Vibe Codingの業務利用を阻む「安全性」と「温度差」
「AIにお願いするだけで、作りたいものが作れる。自分は完成したものを楽しむだけ」Kuu氏はこのVibe Codingが提供する開発体験の魅力をそう語る。
しかし、Vibe Codingを業務利用するとなるとどうだろうか。そこには、いくつもの壁が存在する。Kuu氏はメルカリでの経験を基に、その具体的な障壁を明らかにした。
Kuu氏はまず同社の開発組織を例に、「フロントエンドのiOSアプリ、Androidアプリ、バックエンド、しかもバックエンドはマイクロサービスでいくつものリポジトリが出てくる」とその複雑性を示し、企業開発におけるVibe Coding適用の難易度の高さを指摘する。
また、企業としてサービスを提供する以上、Vibe Codingの短期的な生産性だけを見ていては不十分だ。「メンテナンスできて、かつインシデントも起こさないような継続的な開発が求められる」とKuu氏は指摘する。
組織内のAIに対する温度差も課題だった。同社はさまざまなAIツールを導入しており、例えばGitHub Copilotであればエンジニア以外の職種でも活用されている。一方で、AI活用に対して肯定的な人もいれば、一定数慎重な人もいて、その慎重さの度合いもさまざまだった。
さらに、大企業ゆえの難しさもある。メルカリのように2000人を超える社員がいれば、1人の影響力は限定される。また意思決定のスピードについても、情報流出リスクを避けるためにセキュリティチームによるチェックが必要になるなど、時に慎重な対応が求められた。
こうした課題を踏まえ、Kuu氏はメルカリでのAI活用のハードルを2つにまとめる。
1つ目は「煩雑さ」だ。例えば、AIを利用するために申請書が必要だったり、詳細な理由を求められると、その手間ゆえに利用を遠ざけてしまう。そのため、そのような重いステップを踏まなくても、手軽かつ安全に利用できる体制を作る必要があった。
2つ目は、「AIに対する感度や熱意のギャップ」だ。日々の業務に追われてキャッチアップが難しい人と、そうでない人の間には、知識のギャップがどうしても生まれてしまう。その結果、一部の人しか使わなくなると、例えば予算確保などの運用で一人ひとりへの負担が大きくなってしまう。
Kuu氏は、これらの課題を同僚への地道なヒアリングを通して、一つひとつ解決していった。

