ITインフラ・ネットワークインフラの変遷とトレンド
まず登壇したのはネットワンパートナーズ株式会社の醍醐朝和氏だ。セッション序盤ではITインフラの歴史と変遷について解説していく。
かつてITインフラの領域では、メインフレームがコンピューターの主役である「集中」の時代があった。だが1980年代以降は、ミニコンやPCサーバーがメインフレームに取って代わる「分散」の時代へと変遷していった。 その後、2000年代は仮想化(仮想マシン)の技術が流行する。そして現代ではコンテナ技術がよく活用されるようになったことは、多くの人々が知るところだ。
では、ネットワークインフラはどのように変遷してきたか。1990年代はTCP/IPやEthernetといった、いわゆる「従来のネットワーク技術」が主流の時代だった。何らかの通信をしたい場合には物理的なネットワークを構築し、すべての機器を人間が手動で設定する必要があったのだ。環境構築や運用の負荷を軽減するため、2010年代にはSDNが用いられるようになった。さらに2010年代の中盤からは、ネットワーク機能をサーバー上に仮想化するNFVが登場した。
「では、現代においてITインフラやネットワークインフラの技術を最大限に活用できているのはどのような企業か。みなさんご存じのGAFAがその一例として挙げられます」(醍醐氏)
例えば、Googleはインフラの稼働率「Five 9(99.999%)」を目標としている。これは、月間あたりわずか24秒のダウンタイムだというから驚異的だ。そして同社は「Reliability(信頼性)」「Efficiency(効率)」「Scale(規模)」という相反する3つの要素の同時達成を目指してインフラ改善を続けている。また、Facebookはネットワーク機器のハードウェアとソフトウェアを完全に分離したインフラアーキテクチャを用いることで、機器コストの低減と運用・管理の簡易化を実現しているという。
こうしたHyper Scale Playerが持つインフラの構築・運用手法に、各通信事業者の注目が集まっている。数ある構築・運用手法のなかでも特に重要なのがAIOpsである。これは、各種の運用・監視やツールの閾値(いきち)設定などにAIを導入し、業務改善を行うという概念だ。
「しかし多くの企業にとって、AIを活用して運用を改善するのはハードルの高い作業です。そこで本セッションでご紹介したいのが、AI搭載クラウド管理型Wi-Fi『Juniper Mist』。製品の詳細については、ジュニパーネットワークス株式会社の林宏修氏より解説していただきます」(醍醐氏)
AI搭載クラウド管理型Wi-Fi「Juniper Mist」の特徴と利点
セッション後半からは林氏が「Juniper Mist」の製品解説をしていく。「Juniper Mist」の特徴は大きく2つある。1つはAIを活用したネットワーク監視・運用、もう1つはAPIを活用したプログラマビリティだ。
「『Juniper Mist』のアーキテクチャでは、AI機能がすべてのネットワーク構成要素に組みこまれています。各ユーザーの通信環境が可視化できたり、AIがネットワーク全体を隅々まで監視・自動最適化してくれたりと、人力ベースのインフラ運用では到底実現できなかったことが現実のものになります。私たちはこの概念を、AIドリブンエンタープライズと呼んでいます。
また、『Juniper Mist』はクラウドベースのソリューションであり、クラウド上に蓄積されたデータはすべてAPIで取得可能です。これにより、ユーザーはデータを他のアプリケーションや監視システムなどと連動させることができます。非常に柔軟性の高い、クリエイティブな発想を実現するためのプラットフォームです」(林氏)
「Juniper Mist」は機械学習やディープラーニングなどの各種学習モデルを、適性に合わせた形で導入している。例えば電波の自動調整機能には、通信している瞬間のデータだけではなく過去の統計データやこれまでの調整履歴と効果の有無などを入力データとして用いた強化学習モデルが活用されているという。
また、スループットやローミング、電波のカバレッジなどの状態をリアルタイムで監視してベースラインを自動作成し、その数値をもとに異常検知を行う機能には機械学習モデルが使用されている。つまり「Juniper Mist」は機能の一部にAIの要素をトッピングしただけの製品ではなく、設計の根幹からAIをベースとしたつくりになっているのだ。
また、「Juniper Mist」はマイクロサービスアーキテクチャを用いて、パブリッククラウド上にWi-Fiコントローラや各種アプリケーションを構築している。これによりアジャイルな開発環境だけではなく、障害の波及範囲の最小化やスケーラビリティの確保、システムの回復性向上などを実現している。
「このような話を聞くと『利用するのが難しそう』と感じる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、こうした裏側にある学習モデルやクラウド構造などの仕組みについて、ユーザーのみなさまは詳しく知る必要はありません。『Juniper Mist』に組みこまれている仮想ネットワークアシスタント『Marvis』が、データ解析結果や障害の発生状況などをユーザーに対してわかりやすく提示してくれます」(林氏)
「Marvis」のユーザーインターフェースは進化を続けている。既存機能では、管理画面から検索を行うことで、条件に応じたデータを抽出しグラフとして表示できた。現在はそれに加えて、チャットボット形式で「Marvis」を利用できる対話型インターフェースも搭載されたという。
林氏は「Juniper Mist」のもう1つの特徴であるオープンAPIについても解説していく。「Juniper Mist」は設計段階から「ありとあらゆるデータをAPIで入出力できること」を前提として構築されている。これにより、他社の類似製品とは比較にならないほど多種多様なデータを、クラウド経由で他のシステムと連携可能になっているのだ。
「Juniper Mist」のオープンAPIを用いてどのような機能を実現できるのか。林氏は以下のような事例を解説していった。
- Slackとの連携でスタッフの居場所検知Botを作成
- インドア位置情報システムと連携したスマホアプリ
- 位置情報を応用したコロナ対策ソリューション
「『Juniper Mist』は数多くの創造的な機能があり、イノベーションが生まれる場としての性質を有したプロダクトです。ぜひ優秀なDXプラットフォームとしてご活用いただければと思います」(林氏)