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Developers X Summit 2024 セッションレポート

大企業を芯からアジャイルに──20年以上アジャイル実践してきた市谷氏が語る変革への道

【Session8】日本の組織を芯からアジャイルにする

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大規模アジャイルは必要だが、その実現は困難

 業務フローを見直すと、従来の仕事の進め方を大きく変える必要が出てくる。カスタマージャーニーを出発点としたアプローチでは、これまでのように職能ごとに業務を分断して進めるのではなく、横断的なチームが状況を総合的に判断し、実行する体制が重要になる。顧客に寄り添うためには、分割されていた業務を再び統合する方向に進む必要があり、その過程でアジャイルの考え方が手がかりとなる。

 ただし、この移行には多くの課題がある。組織構造やオペレーションを抜本的に変える必要があり、特に顧客を起点とするマインドセットや、カスタマージャーニーを探索するスキルが不可欠になる。さらに、現場で判断と実行を担う横断的なチームには権限の委譲が必須だが、たびたび稟議を待たなければ進めないような状況ではスピードが不足し、変革の効果が薄れる。自己組織化されたチームが自律的に動けるよう支援する仕組みが求められる。

 多くの階層型組織では、トップが指揮を執り、その指示のもとで業務が進められてきた。しかし、アジャイルを理想的に進めるには、階層構造を超え、必要な人々が有機的に繋がるネットワーク型組織への移行が求められる。ミッションを軸にチームを結成し、権限を与えて自律的に動けるようにする仕組みがその核心となる。

 とはいえ、階層型からネットワーク型への移行は容易ではない。ジョン・P・コッターが提唱した「デュアル・システム」のように、階層型とネットワーク型を組織内で共存させる考え方もあるが、その具体的な実現方法は不透明だ。階層型のままアジャイルを導入しても、アジャイルチームに十分な権限が与えられなければアジリティは発揮されない。仮に権限を委譲しても、評価基準や関与の仕方が曖昧なままでは、マイクロマネジメントに陥る危険がある。

階層型ではアジャイルは機能しにくい
階層型ではアジャイルは機能しにくい

 一方で、ネットワーク型への移行を試みても、必要なリソースや仕組みが整わなければ建前だけに終わる。さらに、すべてを自己組織化したチームに任せようとしても、熟達するまでには時間がかかり、孤立や機能不全に陥ることが多い。

 これらの課題に対し、市谷氏は「大規模アジャイル」の必要性を挙げる。しかし、大規模アジャイルにも問題がある。新たなフレームワークに適応する時間が長すぎるため、組織がその時間に耐えられない可能性があるのだ。ルールが多ければ覚えるべきことが増え、フレームワークを活用すること自体が負担になる。一方、従来のウォーターフォール型は慣れた方法であるため、ルールへの負担が少なく、「ウォーターフォールが楽だ」という認識に戻ってしまう傾向がある。

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「中間的生成的な場」の必要性

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...

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山出 高士(ヤマデ タカシ)

雑誌や広告写真で活動。東京書籍刊「くらべるシリーズ」でも写真を担当。

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