QAエンジニアがAI駆動開発に挑戦したところ、課題も浮き彫りに
こうした注意点を踏まえ、3名のQAエンジニアがAI駆動開発に挑戦。それぞれ異なる成果と課題が明らかになった。
QA歴7年で若干の開発経験があるAさんは、入力バリデーションの実装を担当し、テスト視点から必要な条件を網羅的に実装することに成功した。「開発の基礎知識があったことが大きく、AI駆動開発やコーディングに抵抗がなかった。また、同値分割法などのテスト技法を駆使してAIに依頼することで、網羅的な実装ができた」と齋藤氏は成功要因を分析する。
QA経験豊富なBさんは、ユーザー視点でのフィードバック実装を担当し、テスト中に気づいたUIの使いにくさを改善してユーザー体験の向上に貢献した。「豊富なテスト経験からWebアプリのUI/UXがこうあるべきという知識があり、開発側の知識向上にもつながる相乗効果があった。また、ドキュメント化して明確化する癖があるため、仕様書をどこまで書けばよいかを示してくれた」と齋藤氏は評価する。
一方、QA歴4年でプログラミング経験があまりないCさんは、ExcelファイルをWebアプリにアップロードしてデータ反映するインポート機能の実装を担当した。期待していた機能は実装できたものの、「開発の積み重ねがないため、Git操作をAIに任せすぎてコンフリクトを起こしたり、データベースの不整合に気づかずに数日実装が進まないこともあった」と課題も浮上した。
定量的な結果として、QAエンジニアがAI駆動開発を活用することで、有識者レベルの約65%の生産性を実現できることがわかった。
新たなエンジニア像──AIをパートナーにした価値創造者へ
AI活用によるチーム構造の最適化も重要で、新規開発チームと機能修正チームを分離することで効果を最大化できた。齋藤氏は「大規模で複雑な機能実装は開発経験豊富なメンバーとAIが担当し、小さなバグや改善は旧QAエンジニアがカバーすることで、全体の生産性と品質が両立できる」と説明する。
今回の実証実験を通じて得られた成果は大きく三つ。第一に、バグの早期発見と修正の一体化により、QA視点で発見したバグをAI活用によって直接修正できるようになった。第二に、仕様把握の強みを活用し、仕様書を読み込む機会が多いQAエンジニアの経験を生かして、開発エンジニアが見逃しがちな視点にも気づいて設計できるようになった。
最も重要な成果として、開発エンジニアの品質意識向上が挙げられる。「まあいいや」で見逃しそうなバリデーションエラーの未実装、例外処理の未考慮、UI/UXの細かな不一致などをチェックリストとして作業してくれることで、開発エンジニア全体の品質意識が大幅に向上した。
一方で課題も明確になった。AIの知識範囲の限界により、特定のフレームワークの最新知識が不足していると、QAエンジニアがAI任せのコーディングに陥ってしまう。また、Git操作やインフラ知識の不足、システム全体のアーキテクチャ理解不足により、部分的な修正にとどまることも多かった。
これらの結果を踏まえ、齋藤氏は「QAエンジニアは段階的に実装スキルを伸ばすべきだが、小さな改善から始めて成功体験を積むことが重要だ。成功体験を繰り返すことで知的好奇心が育ち、実装への興味も深まる」と提言する。なお、レビューの負担は経験豊富な開発エンジニアに依然として残るものの、メインの開発に専念できるメリットは大きいとした。
齋藤氏は最終的に、従来の「問題発見者」から「価値創造者」への進化を提唱した。「AIの進化により、テストやコーディングの多くがコモディティ化してきている。QAエンジニアと開発エンジニアという役割の垣根が曖昧になってくる中で、開発と品質の幅広い視点を持ちつつAIを使いこなすことが重要な鍵になる」。AIをパートナーにできる人材こそが、これからのエンジニアの理想像だと語った。
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