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翔泳社 新刊紹介(AD)

手軽に使える人工知能「Watson」、無料のライト・アカウントで何ができるのか

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 様々なAPI(サービス)の集まりであるIBMの人工知能「Watson」を使うと、どんなことができるのでしょうか。翔泳社から発売中の『現場で使える!Watson開発入門』より、Watsonの全体像と実際に作られたアプリケーションのデモなどを紹介します。

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本記事は『現場で使える!Watson開発入門 Watson API、Watson StudioによるAI開発手法』の「Chapter1 Watsonとは」からの抜粋です。掲載にあたり、一部を編集しています。

1.1 Watsonをはじめよう

 ここでは、Watson(図1.1)とはどのようなものなのか、どのようにすれば使いはじめられるのかについて学びます。

図1.1 Watsonの特徴
図1.1 Watsonの特徴

1.1.1 手軽に使える人工知能「Watson」

 あなたはIBM Watson(以下、Watson)にどのようなイメージを持っているでしょうか。正体不明だけれども、とても賢くて、あらゆる会話を理解してくれる。自分の仕事を何でも肩代わりしてくれる――そんな想像をしているかもしれません。

 Watsonは「人工知能」(Artificial Intelligence:AI)と呼ばれていますが、この人工知能というテーマは、現在、過剰な期待と行き過ぎた不安を人々に生じさせています。残念ながら、人間と自由自在に会話できる機械(あるいはシステム)は、本書執筆時点では、まだこの世に存在しません。世界中の研究者が日夜、研究にいそしんで、そのような人工知能を作ろうとしています(IBMによると、WatsonはArtificial Intelligence(人工知能)ではなく、Augmented Intelligence(人間の知能を広げるもの)である、といいます)。

 それでは、Watsonとは、どういうものでしょうか?  Watsonを、ひと言でいうと「わかりやすく、手軽に使える人工知能」です。Watsonにデータを渡すと、あらかじめ与えておいた学習データをもとに、何らかの回答を返してきます。難しい機械学習のプログラムを書くことなく、その計算結果だけをすぐに手にすることができます。ディープラーニングのややこしいところはうまく隠されて、プログラミングの知識が少しあれば、すぐに試すことができる。そのシンプルさがWatsonの特徴です。

 もうひとつWatsonの特徴を挙げると、「クラウド」ベースのサービスという点です。インターネット上にWatsonが置いてあり、私たちはそこにアクセスしてWatsonを使います。いちいち手元のパソコンに巨大な人工知能をインストールしたり、高価な機械を用意する必要はありません。その点でも、Watsonは手軽に使えるようになっています。

 価格も手ごろです。Watsonは「使った分だけ支払う」、いわゆる従量課金制をとっています。その中で本書では「ライト・アカウント」という無料のアカウントを主に使うことになります。「ライト・アカウント」は、無料でありながら、そこそこの範囲までWatsonを試すことができます(IBMの公式Webサイトでは、「フリー・アカウント」「フリー・プラン」と表記されることもあります)。登録にはクレジットカードが必要といった制限もなく、個人でも登録できるので、気軽にはじめることができます(図1.2)。

Watsonがクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」で勝った

 Watsonの名前が、華々しくメディアに出たのは、2011年2月16日のことです。米国のクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」で、2人のクイズ王を相手にWatsonが勝利し、最高金額の賞金を手にしました。IBMの研究所では、この勝負のために4年の歳月を費やしてWatsonを開発しました。Watsonには、100万冊の本に相当する文章や歌詞などのデータを学習させました。

 その後、Watsonはさらに改良を重ね、また機能ごとにモジュールに分けられて、クラウドのサービスとなり、現在のような、誰もが使いやすいかたちとなりました。

図1.2 「ライト・アカウント」はクレジットカードなしで登録できるので、気軽に試せる
図1.2 「ライト・アカウント」はクレジットカードなしで登録できるので、気軽に試せる

