インプット+行動=「成長サイクル」
続く議題は「何をもって“成長した”といえるのか」について。前提として「なぜそれをやるのか」「それをやった先に何があるのか」といった、目的理解がなければ成果や評価に結びつかないとしたうえで、新多氏は戦略的な視点から説明する。
「成長という結果へコミットするにあたって、武器が1つだけの場合、その武器で対応できる環境の数は限られてしまう。複数の武器を持って幅を出していくことも戦略だ」。つまり、ソフトスキルや業務知識を身につけることも重要だというわけだ。その一方で、「1つの武器を誰にも負けないぐらい磨き込むことができれば、その過程で周辺知識も身についていくはずだ」。異なる方向性からのアプローチからでも、業務の幅や技術的な引き出しを広げることは可能である。
新多氏はこうしたキャリアの広げ方について、「知識をインプットして終わりではなく、必ず何かしらの行動をセットにする」ことを具体的手法として挙げた。キャリアの初期は大量のインプットが必要となるが、全てを取り入れようとすると混乱が生じる。そこで、学んだことを基に何かしらのアウトプットを行い、フィードバックによって軌道修正をかけることで成長のサイクルを回していくのだ。
成長を追い求めるエンジニアに向け、「『ちょっとやり方を変えてみよう』という感じで、気軽にアクションしていくことで“成長サイクル”を回していく感覚を持ってほしい」と新多氏はエールを送った。
成長サイクルを回す3アクション
アクションについて、新多氏は以下の3点を「成長サイクルを回す3つのキーアクション」として挙げた。
まずは「人を頼る」ことについて、頼る人を社内と社外に分けたうえで話が進む。
社内の人間は同じ目標に向かっているため共有できる文脈が多く、自分がどうなりたいのかをより具体的に話せるため、踏み込んだアドバイスをもらいやすい。新多氏はこうしたメリットについて、「自分の行きたい方向と周囲の状況が噛み合わないときは、同僚や上司からフィードバックをもらって修正できる」と語る。
「社内での何気ないフィードバックが、自分の新しいインプットにつながったケースも結構ある」と語る新多氏。そのうえで、「フィードバックを受動的に待っているだけではなく、積極的に取りに行く姿勢も大事だ」とした。
一方、社外の人間との関わりについては、受動的でいるだけではなかなか接点を持ちづらい。しかし、新多氏は「業務上の視点や情報の集め方が偏るというリスクを避けるためにも、社外に頼れる人が2〜3人いるといい」と、社外に頼れる人がいることの有用性について示した。
この社外メンターについては、「全く別の業界でも、昔から自分を知ってくれている人でもいい」としたうえで、「インターンや前職時代の先輩・後輩や、今日のようなカンファレンスで意気投合した方など、自分の築き上げたつながりを活用してほしい」とアドバイスを送った。
こうしたつながりを作るために、新多氏はコミュニティイベントへの登壇や、運営スタッフとしての参加も勧めている。「スタッフから“お疲れ様でした”と声をかけてもらえると、そこから話が広がるようになる」としたうえで、「発信することによって思わぬフィードバックが得られたり、また新しい何かのきっかけになったりする」と、副産物についても触れた。
2つ目のおすすめアクション「経験則を学ぶ」は、特定の事象について「その人が何を使ってどう切り抜けたか、もしくは切り抜けられなかったか」を学ぶことだ。こうしたケーススタディは100%自分の状況に合うとは限らないが、見方を変えたり抽象化したりといった行動を通じて、自分の将来につながるエッセンスを得られるという。
学習媒体は動画やPodcast、書籍など多岐にわたるが、本の場合は「一冊ずつ丁寧に読破していくより、必要に合わせてインデックス的に読んでいく方が効率がいい」と所感を述べる新多氏。「誰かに相談した際におすすめされた本は、困った状況に陥ったときにいつでも当たれるようその場で即購入している」という。
3つ目のおすすめアクションは、「寄り道をする」ことだ。これは、エンジニアリングにとどまらない周辺スキルを磨くことで、広義の技術力をつけるという趣旨のものだ。自分の職掌の前後において「誰がどういう仕事をやっているのか」「どのようにバトンが渡っていくのか」を理解することで解像度が上がり、より本質的な解決先を導き出せるという。
「チームを作って率いる際、メンバーの得意・不得意を組み合わせることで、チーム全体で生み出す価値を飛躍的に伸ばすことができた」と振り返る新多氏。他にも事業を成り立たせるために必要な要素や、顧客とその事業を取り巻く環境を知るという“寄り道”も、「『使われないものを作らない』という重要さを学べる」というキャリアへの学びにつながるとした。
こうした学びを得る機会はいつ転がってくるかわからないため、時には万全の態勢で迎え撃てない場合もある。そんな状況でも、新多氏は個人的な考えとして「フットワーク軽く、一回食らいついてみる」ことを勧める。その理由として、失敗をリカバリしてくれる仲間の存在を挙げつつ「いざやってみると、大事故につながるようなリスクの高いチャレンジはあまりなかった」と所感を述べた。