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Developers Summit 2024 セッションレポート

開発現場から空の旅の安全へ挑戦──ANAシステムズに聞く「アサーション」の極意

【15-C-1】我々はなぜアサーションするのか~現場に寄り添うANA DXの取り組み~

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航空業界発「アサーション」とは?──空の旅の安全意識は、組織の文化から

ANAシステムズ株式会社 デジタル・イノベーション部 渡辺亮介氏
ANAシステムズ株式会社 デジタル・イノベーション部 渡辺亮介氏

 続いて、同社が実践するアサーションについて渡辺氏が説明した。渡辺氏によると、アサーションは「発展的、協調的に意見や指摘をすること」と定義される。特に同社においては、「改善点や疑問点があれば、立場の違いを考慮せずに意見や指摘を伝え合う」コミュニケーションを目指しているそうだ。

 航空業界では、クルーのパフォーマンス向上による事故の減少を目的に、CRM(クルー・リソース・マネージメント)という概念が考案されている。アサーションはこの枠組みにおけるコミュニケーションスキルの一つとして、1980年代から取り組まれている手法だ。

 ANAグループでは、クルーに限らず多くの部門でアサーションしあえる関係づくりに注力している。アサーションの必要性について、渡辺氏は自身がグランドスタッフとして成田空港に勤務していた際に学んだ「ハインリッヒの法則」を挙げた。

 この法則は1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、その背後には300件の細かいエラー(ヒヤリハット)があるという考えだ。重大事故を起こさないためには、この細かいエラーの連鎖をしっかりと断ち切っていく必要がある。この時に、エラーを指摘しあうアサーションが不可欠というわけだ。

 渡辺氏は、初対面の相手とでもアサーションしあえる関係性を構築することで「リスクに強い組織」をつくれると語り、以下の3点が重要だと説明した。

1.お願いすること

 「ANAのスタッフは、普段から他の人に意見や指摘をしてもらえるように意識しながら行動している」と語る渡辺氏。立場に関係なくアサーションを受け入れる姿勢を社員全員が持っているため、スタッフは上司からフィードバックを受けるだけではなく、上司に対して率直な意見を伝えることも可能だ。渡辺氏は、「他者の声を受け入れる姿勢でフラットな雰囲気を醸成することが、アサーションの第一歩」だと示した。

2.声に出すこと

 「嫌われたくない」「恥をかかせたくない」といった個人的な都合や遠慮から、多くの人にとって、他者に直接指摘を入れることはハードルが高い。だからこそ、「自分は何のためにこの仕事をしているのかという原点に立ち返って、声をしっかり出す」(渡辺氏)ことが肝心だという。

3.感謝すること

 アサーションは心理的負担が大きい行動だからこそ、誰かが勇気を出してアサーションした際には、声に出して「ありがとう」と伝えることが大切だ。こうした感謝を伝える重要性について、渡辺氏は「次もアサーションしてくれるという関係を築くためにも、感謝の言葉は欠かせない」と述べた。

 他にも、月ごとにアサーションの事例を共有する「壁新聞」を作ったり、ヒヤリハット事例をチャットで飛ばしたりと、アサーション文化を守り続けるためにさまざまな工夫が行われている。さらに安全への意識についても、過去の航空事故に関する資料が集められた訓練施設「ANA Blue Base」への定期的な見学などを通じて高めている。

 渡辺氏はこうしたアサーション文化や安全意識の徹底について、「航空の最前線のオペレーションに関わる部門だけではなく、我々のようなシステム作りの現場においてもさまざまな形で真剣に取り組んでいる」と実感を語った。

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開発現場のアサーション文化──「レンジャー」チームが挑む難題への勇気とは?

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この記事の著者

中島 佑馬(ナカシマ ユウマ)

 立命館大学卒業後、日刊工業新聞社にて経済記者として勤務。その後テクニカルライターを経て、2021年にフリーランスライターとして独立。Webメディアを中心に活動しており、広くビジネス領域での取材記事やニュース記事、SEO記事の作成などを行う。

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川又 眞(カワマタ シン)

インタビュー、ポートレート、商品撮影写真をWeb雑誌中心に活動。

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