AIの歴史は約70年──私たちは、AIについてどれだけ知っているだろうか
──ガーツ様の経歴や現在携わっている仕事など、自己紹介をお願いします。
ガーツ氏:私の専攻は哲学で、オランダのトゥエンテ大学の助教授をしています。現在は、技術哲学、デザインの倫理・政治に焦点を当てた仕事に携わっています。
技術哲学とは、人々が特定の技術にどのように関わるかという学問です。技術を使うとはどういうことか? テクノロジーは私たちを助けてくれるのか? それとも傷つけてしまうのか? といった課題に取り組みます。
──三宅様の経歴や現在の業務など、自己紹介をおねがいします。
三宅氏:私はゲームのAIを開発しています。現在はゲーム会社に所属しながら、大学にも研究室を持っています。20年前から人工知能の研究をしており、人工知能学会委員としても活動しています。
物理学や数学などの純粋な科学には、1500年以上の歴史と基盤があります。それに比べて、AIの歴史は70年ほどです。私たちは「AIとは何か?」という質問に答えられるだけの基盤がないのです。そこでこの2年間、人工知能学会の雑誌でAIの科学者と哲学者の対談コーナーを設け、「AIとは何か?」の議論を続けています。
──事前に伺ったお話だと、お二人はゲーム好きという共通点がありますね
ガーツ氏:はい。子供のころは、ATARIやCommodore、Nintendoのファンでした。今ではゲームをする時間は少なくなりましたが、息子と一緒に時間を過ごすにはいいことだと思い、マリオなどで遊んでいます。
三宅氏:私もゲームが好きです。なかでも、多くの情報や映像、コンテンツをユーザーが作るゲームに興味があります。これは、Minecraftで培われた文化で、多くの人が参加してコンテンツを作っています。それがゲームのストーリーになっているのです。
ガーツ氏:私が子供の頃は、ゲームを自分でプレイしたいと思っていました。他の人がやっているところを見ても面白くありません。しかし現在、私の息子はYouTubeで他の人がゲームをプレイする様子を何時間も見ています。ゲームのストーリーは、プレイされることを追い越して、映画のように鑑賞されるものになったのでしょう。いつからか、ゲームには途中でムービーカットインが入るようになりましたね。
三宅氏:20年前のゲームは今に比べればCGの画質が低く、プレイ画面の映像はシンプルでした。その後容量が増え、物語に没入するためのドラマチックで美しいCGムービーが入るようになり、ストーリーも壮大になっていきました。そこで、ムービーとゲームプレイのバランスをとることが問題となり、現在では短いムービーや歌、音楽でストーリーを伝えるのがトレンドになっています。
ガーツ氏:ゲームの中で、いくつかのキャラクターが、AIによって動きますよね? たとえば、「Detroit Become Human」のようなアクションアドベンチャーゲームではAIはどのように利用されていますか。
三宅氏:そうした観点では、AIによってゲーム内のキャラクターを動かすことができるようになっています。人のような思考ルーチンを持ち、キッチンにいるならグラスや箸などのオブジェクトを使うことができます。朝起きて顔を洗う、着替える、メモを書くなど日常生活の一連の行動がAIによって定義されているのです。