現性を高めるために、「less is more」を合言葉に開発推進
チューリングでは2024年度中に、自社開発した新たなAI自動運転EVの発表を予定している。今回も種車(改造元となる車両)を使用するが、ファースト・チューリングカーとは異なり、内装はもちろん、外装もチューリングオリジナルな仕様にする予定だという。
「ファースト・チューリングカーとの最大の違いは、IVIシステムが搭載されること」と渡邉氏。IVIシステムのOSにはAndroidを採用。現在発表に向け、絶賛開発中だという。もちろんAI自動運転システムの性能もマルチモーダル生成AIの採用によりさらなる向上が期待される。
IVIシステムの搭載という言葉だけ聞くと簡単なように聞こえるが、容易なことではないと渡邉氏は言う。その理由は、分散システムの複雑性が増すからだ。「現在、車の中には約100個のECUが搭載されており、それらがお互いに通信することで、車を制御している。言葉だけで言うように、簡単には付けられないので」と渡邉氏は苦笑する。
また、人にも環境にも優しい車を実現するため、現在の車にはさまざまな機能が搭載されている。その一方で、すべてのユーザーがそれらの機能を使いこなしているとは言えない。例えば、必須機能のエアコン一つ取っても、家庭のエアコンとは異なり、運転席と助手席別々に温度の設定ができたり、内気循環や外気導入を使い分けたり、デフロスター機能がついていたりする。「チューリングとしては、ユーザーが使いこなせていない機能はなくしてもいいのではと考えている」と渡邉氏。そこでチューリングでは「less is more」という考えを社内の文化として浸透させ、できるだけシンプルな機能をシンプルにつくることを心がけているという。
このシンプルなモノづくりは、車に搭載されている機能が複雑化していることだけが要因ではない。車載ソフトウェアならではの開発環境が大きく影響している。「スマホアプリとは異なり、車載ソフトは自分たちでハードウェアもOSも用意することから始めないといけない。つまりプログラミングするまでの準備にそれなりの時間がかかってしまうのです。開発生産性を上げるためにも、シンプルなモノづくりをすること。そして再現性を高めるための仕組み作りにも取り組んでいます」(渡邉氏)
シンプルなモノづくりを追求する一方で、ユーザーへのニーズに応えることも忘れてはいない。ユーザーはスマホのような便利な体験、使い勝手を車にも求めるからだ。満足する体験とシンプルなモノづくりをいかに両立させるか。「サービスでもアプリでも何でも良いのですが、ゼロからプロダクトをつくり、リリース後の改善サイクルを回した経験のある、高度なスキルを持つソフトウェアエンジニアにどんどん入ってきてもらいたいですね」と渡邉氏は言う。
高まるソフトウェアエンジニアの需要、開発に携わる面白さとは
カーボンニュートラル宣言を発表している日本政府は「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」ことを目指している。この宣言からも分かるように、これからはEVの割合が増える一方になる。それに伴い、ソフトウェアも重厚になっていくという。
重厚なソフトウェアをより信頼性高く、効率的に開発していくために、渡邉氏はWebサービスやスマホアプリを作っていたときと同じようなワークフローを取り入れていきたいと意気込みを語る。「Webサービスやスマホアプリの世界では、自動テストやCI/CDの領域までのワークフローが整備されており、安全に生産性高く開発・更新する仕組みが整っています。車載ソフトは人命が関わるため、そう簡単に改善を重ねることは難しいと思いますが、常により安心安全、使いやすいソフトが活用できるような仕組みを実現したいと思います」(渡邉氏)
車載ソフトの開発と一口に言っても、AI自動運転システムもあれば、渡邉氏が携わっているようなIVIシステムや、車の動作を制御するソフトもある。AI自動運転システムの開発であれば機械学習やマルチモーダル生成AI、IVIシステムであれば、Webサービスやモバイルアプリを開発していた経験が生かせる。一方の後者では、組み込みやIoTの経験が欠かせない。
「今、自分が携わっていることと近しい領域であれば、自動車業界にもすんなり入っていけると思います。実際に物理的に動くものを作ってみたいという人にとっては、非常に面白い仕事だと思います」と渡邉氏はモビリティ業界に携わるソフトウェアエンジニアの面白さを語った。