1.1.2 Watsonでできること

 Watsonでは、どんなことができるのでしょうか。次のようなものがあげられます。

  • あらかじめ学習させたデータをもとに、ユーザーとチャットする。
  • たくさんのデータから目的のものをすばやく検索する。
  • 機械学習を活用して、画像に含まれているものを回答したり、画像を分類したりする。
  • 音声をテキストにする。テキストを音声にする。
  • テキストから、それを書いた人の性格を推測する。

 ほかにも、翻訳、テキストの分類、統計解析などができます。これらの機能は、それぞれが独立したモジュールになっています。モジュールのことを「サービス」や「API」と呼びます(以降、本書では「サービス」と「API」を、ほぼ同義なものとして用いています)。言い換えると、たくさんのモジュールの集まりを「Watson」と呼んでいるのです。Watsonは単一の何かを指すのではなく、APIの集合体に付けられたブランド名なのです(図1.3)。

図1.3 「Watson」とは、モジュール(API)の集合体に付けられたブランド名
図1.3 「Watson」とは、モジュール(API)の集合体に付けられたブランド名

1.1.3 IBM Cloud

 Watsonは、「IBM Cloud」という名の、IBM社が提供するクラウドの上で使うことができます。IBM Cloudを契約する方法については、本書の「Chapter2」で学びます。

 図1.4は、IBM Cloudの「カタログ」の画面です。ここにはWatsonのAPIの一覧表があり、ここから使いたいWatsonのAPIを選んでいくことになります(図1.5)。具体的な手順は、本書で学びます。

図1.4 IBM Cloudの「カタログ」画面のAIサービス一覧
図1.4 IBM Cloudの「カタログ」画面のAIサービス一覧
図1.5 IBM CloudWら使いたいWatsonのAPIW選ぶ
図1.5 IBM CloudWら使いたいWatsonのAPIW選ぶ

1.2 Watsonで作られたアプリケーションのデモ

 IBMの公式Webサイトには、Watsonを用いたアプリケーションのデモが、多く掲載されています。いくつか紹介します。

1.2.1 チャットボット

 Watsonを用いたアプリケーションで、現在、最も目立つものは「チャットボット」でしょう。たとえば「クレジットカードでの支払い方法を教えて」というように、会話する調子でテキストを入力すると、そのテキストの意図をくみ取って、回答を返します。いわゆるキーワード検索のように、自分でキーワードを考える必要がなく、よく知らないことについても質問できるのが利点です。チャットボットでは、「Watson Assistant」というAPIを用います。

 IBMの公式Webサイトでは、銀行のチャットボットのデモ(図1.6)を試すことができます。

図1.6 チャットボットのデモ
図1.6 チャットボットのデモ

1.2.2 大量データからの検索

 大量のデータから検索し、その記事がどのような特徴を持っているかを分析するのもWatsonの得意分野です。たとえば、ニュースサイトの記事を大量に集めて、その中から特定のテーマに関わる記事をピックアップしたり、そのテーマに関連する語にはどのようなものがあるか調べたりすることができます。これには「Discovery」というAPIを用います。

 IBMの公式Webサイトでは、大量のニュース記事から、自分の気になるテーマの記事を探すデモ(図1.7)を試すことができます。

図1.7 大量データからの検索のデモ
図1.7 大量データからの検索のデモ

1.2.3 画像認識

 画像の中に何が写っているのか、どんな色味か、そういった分析をすることもできます。たとえば、画像をWatsonへアップロードすると、「この画像にはツイードのジャケットが写っています」「色味は灰色です」というように、その分析結果を表示します。画像認識を行うには、「Watson Studio」と「Visual Recognition」というAPIを用います。

 IBMの公式Webサイトでは、画像認識のデモ(図1.8)を試すことができます。

図1.8 画像認識のデモ
図1.8 画像認識のデモ

1.2.4 性格判定

 一定量のテキストデータから、そのテキストを書いた人の性格を推定することができます。ビッグファイブと呼ばれる、人間の5つの大きな心理特性(知的好奇心、外向性、誠実性、協調性、情緒不安定性)を中心に、価値観やニーズ、消費 傾向まで推定します。6000語くらいのデータがあれば、高確度で性格を判定することができます。

