん変わっていきます。「性癖」のようにまったく違う意味に変貌していく言葉もあれば、いくつかの故事成語のように本来の用法と誤用とが併存し続けることもあります。このような読者によって異なる意味に受け取られてしまう言葉は、テクニカルライティングでは避けた方が無難です。
言葉の変化は、新しい辞書なら対応されていることもあります。それにも載らないような最新の変化をキャッチするために、自分でもアンテナを張っておきましょう。
