開発現場のアサーション文化──「レンジャー」チームが挑む難題への勇気とは?
続いて、開発現場におけるアサーション文化の取り組みについて、橋本氏が説明した。橋本氏は、「率直に発言できる土台作り」と「会社の契約関係を超えたアサーション」の2点を意識していると話す。
率直に発言できる土台作りについて、日ごろの取り組みとして以下の3点を紹介した。
1.デイリーミーティング
スクラムチームにおいては、朝会・昼会・夕会の1日3回、デイリーミーティングを行なっている。各会では各自の課題や困りごとの解消を図るほか、朝会ではアジェンダの確認、昼会ではラジオ体操も行う。
「作業状況や困り事も含め、皆が自分以外のメンバーのことを気にして声をかけるようにしている」と語る橋本氏。1日3回のミーティングは、声かけの機会を増やすことも目的の1つだ。
2.レンジャー
スクラムチームは基本的に9人前後の開発者で組織されるが、このスクラムは3人1組の小チーム「レンジャー」から構成されている。レンジャー内では、マイクとカメラをオンにした雑談・相談を推奨しており、橋本氏は「何でも言えるチームがあることで心理的安全性が高まっている」と胸を張る。
互いの顔と声が認識できる状態で作業することの効果として、橋本氏は「メラビアンの法則」を挙げた。この法則は対人コミュニケーションに何が影響するかを表したもので、「視覚からの情報が55%」「聴覚からの情報が38%」「会話の内容が7%」の割合で影響を与えるとされている。
この法則から、「顔が見えていた方が圧倒的に話しかけやすく、コミュニケーションにおける情報量を増やすことができる」と説明した。さらに、レンジャーメンバーの組み合わせをスプリントゴールごとにシャッフルすることで、多様な人とのコミュニケーションの促進も図っている。
レンジャーを作るメリットについて、橋本氏は「学習コストの削減になるのはもちろん、苦手な分野や難しいタスクでも3人1組なら勇気を持って取り組める」とした。「1人2人ではうまくいかない場合でも、3人目の視点が加わることで物事が効率的に進むこともよくある」と語る。
3.振り返り
スプリントごとの振り返りにおいては、メンバーや互いの会社の良さなどを振り返り、相手にリスペクトや感謝の気持ちを伝えている。さらに、チャレンジや検証による失敗、意図しない行動によるミスも振り返り、なぜ失敗したのかその原因も話し合っている。
「プロセスの改善はもちろん、チームの学びとして失敗の原因を共有することで、全体の成長につなげている」と橋本氏は解説した。業務を超えた個人的なことでも気になれば真摯に向き合い、納得するまで振り返りと話し合いを行うとし、このような姿勢が発言に対する心理的なハードルを下げているのだと説明した。
心理的安全性を担保し、組織全体を成長させるアサーション
セッションの最後、室木氏は「我々はなぜアサーションするのか」というセッションタイトルに立ち返った。室木氏いわく、「アサーション文化が醸成されると、自然とチーム内の心理的安全性が保たれる」と話す。
アサーション文化圏では安心感とやりがいを持って仕事に取り組めるため、メンバーが協力して目標達成に向けて取り組める。そのため、仕事や成果の質を向上させることができ、組織全体も「リスクに強いプロ集団」へと成長できるのだ。
室木氏は「これからもっとより良いものをユーザーに届けるために、チーム力を高めてアサーションを大事にしていきたい」と、今後の決意を語ってセッションを締めくくった。