若手女性の出世意欲は高くない。なのに管理職に抜擢され激しく動揺
「今日のお話は女性管理職として、現在精進している方、私のように思いがけずなってしまった方、逆になりたくない方、過去に経験したことのある方、そして将来なれるように目指している方にお届けしたいと思っています」と、ソノリテ 宇留野彩子さんは切り出した。宇留野さんはマイクロソフト製品Microsoft 365サポート、大手企業向けの働き改革支援・運用保守を行う部署のゼネラルマネージャーを務めている。
宇留野さんは同世代の心情をよく理解している。「管理職は、なりたいような、やりたくないような、複雑な感情を持つ方は多いと思います。そして今や働く女性全てに起こりうるテーマになるでしょう」と話す。
実際、管理職に尻込みしている若手は多い。2019年にパーソル総合研究所が実施した「APAC(アジア太平洋地域)就業実態・成長意識調査」によると、日本は管理職の希望も出世欲もダントツの最下位。別の調査でも同様だ。マネジメントベースが25歳から34歳の就業者を対象とした出世意欲に関する調査では、明確に「出世したい」と回答したのは全体で17.7%。男女別では男性が22.3%、女性が11.7%となる。「(若手女性の)ざっくり90%が心から出世したいとは思っていないとうかがえます」と宇留野さんは言う。
管理職になる前の宇留野さんも似たような心境だった。エンジニアとして毎日案件をこなし、お客様と打ち合わせをする日々を送っていた。29歳になったばかりのタイミングで、管理職になるなんて想像していなかった。
宇留野さんを抜擢したのはソノリテ社長の齋藤和政さん。ぐったりしていた捨て猫を会社の専務として採用したり、東京ダイナマイトのハチミツ二郎さんの出版企画クラウドファンディングを支援し、その縁で社員として採用したりするなど、意外な抜擢のエピソードを持つ社長だ。
そんな齋藤社長が宇留野さんに管理職を任せた理由は、若手女性管理職のロールモデルを作ろうとしたため。宇留野さんが所属するマイクロソフト製品のサポート部署はこれまで男性が部長を務めてきたものの、近年では社員の男女比が半々となってきて、女性の管理職登用に乗り出した。
しかし宇留野さんは素直に受けいれられなかったのかもしれない。さまざまな説を思い浮かべた。厚生労働省の女性活躍関連の助成金が目的ではないか(実際には申請していない)、社長が石原さとみさん結婚報道を見たショックでご乱心したのではないか、「エースをねらえ」で宗像コーチが岡ひろみを抜擢するような感覚だろうか。はたまたAKB前田敦子さんがセンターを打診されて号泣した場面を思い浮かべたり……。それだけ動揺したのかもしれない。
先述した通り、若手女性の出世意欲はそんなに高くない。ヴィエリスが2020年に丸の内勤務している女性会社員を対象にしたアンケートによると、約半数が「自己肯定感を持てていると思わない」と回答している。なお、この調査では自分を過小評価する心理傾向を「インポスター症候群」と指摘している。自己を過小評価していると、昇格のチャンスがあっても尻込みして避けてしまうことになるというのだ。宇留野さんは「自分もこれにあてはまるのではないか」と考えている。
現実を見ると宇留野さんはじめ、若手女性が昇進に尻込みしている一方、日本政府(内閣府男女共同参画局)では女性活躍を目指している。女性活躍推進法、えるぼし認定、女性活躍加速化助成金など、さまざまな施策がある。
これを宇留野さんは「政府の推進があり、女性管理職の需要は高まるなか、供給が少ないので売り手市場であり、管理職になりたい女性には追い風だ」と見ている。