ちょっとしたテクニック
インセプションデッキは、プロジェクトのスタート時点で一度だけ作成すれば、それで良いわけではありません。時間が経過すれば不明なことが出てきたり、メンバーの経験値でリスクが減ったり、市場の状況によってニーズが変化したりするものです。3カ月ごとやチームに不穏な空気が流れた際に、インセプションデッキに立ち戻っていきましょう。下記を意識してみると良いでしょう。
- 再度制作する必要はありません。さっと見るだけでも初期状態からの変化やギャップが見つかるはずです。その点だけをメンバーとメンテナンスしましょう
- プロジェクトにおける知識や経験、情報が増加します。メンバーの不安や見通しも変化するので、ボトルネックや世の中の状況やニーズの変化を反映させましょう
- プロジェクトが進むとそれぞれのメンバーによる、状況の変化への追従は異なるでしょう。その結果、方向性の解釈に少しずつ差が生まれるでしょう。また新メンバーの配属もあるかもしれません。みんなのゴールを再びすり合わせる機会にしましょう
エピローグ
インセプションデッキを見直していても、特に新たな発見はなかった。時間を無駄にしたかもしれないという思いと、何も解決していない焦りから、少し重たい雰囲気になってしまった。その時、やおら、完全に沈黙していた境川さんが口を開いた。
「……ピッチのカテゴリがおかしい」
全員、エレベータピッチに視線を集める。カテゴリには「チャットツール」とある。
え、これの何がダメなの? 私をはじめとして、御涼さん、片瀬さんは明らかに頭の中にクエスチョンマークを浮かべていた。
「……そうか」
藤沢さんは何かに気がついたらしく、スプリントレビューのフィードバックのログを読み直し始めた。
「これ、鎌倉さん、リモートワークを支援するツールに仕立てて行きたいと思っているんだ」
「お……おおー。なるほどね……」
チャットベースになっていて、ドキュメント共有が便利ですというツールではなくて、リモートワーク環境での前提、困りごとをクリアできるように、機能の方向性を決めていっているのではないかという。確かに、ゲストの観点とか、まだこのツールの一員ではないけど、状況を共有したい外部の開発メンバーやクライアント向けにあると良さそうだ。
「ぼくらはドッグフーディングして、ユーザーのことを理解しているつもりだったけど、置かれている環境が全然違う」
「なるほど。ぼくらは一カ所に集まり、同席しているチームだもんね」
ようやく鎌倉さんの意図が見えてきた気がする。しかし、「これ、なんで言わないんだろうなー」と思ったのは、私だけではなかったはずだ。そこに、鎌倉さんの別の狙いがあったことに気づくのは、もう少し後でのことだ。
全員で境川さんの方を見た。境川さんは、コードを書くことしか関心がないと皆考えていたけども、鎌倉さんに次いで、このツールのあるべき方向性を捉えていたのだった。おそらく、実は、さまざまな観点でこのツールのことを考えているのだろう。コードの質を高めるために、多様な観点で考え抜いてプログラミングするように。
境川さんは皆の視線を気にすることなく、われ関せずといった様子で、またコードに向き合い始めた。私はそんな境川さんが頼もしく見えてきて仕方なかった。ただ、境川さんが要因となる新たな問題が起きるなんて、この時は想像もしていなかった。
今回の原則の解説:みんなのゴールを決める
今回のテーマ「インセプションデッキ」の背景にある原則は、「みんなのゴールを決める」です。以下の3点を押さえておきましょう。
- メンバー全員で全体像を理解して向かう先を合わせる
- メンバーの視点やフォーカスを揃え、プロジェクトの解像度を合わせる
- 合意したメンバーで機能するチームとなりパフォーマンスもモチベーションもアップさせる
本連載を深く理解するには、書籍『カイゼン・ジャーニー』の併読がオススメ!
実践編セミナー「機能するチームを作るためのカイゼン・ジャーニー」開催!
CodeZine Academyにて、著者の市谷氏、新井氏を講師に迎えたセミナー「機能するチームを作るためのカイゼン・ジャーニー」を開催します。「講義」と「ワークショップ」で、書籍や連載の内容をさらに実践的に学ぶことができます。以下の通り、申し込み受付中です。
- 開催日時:2019年10月11日(金)10:00~18:00
- 受講料金:54,000円(税抜価格50,000円)
- 場所:株式会社翔泳社 セミナールーム
- 詳細・申し込み:https://event.shoeisha.jp/cza/20191011
※本記事の参考資料:インセプションデッキのテンプレート(日本語版)

