エンジニアは、技術が社会にどのような影響を与えるか、広い視点で考える必要がある
──ITエンジニアとしては、AI活用をどのように取り組めばいいのでしょうか。
三宅氏:ChatGPTは、小さなタスクに一つひとつ答えることができます。短い対話をしたり、物語を見せたり、ゲームを見せたりするのに、とても便利です。しかし、それはスクリーンに画像を表示することや、短いゲームのルーチンをつくるだけにとどまります。ソフトウエアエンジニアは全体の大規模な設計をしなければなりません。これは現在のところは、ChatGPTにはできないことです。
もうひとつはソフトウェアデザインです。Stable Diffusionはたくさんの画像を瞬時に生成できますが、世界や色調、スタイルを統一して意図した画像を生成できません。最終的にはアーティストが修正する必要があります。AIは問題を自分で解決できないため、人が常に関与する必要があるのです。人とAIのコラボレーションが必要なのです。
ガーツ氏:エンジニアは自分を問題解決者であると定義し、どんな問題でも自分が解決できる、そして与えられた問題は自分が解決すべきだと考えます。よって、私はまず「与えられた課題を解決するべきか」という部分を考えてほしいと思います。
たとえば、ある企業のエンジニアチームが、自分たちが携わっているプロジェクトが兵器開発に繋がることを知り、「このプロジェクトでは働きたくない」と言いました。「兵器の研究はしたくない」と言えるのは、それが自分の仕事であることを知っているからです。
では、戦時中の体験をシミュレートするゲーム開発の依頼だったらどうでしょう。そのゲームでハイスコアを取ったプレイヤーの中から、軍はゲームセンターから陸軍や空軍に入る人を募集することができるのです。これは「二重使用の問題」と言われています。ある目的を達成するために作ったものは、別の目的にも使えてしまうということです。このゲームを作るエンジニアは、軍人の勧誘につながることを自ら予見し、ゲームを開発すべきでないと言えるでしょうか。
COVID-19のパンデミックでは、顔認証などさまざまな技術によってマスクをつけているかどうかを検出したり、体温を検出したりできるようになりました。これらはウイルスの蔓延を食い止める緊急事態だから生まれた技術ですが、国家が濫用すれば監視社会となります。中国では、横断幕を持つ人を識別し、政治的な抗議者を標的にできるようになりました。エンジニアは、目の前の課題の解決だけでなく、大局を考えなければならないのです。
三宅氏:エンジニアはさまざまな機能を作っていますが、それらを統合して脅威になる可能性があります。部分的な視野だけでは、大きな集積の効果の予測が難しいのです。100年前に飛行機が誕生したとき、それが戦争でどう使われるかは誰にも予想ができなかったはずです。今のAIも同じです。技術者も視野をせばめずに、大きな技術の集積の結果を予測し、常に警鐘を鳴らさねばなりません。
ガーツ氏:ITは私たちの日常生活の一部ですから、それを認識することが重要です。ITエンジニアは日常生活を作っています。ITが社会に浸透すればするほど、スマートシティやスマートフォン、スマート冷蔵庫に至るまで、あらゆるものにエンジニアが関与することになります。ただのエンジニアで、仕事をするために雇われたのだと言うのではなく、社会に対する役割の責任を真剣に受け止めなければなりません。ITの持つ力を理解することは、非常に重要なことです。
──最後に日本のITエンジニアにメッセージをお願いします。
ガーツ氏:日本では、都会でも多くのスペースが神社に充てられています。一方ニューヨークでは文化的な歴史的空間は破壊されていて何もありません。東京に来て1日半で5つもの神社に行きました。それはとても美しく、人が好んで行きたい場所であることがわかります。ですから、日本のエンジニアの皆さんには、安易に古いものを新しいものに置き換えるようなことはしないでほしいと思います。
三宅氏:新しい技術が登場した現在、私たちの技術に対する姿勢を変える時に来ていると思います。20年~30年に一度訪れる、チャンスだと思います。特に若い人の多くはパイオニアになれるでしょう。新しい技術と古い技術が融合することで、未来に大きな影響を与えることができます。私は多くのITエンジニアが新旧の技術を使いこなし、新しい技術発明することを期待しています。