 性格判定には、「Personality Insights」というAPIを使います。なお、本書ではPersonality Insightsの技術的な詳細については割愛します。

 IBMの公式Webサイトでは、性格判定のデモ(図1.9)を試すことができます。自身のTwitterアカウントと連携させて、自分の性格判定をすることもできます。

図1.9 性格判定のデモ
図1.9 性格判定のデモ

 これ以外にも、多くのAPIがWatsonには存在します。Web上で試すことのできるデモも多数が用意されていますので、「このAPIはなんだろう」と思ったら、デモを試してみるとよいでしょう。

カンファレンス「Think」

「Think(シンク)」は、IBM社が開催するイベントの中でも、特に大きなカンファレンスです。2018年3月にラスベガスで行われました。全世界からIBM製品に関わる人々が集まり、参加者は3万人にのぼりました。またオンライン経由でも1万人の人々が閲覧しました。日本からも多くの人が参加しました。

「Think」では、Watsonについても、大きな機能強化の発表がされました。そういった新機能のお披露目の場でもあるのです。

 また2018年6月には、「Think」の日本版が東京で開催されました。こちらも、多くの人が足を運び、盛況となりました。2019年の2月には、サンフランシスコで開催されました。

1.3 人工知能の分類とWatsonの位置付け

 人工知能は、その性質によってさまざまに分類できます。その分類とWatsonはどのように対応しているのか見ていきます。

 人工知能の技術は、その性質によってさまざまに分類できます。その分類において、Watsonはどのように位置付けられるでしょうか。

 分類の例として、よく使われているのが、「人工知能のブームの世代で分ける」やり方や「人工知能が達成している能力水準のレベルで分ける」ものです。また、学習方法やロジックで分けることもあります(図1.10)。

図1.10 人工知能の分類の例
図1.10 人工知能の分類の例

 Watsonの位置付けを理解するには、「パッケージング」という軸がわかりやすいでしょう。これは、「提供形態がどのようなものであるか」という分類です(図1.11)。

 有名な人工知能のフレームワークである「TensorFlow(テンソルフロー)」や「Keras(ケラス)」「Caffe(カフェ)」「Chainer(チェイナー)」といったものは、フレームワークをもとに自力で開発することを想定しています。

 それに対して、出来合いの人工知能がクラウドで提供されているものがあります。その代表的なものが「Watson」です。Watson以外にクラウドで提供されている人工知能としては、「Microsoft Azure Cognitive Services」や「Google Cloud Platform」などがあります。

図1.11 人工知能をパッケージングで分類した例
図1.11 人工知能をパッケージングで分類した例

1.4 まとめ

 今回は、次のことを学びました。

  • Watsonは「わかりやすく、手軽に使える人工知能」です。
  • Watsonは「ライト・アカウント」という無料のアカウントで試すことができます。「ライト・アカウント」の登録にはクレジットカードは必要ありません。
  • Watsonは、ユーザーとチャットしたり、大量のデータから検索したり、画像認識して写っているものを回答したりできます。これらの機能は「API」という単位で独立しています。
  • Watsonは、「IBM Cloud」という名の、IBM社が提供するクラウドの上で使うことができます。
  • IBMの公式Webサイトには、Watsonのデモが多く公開されています。
  • Watsonはクラウドで動く人工知能です。

 本書ではこれ以降、まずIBM Cloudの無償プランである「ライト・アカウント」を登録し、開発の準備をしていきます。

現場で使える!Watson開発入門

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現場で使える!Watson開発入門
Watson API、Watson StudioによるAIアプリ開発手法

著者:伊澤諒太、井上研一、江澤美保、佐々木シモン、羽山祥樹、樋口文恵
発売日:2019年3月20日(水)
価格:3,024円(税込)

本書について

本書ではWatsonの主力サービスである、Watson Assistant、Watson Discovery、Watson Studioを軸にした開発手法を解説。ハタプロ社のロボット「ZUKKU(ズック)」の事例なども紹介します。

 

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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