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【最新Kotlinアップデート解説】バージョン1.1からの変更点総まとめ

Kotlin最新アップデートまとめ ──連載概要とwhen・lateinit・アンダースコアの新しい使い方など

【最新Kotlinアップデート解説】バージョン1.1からの変更点総まとめ 第1回

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アンダースコアの使い方

 次に紹介するのは、アンダースコア演算子です。

分割宣言における不要な変数を表すアンダースコア

 Kotlinには、分割宣言Destructuring Declarations)という仕組みがあります。これは、オブジェクトが保持しているデータをそれぞれの変数に分割して代入するコードをまとめて記述できる仕組みです。例えば、名前と身長と体重を保持するデータクラスとしてBMIDataがあるとします。これはリスト6のようなコードとなります。

[リスト6]BMIDataデータクラス
data class BMIData(
  val name: String,
  val weight: Double,
  val height: Double
)

 そして、そのBMIDataを引数として計算されたBMI値を表示するprintBMI()関数があるとします。すると関数内では、リスト7のように引数のbmiDataからそれぞれのデータを取得する必要があります。

[リスト7]printBMI()関数内で引数からそれぞれデータを取り出すコード
fun printBMI(bmiData: BMIData) {
  val weight = bmiData.weight
  val height = bmiData.height
  val name = bmiData.name
  :
}

 このように、複数のデータがひとまとまりとなったオブジェクト(リスト7ではBMIDataオブジェクト)からそれぞれの値を取り出して変数に格納する場合、それぞれのデータごとに記述するのではなく、リスト8のようにまとめて記述することができます。これを、分割宣言(Destructuring Declarations)と言います。

[リスト8]printBMI()関数内で分割宣言を利用したコード
fun printBMI(bmiData: BMIData) {
  val (name, weight, height) = bmiData
  :
}

 ここでname変数が不要の場合には、次のコードを記述してはダメです。

val (weight, height) = bmiData

 この場合、nameの値が変数weightとして、weightの値が変数heightとして格納されてしまいます。このような事態を避けるために、分割宣言において不要な変数にアンダースコアが利用できるように、バージョン1.1でアップデートされました。この仕組みを利用すると、次のコードとなります。

val (_, weight, height) = bmiData

ラムダ式での不要な引数に利用できるアンダースコア

 同じくバージョン1.1で導入されたアンダースコアの別の使い方が、ラムダ式での不要な引数への記述です。例えば、果物のidと名前が格納されたMutableMapオブジェクトであるfruitListがあるとして、forEach()メソッドを使ってループ処理させたいとします。その場合、forEach()メソッドの引数ラムダ式はリスト9のようなコードになります。

[リスト9]MutableMapのforEach()メソッドのラムダ式
fruitList.forEach {
  (id, name)->
    :
  }

 MutableMapのforEach()メソッドのラムダ式の引数は、第1引数がキーを第2引数が値を格納するものを定義する必要があります。リスト9では、それぞれidとnameとしています。ここで、もし、第1引数であるidがラムダ式内で不要とした場合、idの代わりにアンダースコアを記述し、次のようなコードとすることができます。

fruitList.forEach {
  (_, name)->
    :
  }

ジェネリクスの型推論に利用できるアンダースコア

 バージョン1.1以降、このように利用されてきたアンダースコアが、バージョン1.7でさらにアップデートされ、ジェネリクスでの型推論に利用できるようになりました。例えば、リスト10のようなMutableMapデータがあるとします。

[リスト10]さまざまなデータ型が混在したMutableMapデータ
val taro = mutableMapOf<String, Any>(
  "name" to "田中太郎",
  "weight" to 67.2,
  "height" to 172.4,
  "age" to 35,
)

 JavaScriptのオブジェクトリテラルのような使い方をしたMutableMapデータのため、キーは文字列型で固定となっていますが、値に関しては、さまざまなデータ型が混在しています。このようなMutableMapデータから特定のデータ型のものでだけを抽出する関数として、mapFilterByValueType()を用意したとします。これは、リスト11のようなコードとなります。

[リスト11]MutableMapから特定のデータ型のものだけを抽出する関数
inline fun <K, reified V> mapFilterByValueType(map: MutableMap<K, Any>): MutableMap<K, V> {
  val newMap = mutableMapOf<K, V>()
  map.forEach {
    (key, value) ->
      if(value is V) {  // (*)
        newMap[key] = value
      }
  }
  return newMap
}

 この関数の特徴は、その関数シグネチャのジェネリクスにもあるように、引数のMutableMapのデータ型は<K, Any>である一方で、関数を利用する際にジェネリクスに、抽出する値のデータ型をVとして指定する点です。関数内のコードは、引数のmapをループ処理しながら、値のデータ型Vに合致するもののみを抽出するコードとなっています。

 そして、この関数をリスト10のtaroに適用して、Double型のみの値を抽出する場合は、次のコードを記述するのが通常でした。

val doubleOfTaro = mapFilterByValueType<String, Double>(taro)

 ところが、リスト11の関数定義を見てもわかるように、関数を利用する際のキーのデータ型は、引数のmapのキーのデータ型と同じKです。すると、引数として渡されるtaroのキーから関数利用のキーのデータ型は推論でき、わざわざStringと指定する必要がありません。このような場合、次のようにアンダースコアを利用して型推論を行うように、バージョン1.7でアップデートされました。

val doubleOfTaro = mapFilterByValueType<_, Double>(taro)

[NOTE]reified

 リスト11の関数シグネチャのジェネリクスでは、<K, reified V>のように、型パラメータVにreifiedキーワードが使われています。このreifiedは、関数内でその型パラメータを判定などで利用する場合には付与しておく必要があります。例えば、(*)では「valueのデータ型がV」という条件でデータ型パラメータVを利用しています。そのため、型パラメータVにreifiedが付与されています。また、このreifiedを利用する関数は、inline関数である必要もあります。

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この記事の著者

山田 祥寛(ヤマダ ヨシヒロ)

静岡県榛原町生まれ。一橋大学経済学部卒業後、NECにてシステム企画業務に携わるが、2003年4月に念願かなってフリーライターに転身。Microsoft MVP for Visual Studio and Development Technologies。執筆コミュニティ「WINGSプロジェクト」代表。主な著書に「独習シリーズ(Java・C#・Python・PHP・Ruby・JSP&サーブレットなど)」「速習シリーズ(ASP.NET Core・Vue.js・React・TypeScript・ECMAScript、Laravelなど)」「改訂3版JavaScript本格入門」「これからはじめるReact実践入門」「はじめてのAndroidアプリ開発 Kotlin編 」他、著書多数

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

WINGSプロジェクト 齊藤 新三(サイトウ シンゾウ)

WINGSプロジェクトについて>有限会社 WINGSプロジェクトが運営する、テクニカル執筆コミュニティ(代表 山田祥寛)。主にWeb開発分野の書籍/記事執筆、翻訳、講演等を幅広く手がける。2018年11月時点での登録メンバは55名で、現在も執筆メンバを募集中。興味のある方は、どしどし応募頂きたい。著書記事多数。 RSS Twitter: @yyamada(公式)、@yyamada/wings(メンバーリスト) Facebook<個人紹介>WINGSプロジェクト所属のテクニカルライター。Web系製作会社のシステム部門、SI会社を経てフリーランスとして独立。屋号はSarva(サルヴァ)。HAL大阪の非常勤講師を兼務。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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